韓国で10日午前、大統領専用機が空港から飛び立ち、「尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が逃亡を試みたのではないか」との臆測が出た。これに対して大統領警護庁は「定期的な性能点検飛行だ」として、尹氏の搭乗を全面的に否定した。
韓国メディアによると、韓国軍内での人権問題を調査している「軍人権センター」が10日、空軍1号機(大統領専用機)がソウルの空港から離陸したと発表した。「到着地は不明で、大統領などが乗っているかどうかは確認されていない」としていた。
尹氏については韓国法務省が9日に出国禁止措置を取っており、専用機の離陸を不審に思う声がネット交流サービス(SNS)上などで上がった。
ただ大統領警護庁は「定期的な性能点検飛行だ。一方的な主張と推測に基づく報道をしないよう求める」と発表。その後、軍人権センターも「飛行訓練だと確認した。空軍パイロット2人だけが搭乗した」との声明を出した。【ソウル福岡静哉】
韓国の法務当局は9日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の出国を禁止した。汚職捜査担当の主任検事が要請していた。尹氏に対しては、先週の非常戒厳の宣布に関して、内乱容疑などで捜査が進められている。こうしたなか野党議員らは、尹氏と与党が権力にしがみつくことで「2度目のクーデター」を起こしていると非難している。
出国禁止の措置は、尹政権の高官数人も対象となっている。
尹氏は3日夜に突如として非常戒厳を宣布し、国民に衝撃を与えた。野党は弾劾訴追案を出したが、7日の国会で投票が不成立に終わった。
与党「国民の力」の韓東勲 (ハン・ドンフン) 代表は8日、「大統領は、辞任するまで、外交を含むいかなる国務にも関与しない」と発表した。
尹氏が早期に「秩序ある辞任」をするまでは、与党と韓悳洙(ハン・ドクス)首相が国政を担うとした。
これに対し、最大野党「共に民主党」の朴贊大(パク・チャンデ)院内代表は、与党の案を「違法、違憲の2度目の内乱で、2度目のクーデターだ」と批判。
「共に民主党」の金民錫(キム・ミンソク)最高委員も、与党の韓代表にそうした決定権を「誰も与えていない」と非難した。
韓国紙コリア・ヘラルドによると、金氏は「首相と与党が、誰からも与えられていない大統領権限を共同で行使すると発表したことは、明らかに違憲だ」と述べた。
ソーシャルメディアでは、誰が国を率いているのか明確ではないと、多くの国民が懸念を表明している。
一方、国防省は9日の記者会見で、大統領が軍の指揮権を保持していると述べた。これは、北朝鮮の脅威などの外交問題が発生した場合、理論上はまだ尹氏が、大統領としての決定を出すことを意味する。
ソウルにある明知大学のシン・ユル教授(政治学)は、「大統領が考えを変えたら、いつでもまた国を率いることができる」、「尹が言い張れば、誰も止めることはできない」、とコリア・ヘラルドに話した。
毎週土曜に弾劾投票をすると
尹氏の非常戒厳の宣布をめぐっては、野党6党が「内乱行為」に当たるとして尹氏の弾劾を求めた。ソウルでは尹氏の辞任や弾劾を要求する抗議集会が開かれ、何万人もが参加した。
尹氏は4日朝に非常戒厳を解除して以来、公の場で発言していなかったが、7日朝になって「国民に不安と不便をもたらした」と謝罪。同日夜の国会本会議で、弾劾訴追案は不成立に終わった。
これに対し、野党側は尹氏の弾劾を「あきらめない」とし、弾劾訴追案の投票を毎週土曜日に実施していくと宣言している。
「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は7日、弾劾訴追の試みが失敗に終わった後、落胆した群衆に向かい、「クリスマスと年末までに必ず、この国を正常な状態に戻す。そしてそれを、クリスマスと年末のプレゼントとして皆さんに差し上げる」と述べた。
李氏は9日の記者会見で、改めて尹氏の辞任を要求。尹氏の行動が国と経済を「破壊している」と述べた。
(英語記事 South Korea orders travel ban for President Yoon)
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領:画像はネットから借用
非常戒厳を宣言したユン・ソンニョル大統領が死刑または無期懲役に処される可能性が高いとキム・ヒョンヨン元法制処長が明らかにした。キム元処長は、宣言発令の翌日である4日、メディチメディアとのインタビューで、ユン大統領が内乱罪に問われることになるだろうと述べた。ソウル高等裁判所の裁判官出身のキム元処長は、ムン・ジェイン政権で法務秘書官と法制処長を務めた。
キム元処長は、ユン大統領の非常戒厳令宣言について「我が国の憲法が要求する実質的要件と手続き的要件をすべて欠いた状態で、非常戒厳軍を通じて国会を無力化しようとする試みは明らかに内乱罪に該当する」と指摘した。彼は憲法と刑法の内容に言及し、「国家の憲政秩序を乱すとは、憲法に定められた手続きを遵守せずに憲法または法律の機能を無効化したり、国家機関を強圧的に転覆させたり、その権能の行使を不可能にすることだ」と強調した。ユン大統領の行為は憲法と刑法の両方に違反する内乱行為だと主張した。
キム元処長はパク・アンス元戒厳司令官について「国会の集会を禁止したパク元司令官の戒厳令布告は、憲法機関の権能を力によって停止させた違憲的かつ違法な行為であり、これも内乱罪に該当する」と主張した。特にパク司令官が国会のガラス窓を破って侵入し、主要な政治家を逮捕しようとした点は軍事反乱罪で処罰される可能性が高いと付け加えた。
軍事反乱罪は内乱罪よりも厳しい処罰規定を設けている。内乱罪の首謀者は死刑または無期懲役に処されるが、軍事反乱罪の首謀者は死刑以外の刑罰が許されない。キム元処長は「パク司令官のような軍人は軍事反乱罪に該当する行為を犯した」とし、「少なくとも死刑に処される可能性のある犯罪に加担したことになる」と説明した。
ユン大統領が検察出身でありながら法的問題を軽視してこのような行為を行った理由を問うと、キム元処長は「検察出身の参謀がいたなら、このような無謀な試みはなかっただろう」とし、「ユン大統領が軍部中心の『冲岩(チュンアム)派』と共謀して戒厳を謀議した可能性が高い」と分析した。「国務会議の審議や国会への通知といった憲法上の手続きを無視して軍の武力を動員しようとしたのは、法律家からすれば想像もできないことだ」と述べた。
キム元処長はユン大統領の過去の発言を引用し、彼の権力観に疑問を呈した。「ユン大統領が検察総長時代に『軍人だったらクーデターを起こしていた』と発言したことがある」とし、「生涯検察権という刃で相手を制圧してきたユン大統領が戒厳令を権力掌握の手段にしようとしたようだ」と評価した。