浜矩子「岸田氏の言葉の薄皮を一枚むけば、アホノミクス的アンコが顔を出す」〈AERA〉
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(写真はネットから借用)
経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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岸田文雄内閣が発足した。「アホノミクス」と「スカノミクス」を罵倒しまくってきた筆者は、岸田氏の経済運営を「何ノミクス」と命名してアタックにかかるべきなのか。
まだ所信表明演説も行われていない段階なので、ネーミングはやや時期尚早だ。とはいえ、善は急げ。ひとまず暫定的な名称を考えた。「アホダノミクス」である。
岸田氏は「新自由主義からの転換」とか「新しい資本主義の構築」などと言っている。
「新資本主義実現会議」の創設も打ち出した。アホともスカとも違う岸田流の打ち出しに必死だ。 だが、その実、言葉の薄皮を一枚むけば、アホノミクス的アンコが顔を出す。岸田氏は「成長と分配の好循環」を目指すのだと主張する。そこに「新自由主義からの転換」の要があると言いたげだ。しかし、この言い方は、アホノミクスの大将が、2016年1月の施政方針演説の時から使い始めたものだ。
大将は12年の第2次政権発足当初、「縮小均衡の分配政策」と決別して、「成長による富の創出」を実現すると言っていた。ところが、あまりにも過激な分配蔑視が世論の顰蹙(ひんしゅく)を買い始めた。そこで、分配にも配慮しているというアリバイづくりに乗り出した。岸田氏はこの路線を踏襲しているにすぎない。
しかも、岸田氏は「成長なくして分配なし」とも言い添えている。ここもアホノミクスの大将の16年施政方針演説を忠実になぞっている。なぜなら、それには「成長の果実無くして分配を続けることは出来ません」というくだりがある。岸田氏は自民党総裁の就任会見で「しかし分配なくして次の消費、需要も喚起されない」とも言った。要するに、分配は次の成長のための手段なのである。弱者救済のための分配政策ではない。どうみても、アホダノミクスだ。
このネーミングを、日頃からお世話になっている同志社ビジネススクールの卒業生に披露した。すると「それは『アホダノミ』にもかけての名称ですか?」と聞かれた。おお、なんと素晴らしい。筆者はそこまでは考えていなかった。だが、その通りだ。「困った時のアホ頼み」。
それがアホダノミクス男の本質でありそうだ。
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。
前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演 ※AERA 2021年10月18日号