米国「日本へは行くな」でも…「五輪は大丈夫」の謎解きと落としどころ
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、米国が日本への渡航警戒水準を最も厳しいレベル4の「渡航中止・退避勧告」に引き上げた。これは米疾病対策センター(CDC)の基準によるもので、「日本への全ての渡航を控える必要がある」とした。
これに対し、米オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)は「米国選手の安全な参加に自信を持っている」と声明を出したのである。
日本へは行くな。でも五輪は大丈夫――。こんな理屈が通るのか。いったい、どういうことか。スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏はこう言う。
「米国務省の判断は明確なデータに基づいたものなのに対して、USOPCの発言はIOC(国際オリンピック委員会)に忖度したもの。USOPCはあくまでIOCの組織の一部です。国務省と反対の姿勢を取ることで、日本へ行くべきかどうか、米国選手がどう反応するかを見極める『アドバルーン』でもあります。
ただ、今月12日に米陸連が、千葉での事前合宿を取りやめたのは大きな意味がある。米国内における陸連の影響力は大きいですからね」
米国内も日本同様、五輪に関しては中止論が根強く、ニューヨーク・タイムズは「(東京五輪が)3週間の一大感染イベントになる」と記した。米NBCテレビが支払う放映権はIOCの最も大きな収入源だが、そのNBCでさえ「聖火リレーの火は消されるべき」と強行開催を厳しく批判している。
■バイデン大統領にはスポーツ専門の顧問集団が 「IOCにとって米国は最も重要なマーケットであり財布。パリ五輪の次はロス、2030年の冬季五輪はソルトレークシティーが立候補するといわれています。つまり、米国はIOCにとって開催国誘致に手を挙げてくれる貴重な国。その反応は常に注視しています。
今回の渡航中止には、バッハ会長も内心ドキッとしたはず。最終判断はバイデン大統領ですが、米国にはスポーツ専門の顧問集団があり、USOPCよりもはるかに大きな影響力を持つ組織とされている。大統領が五輪について決断を下す際は、USOPCではなく、この組織の判断によるものといわれています。そこで『NO』となれば、バッハ会長も中止へ舵を切るでしょう」(谷口氏)
米国と日本は、選手と五輪委員会の力関係がまるで正反対。それが今後の判断に影響しそうだ。 「米国はプロアスリートが大半を占め、選手が自立している。
『JOC(日本オリンピック委員会)の判断に委ねる』というアマ選手中心の日本とは違い、米国は選手の意思が尊重される。選手が辞退すれば、USOPCも強行はできない」(谷口氏)
USOPCの「できる」発言に効力はなさそうだ。