15日の会見で小池百合子東京都知事は突如、都立広尾病院など3病院をコロナ専門病院にすると発表した。ひっ迫するコロナ病床を確保するのが目的である。
コロナ拡大の勢いが一向に衰えず医療機関が限界を迎えるなか、小池知事が準備万端整えて、ついに最後のカードを切ったと思いきや、その実態は単に追い込まれてドタバタで決めた弥縫策に過ぎなかった。
その証拠に現場は大混乱に陥っている。広尾病院を例に挙げると、妊婦の転院に際して補助を出すと知事は表明したものの、それ以外の入院患者や通院患者への対応は完全に後手に回っている。複数の診療科を定期的に受診している患者が広尾病院に問い合わせても、どの病院に変更すればいいのかさえ助言してもらえなかったという。あとは自助努力でなんとかしてくださいということらしいのだが、広尾病院ほどの総合病院を自力で見つけるのは至難の業だ。
第一、診察データが病院間で共有されていなければ、次の病院でまたゼロから検査等を実施しなければならないことになる。患者は見放されたに等しい。
知事サイドから病院側への通告が何日前に行われたかは不明だが、少なくとも、事前に一般患者の受け入れ先などを検討・整理し準備を進めていなかったことだけは明白である。小池知事から一方的にコロナ専門病院化を告げられた現場のドタバタぶりは想像に難くない。
■小池知事は都立病院の「非」都立化を決めていた
こうした事態を招いた原因は、ひとえに小池知事の危機管理能力の欠如にある。コロナを甘く見て、次の一手を準備してこなかった失政と指弾されても仕方がない怠慢ぶりである。それほど、第3波が来襲する前の数カ月間、小池知事はコロナ拡大への備えを怠ってきた。菅政権との対立を演出することだけに全力を挙げ、医療体制の整備には目もくれなかったのである。大阪のようにコロナ専用の病院施設を臨時的に設置することもなかった。
そんな無為無策の小池知事だが、昨年3月、都立病院の将来を決する重要な方針を決定していたことをご存じだろうか。「新たな病院運営改革ビジョン」の発表である。中身は広尾病院をはじめとする8つの都立病院と7つの公社病院等を地方独立行政法人に移行するというものである。報告書には「効率的・効果的な経営」や「最小の経費で最大のサービス」などの美辞麗句が並び、効率第一主義のアウトソーシングの発想で埋め尽くされている。要は、都立病院だと色々と不便だから独法化して自由にやらせれば万事OKと言っているに過ぎない。
この結論は、小池知事一期目に都政をかき回して何の成果も上げられなかった特別顧問(当時)の一部が主導して導き出したものだ。メリット・デメリットの物差しだけしか持ち合わせていない彼らに、未知の感染症に対応できる医療体制を構築できるはずもない。もしも1年前に都立病院がすべて独法化されていたとしたら、コロナにどこまで対応できただろうか。都庁のコントロールが弱まった医療体制の限界を考えるとゾッとする。
小池知事には、都民の生命を守るための効率的で効果的な具体策を講じていただきたい。都立病院の独法化にうつつを抜かしている場合ではない。
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓。YouTubeチャンネル"都庁OB澤章"を開設
【参考】
小池都知事定例記者会見(令和3年1月15日)