とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

ピーターラビットの絵本」シリーズ (15)

2007年03月01日 07時41分54秒 | 児童文学(絵本もふくむ)
(15)グロースターの仕たて屋(1903年刊) 
ビアトリクス・ポター さく・え  いしいももこ氏訳
              (要約)
《ひとびとが まだ、剣や かつらや、えりに花かざりのある ながい上着を 身につけていたころ-――紳士がたが そでぐちを ひだかざりでかざり、金糸のししゅうの パデュソイ(むかし イギリスで使われた うね織りのきぬ地)やタフタのチョッキを着たころのこと――グロースターの町に、ひとりの仕たて屋が すんでいた。》
 《仕たて屋は 西門通りに小さな店をもち、朝から晩まで、しごとだいの上にあぐらをかいて、店のまどべにすわっていた。》
一日じゅう、日のあるかぎり、はりと はさみを使い、サテンや、ボンパドール(ルイ1世のころ、フランスからはやりだした髪かたちや、ふくや、いろ、ここでは、べにいろのきぬ)や、リュートストリング(つやのある きぬのきれ)などのきれをぬいあわせた。《そのころの きれやレースには、きみょうな名がついていて、そういうものは 最高だった。》
 
《仕たて屋は、ひとびとのため りっぱなふくを ぬっていたけれども、じぶんは めがねをかけた 小さな ひんそうなおとこで、しなびたゆびは まがり、ふくは すりきれ、たいへん まずしかった。》

仕たて屋は、じょうとうなきれを じょうずに むだなく 裁った。裁ちくずは たいへん 小さく 「これでは つくるとしたらねずみの チョッキだ」と、いうのだった。

 クリスマスまえの さむい日、仕たて屋は 1まいの上着をつくりはじめた。これは グロースターの市長どのの ふくだった。
《しごとだいの 上じゅうに、べにいろの 裁ちくずが ちらばった。》 「あまりぎれは なし。どれも これも ねずみのケープに ぼうしのリボン」
 ゆきが まどに つきはじめ、1日ぶんの しごとをおえ、うね織りのきぬとサテンのきれは、あとは ただ ぬうばかり。 《だいの上に のっていた。》 
すべて きちんと そろっていた。ふそくなものは なにもなし。ただ べにいろのあな糸が、あと ひとかせあれば、それでよかった。
 
《仕たて屋は 夕ぐれどき 店を出た。》 あとは、だれも いず、いるのは ねずみだけ。《というのは、グロースターの町の すべてのふるい家の はめ板のうしろには、ねずみたちが使う 小さなかいだんや ひみつのあげぶたができていた。そして、ねずみたちは 表にでずに 家から家へ 町中をかけずりまわることが できた。
 しかし、仕たて屋は、まずしく  だいどころだけをかりた じぶんの家へ ゆきの道を 足をひきずりながら むかった。

いっしょに すんでいたのは ねこだけで 名まえは シンプキンといった。《シンプキンは、家のきりもりをするのだった。》
シンプキンは、また ねずみが だいすきだった。《べつに上着にする きぬのきれを、ねずみにやるような しんせつをするわけでは なかったけれど。》

家につくと、《「シンプキン、わしらにも 金がはいるかもしれん。だが、わしはもう くたくただ。この さいごの4ペンスをもっていけ。パンを1ペンス、ミルクを1ぺンス、ソーセージを1ペンス かうのだぞ。そうだ、それから、シンプキンよ、さいごの1ペンスで、べにいろのあな糸を かってこい。その1ペンス なくすなよ、シンプキン。さもないと わしは おしまいだ。くたくたに つかれて,
もう あな糸をかう金は ないのだから」》

 仕たて屋は つかれはて 気分がわるく、炉のまえにすわると つぶやきはじめた。「これで 金も できるだろう。
市長どのは クリスマスの朝に ご婚礼。上着とチョッキの ご注文をいただた。ぎりぎり いっぱいに 裁ったので あまりぎれで できるのは ねずみのケープぐらいのもの」
 しょっきだなから ふしぎな  音がする。カタコト、カタコト、カタコトカタ!こうちゃちゃわんを もちあげると 《出てきたのは、小さな げんきな 婦人ねずみで、仕立て屋に こしをかがめて えしゃくした!》
そして《 とびおり はめ板のあなのなかに 消えていった。》

《仕たて屋は、またまた 火のそばにすわって、つめたい手をあたため、ひとりごとした――》「チョッキは、うつくしいピンクのサテン。
《さいごの銀貨をシンプキンにわたしたのは、まちがいでは なかったかな?》 《べにいろのあな糸で かがる ボタン・ホールは、20とひとつ!」》
 ところが また しょっきだなから 小さなおとがした。《カタコト、カタコト、カタコトカタ!》
《「これは、また ふしぎな!」と、》こうちゃちゃわんを ひっくりかえすと、 《小さな紳士ねずみが出てきて、仕たて屋に、こしをかがめてえしゃくした。》 しょっきjだなの上じゅうに カタコトの合唱がはじまった。どのちゃわんからも ねずみが 出てきて 《はめ板のあなに消えた。》
 
 仕たて屋は、いっそう 火のちかくにすわり、なげいた。
《「べにいろのあな糸で、かがるボタンホールは 20とひとつ!土よう日のひるまでに 仕上げにゃならぬ。そして、きょうは 火よう日だ。」
「あの えずみたちを にがしてやったのは まちがいでは なかったか?あれは シンプキンのもちものだ。やれやれ わしも もうおしまいだ。あな糸が たりぬ」》
 小さなねずみたちは これを きいていた。そして、タフタのうらじや ねずみのケープのことを ささやきあった。
 そのうち、ねずみたちは とつぜん はめ板の通路にはいりこむと 家から家へうつっていきながら、たがいに きいきいよびかわした。
 こうして シンプキンが かえってくるころには ねずみは 1ぴきも いなくなった。

 シンプキンは、ゆきが きらいで ごきげんななめで かえってきた。夕ごはんに 太った小さなねずみを食べたかったので、おかしいぞというふうに こうちゃちゃわんを見た。
《「シンプキン、わしの あな糸は どこだ?」と、仕たて屋は きいた。》
シンピキンは、糸のつつみを どびんのなかへ かくした。仕たて屋のほうを むいて うなった。ねこのこころは、「わたしのねずみは どこです?」
《「やれやれ わしは もうおしまいだ!」》仕たて屋は がっかりして ベッドにはいった。夜じゅう、シンプキンは、ねずみをさがしまわった。
 
 気のどくに、仕たて屋は、熱をだし、たいへん ぐあいがわるく、あちこち ねがえりをうった。それでも「あな糸が たりぬ。あな糸がたりぬ」と、ゆめの なかで つぶやいた。
《その日、いちにち、また つぎの日も そのつぎの日も、仕たて屋は びょうきだった。べにいろの上着は どうなるのだろう?》
《ボタン・ホールは 20とひとつ。いったい だれがきて、あれをぬってくれるというのだ?》店の戸に じょうがおりていても、ねずみたちは、じゆうに はいれた。
 外では、ひとびとが、がちょうや 七面鳥を買いにでて、クリスマスのパイのしたくに いそがしい。けれど、年とった仕たて屋とシンプキンには、クリスマスのごちそうは ない。
 
 仕たて屋は、3日 びょうきで ねていた。《そして、クリスマス・イブの夜もおそくのことだった。》月が かがやき ものおともせず、《グロースターじゅうの町の人びとは、ゆきのしたで ぐっすり ねむっていた。けれども シンプキンは、まだ あのねずみをほしがって、仕たて屋のベッドのそばで、「にゃーおと、ないていた。》
 
 ひもじいシンプキンは、クリスマスとクリスマスイブのあいだの まちなかを、 あるきまわった。そして、仕立て屋の店にいくと、あかるい光がさしていた。シンプキンが、まどから のぞくと、へやには たくさんの ろうそくが つき、はさみが、糸をきるおとがし、ねずみたちがこえ たからからに うたっていた。シンプキンは 「にゃーお」といって 戸をひっかいたが、店のなかには はいれなかった。
 ねずみたちは ただ わらって また べつの うたをうたいはじめた。
シンプキンは 「にゃーお にゃーお」と、さけんだ。
《へい こら よいこら どっこいしょ?と、ねずみたちは こたえて また うたった。》
 ねずみたちは ゆびぬきを かちかち ならしたが、どの音も シンプキンにはしゃくにさわった。戸口で くんくん鼻をならし、にゃーお と なきたてた。しつれいな ねずみが 1ぴき おこらせたので シンプキンは あばれた。
 《家のなかでは、ねずみたちが いっせいに立ちあがって、「あな糸が たりぬ!あな糸が たりぬ!」》といい、よろい戸をしめて、シンプキンが なかを見えないようにしてしまった。そして、まだ「あな糸がたりぬ」と、うたっていた。
 
 シンプキンは、みちみち かんがえて 家にもどった。《仕たて屋は、熱がさがって、やすらかに ねむっていた。》
シンプキンは、あな糸を どびんから とりだし 月のひかりのなかで じっと見た。《あの いい ねずみたちに くらべて、じぶんのわるかったことを、シンプキンは はずかしく おもった。》
 朝になると、仕たて屋は、まず かけぶとんの上の べにいろの あな糸を見たた。ベッドのそばには くいあらためたシンプキンが 立っていた。「わしは ぼろきれのように つかれた。だが あな糸が 手にはいった。」
 《仕たて屋は、ベッドから出て、ふくをきて》 外にでると 日が かがやいていた。シンプキンは 先をはしった。
「ああ、あな糸は 手にはいったが 時間がない。ボタン・ホール ひとつ つくるが やっとだ。《ああ、もう クリスマスの朝だ!》
《市長さまの ご婚礼は、きょうのひるまえ――べにいろの上着は、どうなる?》

 仕事べやに はいると きれいに そうじされ、しごと台のうえには、なんということだろう!まことに うつくしい上着と サテンのチョッキがおいてあったのだ。どの市長どのも 着たことがないような。
 なにもかも きちんと仕立てあげられ、ただ べにいろのボタン・ホールが、かがられずに ひとつ のこっていた。そして、そこに「あな糸が たりぬ」と、小さなかみに 小さな文字がかいてあった。
 《そして、このときから、グロースターの仕たて屋の 道はひらけた。仕たて屋は、たいへん じょうぶになり、かなり ゆうふくになった。》
 グロースターじゅうの 紳士たちのため、《たいへん みごとな 上着をつくった。》
 
 この人のつくる ひだかざりやカフスや えりは、《それまで だれも 見たことのないようなものだった。けれども、その どれにもまして みごとなのが、このひとのかがる ボタン・ホールであった。》 かがりめは こまかくて、《まるで 小さなねずみが 刺したように見えるのだった。》
            おわり 
読んであげるなら:5・6才から
自分で読むなら:小学低学年から
  
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