(16)ティギーおばさんのおはなし(1905年刊)
ビアトリクス・ポター さく・え いしいいももこ氏訳
(要約)
《いなかの ある農家に ルーシーというおんなの子がいました。ルーシーは なきながら―ほんとうに わあわあ なきながら、いえにかえってきました。「あたし ハンカチ なくしたっちゃあ。ハンカチ 3まいと エプロン!」トラちゃん おまえ ハンカチとエプロン みなかった?」》
トラネコは だまって、しろいあしを あらっているだけでした。そこで ぶちのめんどりに ききました。けれど めんどりは なやへ かけこんで《わたしゃ はだしだぁ、はだしだぁ!》と、ないただけでした。
《そこで、ルーシーは、えだにとまっている こまどりに ききました。》 コマドリは、ちらりと ルーシーをみて はたけのさかいの 石のだんだんをこえて、とんでいってしまいました。《ルーシーも 石のだんだんのむこうに出てみました。》 《いえのうしろには やまがありました。》
みあげると、山はたかくそびえ、てっぺんは くもにかくれて、まるで てっぺんがないようです。《そして やまの ずいぶん うえのほうに なにか しろいものが ひろげてあるように みえました。》
《ルーシーは そのぽっちゃりしたあしで せいいっぱい はやく やまを かけのぼっていきました。》 がけっぷちの きゅうな やまみちの あしもとにルーシーのいえが みえてきました。
《そのうち、やまのとちゅうの、いわから、いきおいよく いずみが わきだしているところに きました。》
いずみの みずをうける ブリキのかんが おいてありましたが みずは かんから あふれていました。かんの大きさはたまごぐらいだったのですもの。それから つちの ぬれているところに とても小さな あしあとが ついていました。
ルーシーは さきへ はしりました。
《みちは おおきな いわのまえで、いきどまりになりました。》 そばに ものほしばが ありました。ほしばの棒は わらびのくきを きったもの。
《それに、イグサを あんだ つなと ちいさな せんたくばさみが たくさん ついていました。―でも、ルーシーのハンカチは ありませんでした。》
入り口が ありました。なかで だれかが うたっています。
《ましろく きよく ゆきのようよ!
あいだに ちいさい フリルがついてよ!
あつく なめらかーあかさびのしみも
いまは どこに きえていったかよ!》
ルーシーが 2ど 戸をたたくと うたは やみました。こわがった こえが「どなたかね?」と、ききました。
ルーシーが 戸をあけると なにが あったと おもいます?きれいな おかってでした。ふつうの農家にあるようなおかってで、《ただ ちがうのは てんじょうが とても ひくくて ルーシーのあたまに さわりそう。つぼや おなべや、ほかのものも みな たいへん ちいさいことでした。》
《あたりは きもちのいい あったかい こげくさい においが たちこめていて、テーブルのまえには、とてもでっぷりしたせのひくいひとが アイロンをにぎっていて しんぱいそうに ルーシーをみていました。》
はなもようの スカートを たくしあげ、しまもようのペチコートのうえに エプロンをかけ、はなを くすんくすんといわせ、目を ぱちぱち させました。ぼうしのしたには とげが ありました。
《「あなた だれ?」》《「あたしの ハンカチ みた?」》
《はい みましたよ、じょうちゃん。わたしの名は、ティギーウインクルともうします。はばかりながら うでききのせんたくやで ございまして」》
《そのひとは かごのなかから なにかを とりだして、アイロンだいのうえに ひろげました。》
「それ、わたしの ハンカチじゃ ないわ」
「そりゃ ちがいますよ。コマドリさんの チョッキです」アイロンがけが おわると たたんで そばに おきました。
おばさんは また べつなものを ものほしからおろしました。
「それ、わたしのエプロンじゃない?」
「いえ、ちがいます。ミソサザイ・ジェニーの テーブルかけです。スグリ酒で、よごれて あらうのに ほねがおれる。」
《おばさんは、また はなを くすんくんくんと うごかし 目をぱちぱちさせ、また 火のまえで あたためておいた アイロンをとりあげました。》
「あら、ここにあるのは、わたしのエプロンとハンカチ!」おばさんはアイロンで のばし ああら きれいになった。
《「そこの きいろくて ながくて てぶくろのように あしのついているもの なに?」》
「メンドリ・サリーさんのくつしたですよ。つめで ひっかくから かかとが すりきれてしまった!いまに はだしであるかなきゃあ」
「あっ、ここに ハンカチが もうひとう。でも、わたしのじゃない。あかいから」
「それは おとしよりの ラビットおくさんのものです。たまねぎの においが まだ ぬけない」
「あっ、あたしのが もう1まい あった」
「この しろい ちいさな おかしいもの なに?」
「ネコのトラちゃんの ゆびなしてぶくろ。じぶんで あらうので わたしは アイロンをかけるだけ」
「あれ、あたしのハンカチが もう1まい。これで ぜんぶ みつかった」
「いま のりを つけているの なに?」
《「シジュウカラ・トムの シャツのむなあて ですわ。とても きむずかしいひとでね。ていねいに しなくちゃあ」》
「さあ、アイロンがけが おわった。しあげをしたものに かぜを あてなくちゃあ」
「この かわいらしい ふわふわしたもの なに?」
「それは スケルギル農場の子羊の毛のオーバー」
「子羊たちの オーバー ぬげるの?」
「はい ぬげますとも、じょうちゃん。あちこちからの農場から はんこをおしたオーバーがきています。」
おばさんは いろいろなものを かべに かけました。コマネズミの 茶色の うわぎ、くろいビロードのようなモグラの毛皮のチョッキ、リスのナトキンの しっぽのないえんび服、小さくちぢんでしまったピーター・ラビットのうわぎ、だれのものか わからないペチコートとか。かごは、からに なりました。
《そこで、ティギーおばさんは、お茶をいれました。》だんろのまえの ベンチで ふたりは あいてを ながめながらおちゃを のみました。おばさんは ぼうしの したに ヘアピンをさかさまにしたようなものが たくさん つきでていました。
それから ルーシーとおばさんは、せんたくもののつつみをもって やまを おりはじめました。さいしょに 出てきたのはピーターラビットとベンジャミンでした。《おばさんはふたりに きれいになった ふくを わたしました。》
《ほかの どうぶつや とりたちも、みな しんせつな ティギーおばさんに あつく おれいをいいました。》
ふたりが やまのふとにきたときは ルーシーのもっている ちいさな つつみだけになりました。
ルーシーは つつみをかかえて おばさんに 「さよなら」をして おれいを いおうとしたら どうしたわけか おばさんは いってしまいました。おばさんは、 やまのほうを どんどん のぼっていきました。
ところが おばさんの ぼうしも ふくも ペチコートも どこへ いってしまったのでしょうか?
《それに おばさんは なんて ちいさくなってしまったのでしょう!》茶色で とげだらけに なってしまいました。
ティギーおばさんは はりねずみ だったのです。
(さて、あるひとは ルーシーは ゆめをみたというのです。それなら、どうして ルーシーは 3まいのハンカチをもっているのでしょう?それに わたしも やまで あの入り口をみているのですよ。それに、あの あばさんは わたしの ご親友でもあるのです。)
おわり
読んであげるなら:4才から
自分で読むなら:小学低学年から
ビアトリクス・ポター さく・え いしいいももこ氏訳
(要約)
《いなかの ある農家に ルーシーというおんなの子がいました。ルーシーは なきながら―ほんとうに わあわあ なきながら、いえにかえってきました。「あたし ハンカチ なくしたっちゃあ。ハンカチ 3まいと エプロン!」トラちゃん おまえ ハンカチとエプロン みなかった?」》
トラネコは だまって、しろいあしを あらっているだけでした。そこで ぶちのめんどりに ききました。けれど めんどりは なやへ かけこんで《わたしゃ はだしだぁ、はだしだぁ!》と、ないただけでした。
《そこで、ルーシーは、えだにとまっている こまどりに ききました。》 コマドリは、ちらりと ルーシーをみて はたけのさかいの 石のだんだんをこえて、とんでいってしまいました。《ルーシーも 石のだんだんのむこうに出てみました。》 《いえのうしろには やまがありました。》
みあげると、山はたかくそびえ、てっぺんは くもにかくれて、まるで てっぺんがないようです。《そして やまの ずいぶん うえのほうに なにか しろいものが ひろげてあるように みえました。》
《ルーシーは そのぽっちゃりしたあしで せいいっぱい はやく やまを かけのぼっていきました。》 がけっぷちの きゅうな やまみちの あしもとにルーシーのいえが みえてきました。
《そのうち、やまのとちゅうの、いわから、いきおいよく いずみが わきだしているところに きました。》
いずみの みずをうける ブリキのかんが おいてありましたが みずは かんから あふれていました。かんの大きさはたまごぐらいだったのですもの。それから つちの ぬれているところに とても小さな あしあとが ついていました。
ルーシーは さきへ はしりました。
《みちは おおきな いわのまえで、いきどまりになりました。》 そばに ものほしばが ありました。ほしばの棒は わらびのくきを きったもの。
《それに、イグサを あんだ つなと ちいさな せんたくばさみが たくさん ついていました。―でも、ルーシーのハンカチは ありませんでした。》
入り口が ありました。なかで だれかが うたっています。
《ましろく きよく ゆきのようよ!
あいだに ちいさい フリルがついてよ!
あつく なめらかーあかさびのしみも
いまは どこに きえていったかよ!》
ルーシーが 2ど 戸をたたくと うたは やみました。こわがった こえが「どなたかね?」と、ききました。
ルーシーが 戸をあけると なにが あったと おもいます?きれいな おかってでした。ふつうの農家にあるようなおかってで、《ただ ちがうのは てんじょうが とても ひくくて ルーシーのあたまに さわりそう。つぼや おなべや、ほかのものも みな たいへん ちいさいことでした。》
《あたりは きもちのいい あったかい こげくさい においが たちこめていて、テーブルのまえには、とてもでっぷりしたせのひくいひとが アイロンをにぎっていて しんぱいそうに ルーシーをみていました。》
はなもようの スカートを たくしあげ、しまもようのペチコートのうえに エプロンをかけ、はなを くすんくすんといわせ、目を ぱちぱち させました。ぼうしのしたには とげが ありました。
《「あなた だれ?」》《「あたしの ハンカチ みた?」》
《はい みましたよ、じょうちゃん。わたしの名は、ティギーウインクルともうします。はばかりながら うでききのせんたくやで ございまして」》
《そのひとは かごのなかから なにかを とりだして、アイロンだいのうえに ひろげました。》
「それ、わたしの ハンカチじゃ ないわ」
「そりゃ ちがいますよ。コマドリさんの チョッキです」アイロンがけが おわると たたんで そばに おきました。
おばさんは また べつなものを ものほしからおろしました。
「それ、わたしのエプロンじゃない?」
「いえ、ちがいます。ミソサザイ・ジェニーの テーブルかけです。スグリ酒で、よごれて あらうのに ほねがおれる。」
《おばさんは、また はなを くすんくんくんと うごかし 目をぱちぱちさせ、また 火のまえで あたためておいた アイロンをとりあげました。》
「あら、ここにあるのは、わたしのエプロンとハンカチ!」おばさんはアイロンで のばし ああら きれいになった。
《「そこの きいろくて ながくて てぶくろのように あしのついているもの なに?」》
「メンドリ・サリーさんのくつしたですよ。つめで ひっかくから かかとが すりきれてしまった!いまに はだしであるかなきゃあ」
「あっ、ここに ハンカチが もうひとう。でも、わたしのじゃない。あかいから」
「それは おとしよりの ラビットおくさんのものです。たまねぎの においが まだ ぬけない」
「あっ、あたしのが もう1まい あった」
「この しろい ちいさな おかしいもの なに?」
「ネコのトラちゃんの ゆびなしてぶくろ。じぶんで あらうので わたしは アイロンをかけるだけ」
「あれ、あたしのハンカチが もう1まい。これで ぜんぶ みつかった」
「いま のりを つけているの なに?」
《「シジュウカラ・トムの シャツのむなあて ですわ。とても きむずかしいひとでね。ていねいに しなくちゃあ」》
「さあ、アイロンがけが おわった。しあげをしたものに かぜを あてなくちゃあ」
「この かわいらしい ふわふわしたもの なに?」
「それは スケルギル農場の子羊の毛のオーバー」
「子羊たちの オーバー ぬげるの?」
「はい ぬげますとも、じょうちゃん。あちこちからの農場から はんこをおしたオーバーがきています。」
おばさんは いろいろなものを かべに かけました。コマネズミの 茶色の うわぎ、くろいビロードのようなモグラの毛皮のチョッキ、リスのナトキンの しっぽのないえんび服、小さくちぢんでしまったピーター・ラビットのうわぎ、だれのものか わからないペチコートとか。かごは、からに なりました。
《そこで、ティギーおばさんは、お茶をいれました。》だんろのまえの ベンチで ふたりは あいてを ながめながらおちゃを のみました。おばさんは ぼうしの したに ヘアピンをさかさまにしたようなものが たくさん つきでていました。
それから ルーシーとおばさんは、せんたくもののつつみをもって やまを おりはじめました。さいしょに 出てきたのはピーターラビットとベンジャミンでした。《おばさんはふたりに きれいになった ふくを わたしました。》
《ほかの どうぶつや とりたちも、みな しんせつな ティギーおばさんに あつく おれいをいいました。》
ふたりが やまのふとにきたときは ルーシーのもっている ちいさな つつみだけになりました。
ルーシーは つつみをかかえて おばさんに 「さよなら」をして おれいを いおうとしたら どうしたわけか おばさんは いってしまいました。おばさんは、 やまのほうを どんどん のぼっていきました。
ところが おばさんの ぼうしも ふくも ペチコートも どこへ いってしまったのでしょうか?
《それに おばさんは なんて ちいさくなってしまったのでしょう!》茶色で とげだらけに なってしまいました。
ティギーおばさんは はりねずみ だったのです。
(さて、あるひとは ルーシーは ゆめをみたというのです。それなら、どうして ルーシーは 3まいのハンカチをもっているのでしょう?それに わたしも やまで あの入り口をみているのですよ。それに、あの あばさんは わたしの ご親友でもあるのです。)
おわり
読んであげるなら:4才から
自分で読むなら:小学低学年から