ロックダウンを逃げた半年前のツケ 古賀茂明
連載「政官財の罪と罰」
新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない。8月23日の報道ステーションでは、糖尿病の持病があり、すぐに入院が必要な状態になった患者の受け入れ先を探し続けた医師が、ことごとく断られ続け、最悪の事態を覚悟して、患者に対して、このまま入院できなければ、自宅で死ぬかもしれないと非情な宣告をする映像が流された。この方は、その後入院できたが、医師の予想どおり手遅れで亡くなってしまった。
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こうした事態がこの件だけでないことは誰にでもわかる。他にも同じように悲惨なことが全国で起きていると、このニュースを見た人は感じたはずだ。今、多くの国民が、「自分が今コロナに感染したら、まともな医療を受けられない」と感じている。この不安感は、自分の命にかかわる非常に身近なものだから、当然、国民は、政府に何とかしてほしいと強く思う。
これに対して、政府が繰り出す政策は、政府・東京都が「初めて」法律に基づいて病院に対して病床確保を要請したとか、緊急事態宣言の対象地域を拡大したという程度。国民は、どうして今まで正式な要請をしていなかったのか? と逆に憤りを感じ、緊急事態宣言なんかほとんど効果がないことくらいわからないのか! と呆れ返るということが起きている。
政府が何もしないので、逆に国民が、自分たちの自由を厳しく制限する「ロックダウン」くらいしなければ感染拡大は止められないという声を上げ始めた。世論調査によっては、ロックダウンへの支持が反対を上回るという結果も出ている。
実は、1月29日号の本コラム「異次元のコロナ救済措置が必要だ」で、私は、ロックダウンと異次元の強力な救済措置の必要性について訴えた。当時、感染症法とコロナ特措法の改正が予定されていたのに、ロックダウンの法整備をすべきという議論が全くなかったからだ。立憲民主党もこうした議論には、むしろ慎重で、自民党との談合により極めて不十分な内容の法改正に応じてしまった。焦燥感にかられた私は、さらに4月9日号のコラム「官僚の思考停止が呼ぶ第4波」でも、再度この問題を取り上げて、次のように書いた。
しかし、結局、この議論はなされないまま、国会は閉会した。そして、今、感染拡大を止める手がない非常事態に陥っている。ようやく、立憲民主党などが、私権制限を含む強い措置をと叫び始めたが、菅自民党は、国会を開こうとさえしない。
横浜市長選で勝った負けたとか、総裁選や解散総選挙がどうなるかなどと言っている間に、最悪の事態は、既に始まってしまった。これからでは、まさに泥縄対応だが、それでもなお、急がなければならない。今すぐに国会を開いて、ロックダウンと必要な救済制度について議論せよと、国民は大きな声を上げなければならない。
※週刊朝日 2021年9月10日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など