〈石破“1ヶ月天下”の危機〉「自公過半数割れ」予測に永田町大激震…「ポスト石破」「連立拡大」最悪のケース想定で自民ドタバタ
2024/10/24 集英社オンライン
衆院選の投開票日まで1週間を切り、報道各社の情勢調査で、自公の過半数割れの可能性が相次いで報じられている。自民党内では、当初の「自民で単独過半数を取れなくても、自公での過半数は大丈夫」とのムードは消え去り、悲愴感もただよう。そして早くも「過半数割れ後」を見据え、「ポスト石破」や「連立拡大」に向けたシミュレーションがささやかれ始めた。
前回、予測通りとなった朝日の情勢調査に永田町は戦々恐々
投開票日を1週間後に控えた10月20日夜、朝日新聞デジタルに情勢調査をもとにした「自公過半数、微妙な情勢」との見出しが躍ると、永田町関係者の間で衝撃が走った。
他社の調査がおおむね「自民で単独過半数割れの可能性はあるが、自公で過半数は確保できる情勢」という傾向だったなか、朝日新聞が予測した自公の獲得議席は、中心値で225議席。過半数の233議席に届かなかった。
「朝日新聞は前回の衆院選で、他社が軒並み『自民の単独過半数は微妙』と予測していたなか、『自民が単独過半数確保の勢い』と予測し、その結果通りになりました。
朝日の調査に一目置く人は多く、『自公過半数、微妙』の見出しに、自民党内の雰囲気は重いです」(全国紙政治部記者)
石破茂首相は集会で、かつて安倍晋三元首相が使ってきた「悪夢の民主党政権」というフレーズを口にした。
かつて自身が「過去に終わった政権のことを引き合いに出して『自分たちが正しいんだ』というやり方は危ない」と警鐘を鳴らしてきたフレーズを使わなければならないほど、追い込まれている。
対する野党は「今回は有権者の反応も良い。前回は相手に余裕の戦いだと思われていたが、今回は首相も応援に入ってきた。自民陣営の焦りを感じる」(立憲民主党候補者)と勢いづく。
裏金議員の追加公認、国民民主取り込み画策も…
最終盤に入り石破首相や党幹部は、19、20日に実施した情勢調査をもとに、野党候補と10ポイント差以内の選挙区を重点選挙区としてピックアップした。
「『自民王国』のはずが、安倍元首相の甥、岸信千世氏が立憲の平岡秀夫氏と激戦を繰り広げる山口2区、現職閣僚の坂井学国家公安委員長と立憲の山崎誠氏が競る神奈川5区、維新の地盤である大阪府内の全選挙区などが重点選挙区となったようです。
そして、10ポイント以上の差で負けている選挙区も多数ありますが、そういったところは『切り捨て』られた形です。最終盤は、野党候補と僅差で競り、勝てる可能性がある重点選挙区を中心に、石破首相や党幹部が応援に駆けつけます」(自民党関係者)
自公過半数割れが「朝日」の予測
この「朝日」報道で永田町や霞が関に激震が走った―。朝日新聞(10月21日朝刊)は一面トップに「自公、過半数微妙な情勢―自民、単独過半数割れの公算―衆院選情勢調査」の見出しを掲げて、次のように報じた(以下は同紙リードより)。
《現時点では、1自民党、公明党の与党は過半数(233議席)を維持できるか微妙な情勢で、自民は公示前の247議席から50議席程度減る見通し2立憲民主党は公示前の98議席から大幅増3国民民主党、れいわ新選組に勢い―などの情勢となっている》
記事中に同紙調査の議席推計が紹介されている。
自民党の「全体」:公示前247が下限184、中心値200、上限217。「選挙区」:公示前182が下限135、中心値144、上限154。「比例区」:公示前65が下限49、中心値56、上限63。
公明党の「全体」:公示前32が下限17、中心値25、上限33。「選挙区」:公示前9が下限2、中心値5、上限8。「比例区」:公示前23が下限15、中心値20、上限25。
この推計では自民が200を基数に184~217議席、公明は25を基数に17~33議席となる。基軸の200と25の計225議席が「朝日」の予測と言っていいだろう。衆院過半数233議席を8議席下回っている。
記事によると、小選挙区はインターネット調査から、比例区は電話調査から得た情勢を掲載したとしているが、筆者の耳に届いた朝日の予測数字は実際に誌面に掲載された数字とやや異なる。
石破辞任後のシナリオ
平たく言うと、自公連立政権にとって遥かに厳しい数字だったという。自民は190を基数に180~200議席、公明が27を基数に26~28議席であり、自公合わせると基数の190と27の計217議席である。
自民が現有議席から57議席減、公明は現有議席から5議席減だ。すなわち、過半数に16議席も及ばない連立与党の敗北となる。
では、その結果、どのような事態が待ち受けているのか。27日が衆院選投開票日である。「たられば」に由って論考を進めたくないが、背に腹はかえられぬ。
自公合わせて220議席を相当数割り込んだら、たとえ事前に追加公認対応や国民民主党(玉木雄一郎代表)との連立交渉を始めていたとしても、石破茂首相(総裁)と森山裕幹事長の引責辞任は避けて通れない。翌日未明になるにしても石破、森山両氏の辞任会見は不可避である。
一方、高市早苗前経済安全保障相は間違いなく出馬表明する。
NHKの極秘調査でも
加藤vs高市は、総裁選の対立構図の再来となる。それは、まさに石破・森山・岸田(文雄前首相)・菅(義偉副総裁)連合vs.高市・麻生(太郎最高顧問)・茂木(敏充前幹事長)・旧安倍派連合。再び自民党を二分しかねない権力抗争である。
2.投開票日前の調整・折衝などあり得ないので、総選挙結果が判明後、直ちによ~いドンで自陣営に有利な「次の総理」を選出するための綱引きが現執行部側と高市陣営の間で繰り広げられることになる。
結局、「次期首相」の外交日程(11月15~16日にペルーの首都リマでAPEC首脳会議と同18~19日にブラジルのリオデジャネイロでG20首脳会議)も控えているので、事前の調整は不調に終わり、11月6日召集の特別国会での首班指名選挙に突入する。
1979年10月総選挙から11月20日の第2次大平内閣発足までの「四十日抗争」の中で、同6日の首班指名選挙に同じ自民党から首相候補として大平正芳氏と福田赳夫氏の2人が名乗り上げて以来となる。この「大福戦争」は党内対立を激化させて、翌年5月のハプニング解散を招来させた。
ここまで石破氏退陣を前提にしたシミュレーションを披瀝したが、実はNHKも情勢調査を実施している(10月18~20日)。なぜか未公表であるが、情報筋によると、自民215議席、公明16議席の計231議席だったとされる。過半数に2議席不足だが、公明の16議席は「朝日」調査の下限17より1議席少ないのは得心が行かない。少な過ぎるので、おそらく過半数をギリギリ確保できると、筆者が信を置く選挙予測のプロは言う。
翌21日夜9時から約2時間、東京・永田町の自民党本部で石破総裁、菅副総裁、森山幹事長、小泉進次郎選対委員長、関口昌一参院議員会長、元宿仁自民党本部事務総長が蝟集・協議した。内容は漏れて来ないが、協議後の参加者の雰囲気は非常に暗かったというのである。結果はやはり、投票箱を開けてみないと分からない。
首相就任から解散まで戦後最短となった今回の衆院選。自民党の「政治とカネ」の問題だけでなく、旧統一教会との関係も争点の一つだ。有権者はどのような点を見て判断すべきか。ジャーナリスト・鈴木エイトさんに聞いた。AERA 2024年10月28日号より。
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自民党が旧統一教会との関係を断絶できるか。総裁選に出馬した中では、この問題解決に向け前向きな姿勢を見せていた石破茂氏と林芳正氏が、それぞれ首相、官房長官と、官邸のツートップに就いたという点は評価していました。ただ、石破氏は首相就任後の衆議院代表質問で、従来の「旧統一教会との組織的関係はない」との党の姿勢を崩しませんでした。この“ぶれ”を見ていると、万が一対応するにしても優先順位はかなり後ろなのだろうと思います。
2022年に安倍晋三元首相の銃撃事件が起こり、そこから2年たっても旧統一教会問題が争点の一つになっているということは、つまり解決できていなかったということです。自民党が議員による自己申告制の緩い点検で済ましてしまったがゆえに、関係を一方的に切られる形となった教団側の恨みも買い、次々とさまざまにリークされてしまっています。しっかりと調査をしなかったツケが回ってきているのが今です。2年前から「第三者委員会を作って外部調査するべき」と正論を主張していた村上誠一郎氏が石破政権で閣内(総務相)に入りました。これは強みになるはずで、自民党が本当に信頼を取り戻したいのであれば、石破首相はもっと強く出るべきだし、議員票が重要だった総裁選でその意思を示すのは難しかったにせよ、総裁になった以上はそれができる環境にあるはずです。
■東京24区が最注目
旧統一教会としては、岸田文雄政権から教団に融和的な政権に変われば、解散命令請求を取り下げられるのではと夢見たようです。それはさすがに無理だとわかり、となれば教団や関連団体の生き残りのためには政治家との関係が命綱になるので、これまでと変わらずコミットするだろうと見ています。
衆院選では、石破首相が党内のバランスに気を使うのか、国民を見てその期待に応えるのか、政治家としての矜持をどう見せるのかを注視したいですが、数々の選挙区で強い逆風が吹くと思います。
旧統一教会との接点が確認されている議員の選挙区で、最注目は東京24区でしょう。裏金問題も相まって比例重複なし、非公認、公明党にも見放された萩生田光一氏が逆風にどう抗うのか。陣営は必死の選挙戦を展開するはずです。劣勢とも伝えられる萩生田氏は公示日に有村治子参院議員や都連会長の井上信治氏を応援弁士に呼び、翌日に安倍昭恵氏を招聘して女性部の総決起大会を開くなど、非公認であることを感じさせない物量作戦に出ています。
神奈川18区の山際大志郎氏も厳しいと見ています。15日の出陣式に行きましたが、報道関係者の入場お断りでした。取材から逃げ回る姿勢には疑問を抱かざるを得ません。公設秘書が教団関係者であるという疑惑もあり、旧統一教会との関係を根元から断絶できているのか、シビアに見る必要があります。
ほかにも同じく神奈川4区の山本朋広氏や東京11区の下村博文氏、愛知4区の工藤彰三氏に加え、不記載問題がありながら公認され、旧統一教会との関係についてはなぜか追及を免れている福岡11区の武田良太氏など、注視すべき選挙区は挙げればきりがありません。
政治家と旧統一教会との関係は「信教の自由」や「政教分離」といった論点にすり替えられがちですが、反社会的な団体と関係を持つべきではないという、至極当たり前の話が本質です。今回の選挙は、問題が顕在化して初めての“脱”旧統一教会選挙ですが、完全に切れてはいないというのが実情。石破首相が掲げる「納得と共感」は実現されるのか。有権者は厳しい目で判断すべきだと思っています。
(構成/編集部・秦正理)
※AERA 2024年10月28日号