(18)カルアシ・チミーのおはなし(1911年刊)
ビアトリクス・ポター さく・え いしいももこ氏訳
(要約)
《あるところに、ふとっていて、気のいいハイイロリスが すんでいました。なまえを カルアシ・チミーといいました。チミーの巣は たかい木のてっぺんにあって、木の葉をあんで つくってありました。
チミーには、カルアシ・カアチャンという なまえの おくさんがいました。》
《ある日、チミーは 木のえだにすわって そよかぜをうけながら》、しっぽをふりふり うれしそうに いいました。
《「カアチャンや、クルミがじゅくした。ふゆと はるのたべものを ためておかなくては ならないな」》
カアチャンは、巣のすきまに こけをつめて ふゆのあいだのいえの いこごちを よくしました。チミーは、「はるに なって 目をさますとげっそり やせて、たべものは なしということに なるわけだ」と、ようじんぶかく いいました。
《チミーとカアチャンが くるみばやしにいってみると、もう ほかの りすたちも きていました。》 ふたりは ほかのりすと はなれたところで《せっせとクルミをっひろいました。》
ふたりは まいにち クルミばやしにでかけて とても たくさん クルミをひろいました。それを もってかえって 巣のちかくの 《なんぼんかの木のうろに、 ためこみました。》
うろが いっぱいになると、こんどは 木のたかいところにある あなの なかへいれました。まえに キツツキが すんでいた巣です。
クルミは 《からからという おとをたてて、木のずっとしたまで おちていきました。》 「あの クルミを どうやって とりだすんです?《まるで ちょきんばこ みたい》」 チミーは、「はるになれば 《ずっと やせるから だいじょうぶだよ》」と、いいました。
《ふたりは とても たくさん クルミをためました。》 《すこしも なくさなかった からです。》 でも、 じめんにあなをほって うめる ほかの りすたちは 《じぶんがほったあなを わすれてしまいます。》 《いちばんのわすれんぼは、ギンイロシッポという りすでした。》
《ギンイロシッポは あなを ほります。そして そのあなを わすれて べつなところを ほりはじめ、》 だれか ほかのひとの クルミをたべます。《そこで けんかが はじまります。ほかの リスたちも みな ほりはじめて、もりじゅう てんやわんやの そうどうになります。》
うんわるく、ちょうどそのころ わたりどりが やってきて いくつかの うたを うたいます。《おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?」と、うたいました。べつの うたは、《パン ちょっぴりに チーズなし。パン ちょっぴりにチーズなし」と、うたいました。》
リスたちは、とりのあとに ついていって うたに みみをすましました。チミーとカアチャンが じぶんたちだけで しずかに クルミをふくろに いれて いると 1わのとりが やってきて、「おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?おれのクルミ ほったぁ やつはだれだ?」と、うたいましたが、チミーは へんじも しませんでした。その とりだって べつに へんじをしてもらいたくて うたっているのではなく ただ うまれつき しっているうたを うたっているだけでした。
《けれど、ほかのりすたちは、そのうたをきくと、わーっと チミーのところへおしよせていって、チミーをぶったり、ひっかいたり、チミーのクルミのふくろをひっくりかえしたり しました。》 とりは、そうどうに びっくりして とんでいきました!
《チミーは、ごろごろ ころがされたすえ、いちもくさんに じぶんの巣のほうへにげだしました。そのあとから、たくさんのリスが、「おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?」と さけびなら、おいかけていきました。》
ほかの リスたちは チミーをつかまえると 《あの ちいさいあなのある木にのうえに ひっぱりあげると、チミーを ぎゅうぎゅう あなに おしこめました。》 チミーは ふとっているので あばらぼねが おれなかったのは ふしぎです。《「あいつを ここへおいて おこう」》 それから 《あなのなかへ「おれのクルミ ほったぁ やつはだれだ?おれのクルミ ほったぁやつは だれだ?」と どなりました。》
チミーは、あなのなかへ ころがりおちて カアチャンと いっしょに ひろったクルミのやまのうえに たおれ、ずっと 目をまわしていました。
《さて いっぽう カアチャンは クルミのふくろをもって さきに うちへ、かえっていました。》 チミーのために お茶をいれておいたのですが、かえってきません。《カアチャンは みじめな よるを すごしました。》 つぎのあさ、おもいきって チミーをさがしに いきましたが、《いじわるい ほかのリスたちが カアチャンを おいはらってしまいました。 》 チミーのなまえを よびながら カアチャンは もりじゅう さがしました。
《さて、こちらは あなのなか。チミーは気がついてみると、ちいさな コケのベッドに ねていました。》 くらくて ちかしつのようでした。
あばらぼねが いたみ チミーは うなっていました。すると チイチイという、こえがして、とても ちいさなシマリスが ろうそくをもって 出てきました。
「《「いくらかは よくなりましたかね?」》 と、ききました。そのシマリスはとても しんせつで、チミーにナイトキャップを かしてくれました。たべものは、いっぱい あります。
《シマリスは、木のうえかのほうから クルミが うえのほうから あめ・あられと ふってきた、という はなしをしました。》 《シマリスは、チミーのはなしをきくとおおわらいしました。》 シマリスは、チミーに くるみを たべなさいと すすめるのですが、チミーは、やせないと あなから出れないので あまり、たべません。
《「かないが しんぱいして まっているんです。」》 でも、シマリスは、ひとつか ふたつだけでもと すすめ、チミーは ぐんぐん ふとっていきました。
《さて、カアチャンは ひとりぽっちで また しごとを はじめていました。》 けれど キツツキのあなへは もう クルミはいれず もっと とりだしやすい木の根のあなへ いれました。《クルミは から・からと おとをたてながら おちていきました。》 ある日、カアチャンが とくべつ たくさんのクルミをいれたところ、《キィ!という こえがして ちいさい シマリスが、あわててとびだしてきました。》
「もう ちかしつは かんぜんに いっぱいに なるところですよ。居間はいっぱい。ろうかにも ごろごろ。そして―うちのひと、チビー・ハッキーっていうなまえですが、わたしをすてて でていきました。なぜ こんなに クルミがふってくるのか せつめいをしてもらいたいものですわ」
《「ほんとに すみませんでした。どなたか すんでいらっしゃるなんて しらなかったんです。」《でも、ハッキーさんは どこへいってしまったのでしょう。うちのチミーも いなくなってしまったんですよ」》
《「チビーが どこへいったかは だいたい けんとうが ついています」》
《そして、ハッキーおくさんは、キツツキのあなのところへ カアチャンをつれていきました。》 あなのなかから クルミを わる音がきこえてきました。
《そして、ふとい リスのこえと ほそいリスのこえが、いっしょに うたを うたっていましたーー
「うちのひとと わたしが なかたがい。
これを いったい どうしましょ?
いちばん いいところで 手をうって、
さあ、おまえさんは とっとと 出ていけ」》
《「あなたなら、あの あなへ もぐりこめるでしょ」 と カアチャンがいいました。》
「ええ、でも 《うちのチビーは くいつくんです》」
あなのなかから、また 《クルミをわるおとと かりかりと かじるおとが きこえました。》うたも きこえます。
《「ああ よいこらさのさ!
ああ これわいさのさ!
よいこら これわいさのさ!」》
カアチャンは、あなからのぞいて チミーを よびました。チミーは、《「おまえか、カアチャンや、や、ほんとに カアチャンだ!」》 チミーは 木をのぼり、あなから かおをだし カアチャンにキスしました。ふとって あなから でられません。チビーは あなの したで くすくす わらって いました。
《こんなちょうしで 2しゅうかん すぎました。》ところが、ある日、おおあらしがおこって 木のてっぺんが おれてしまいました。》
チミーは あなからでて おおあめのなかを カアチャンといっしょに かさをさして いえへ かえりました。
けれども、チビーは つらいが もう1しゅうかん のじゅくして がんばりました。
《そのうち、ある日、おおきなクマが出てきて もりを とおりぬけました。》くんくん においを かいでいるようでした。
そこで、チビーは いそいで いえに かえりました。
そして、いえにつくと はなかぜを ひいていることに 気がつきました。のじゅくよりも もっと つらい おもいを しました。
《それからあと、チミーとカアチャンは、クルミは ものおきにしまって、ちいさい なんきんじょうを かけることにしています。》
《さて、あのとりは、いまでも シマリスたちを みるたびに、「おれのクルミ ほったぁやつは だれだ?おれのクルミ ほったぁやつは だれだ?」と うたいます。でも、だれも へんじなんか してやりません。》
おわり
読んでであげるなら:4才から
自分で読むなら:小学低学年から
ビアトリクス・ポター さく・え いしいももこ氏訳
(要約)
《あるところに、ふとっていて、気のいいハイイロリスが すんでいました。なまえを カルアシ・チミーといいました。チミーの巣は たかい木のてっぺんにあって、木の葉をあんで つくってありました。
チミーには、カルアシ・カアチャンという なまえの おくさんがいました。》
《ある日、チミーは 木のえだにすわって そよかぜをうけながら》、しっぽをふりふり うれしそうに いいました。
《「カアチャンや、クルミがじゅくした。ふゆと はるのたべものを ためておかなくては ならないな」》
カアチャンは、巣のすきまに こけをつめて ふゆのあいだのいえの いこごちを よくしました。チミーは、「はるに なって 目をさますとげっそり やせて、たべものは なしということに なるわけだ」と、ようじんぶかく いいました。
《チミーとカアチャンが くるみばやしにいってみると、もう ほかの りすたちも きていました。》 ふたりは ほかのりすと はなれたところで《せっせとクルミをっひろいました。》
ふたりは まいにち クルミばやしにでかけて とても たくさん クルミをひろいました。それを もってかえって 巣のちかくの 《なんぼんかの木のうろに、 ためこみました。》
うろが いっぱいになると、こんどは 木のたかいところにある あなの なかへいれました。まえに キツツキが すんでいた巣です。
クルミは 《からからという おとをたてて、木のずっとしたまで おちていきました。》 「あの クルミを どうやって とりだすんです?《まるで ちょきんばこ みたい》」 チミーは、「はるになれば 《ずっと やせるから だいじょうぶだよ》」と、いいました。
《ふたりは とても たくさん クルミをためました。》 《すこしも なくさなかった からです。》 でも、 じめんにあなをほって うめる ほかの りすたちは 《じぶんがほったあなを わすれてしまいます。》 《いちばんのわすれんぼは、ギンイロシッポという りすでした。》
《ギンイロシッポは あなを ほります。そして そのあなを わすれて べつなところを ほりはじめ、》 だれか ほかのひとの クルミをたべます。《そこで けんかが はじまります。ほかの リスたちも みな ほりはじめて、もりじゅう てんやわんやの そうどうになります。》
うんわるく、ちょうどそのころ わたりどりが やってきて いくつかの うたを うたいます。《おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?」と、うたいました。べつの うたは、《パン ちょっぴりに チーズなし。パン ちょっぴりにチーズなし」と、うたいました。》
リスたちは、とりのあとに ついていって うたに みみをすましました。チミーとカアチャンが じぶんたちだけで しずかに クルミをふくろに いれて いると 1わのとりが やってきて、「おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?おれのクルミ ほったぁ やつはだれだ?」と、うたいましたが、チミーは へんじも しませんでした。その とりだって べつに へんじをしてもらいたくて うたっているのではなく ただ うまれつき しっているうたを うたっているだけでした。
《けれど、ほかのりすたちは、そのうたをきくと、わーっと チミーのところへおしよせていって、チミーをぶったり、ひっかいたり、チミーのクルミのふくろをひっくりかえしたり しました。》 とりは、そうどうに びっくりして とんでいきました!
《チミーは、ごろごろ ころがされたすえ、いちもくさんに じぶんの巣のほうへにげだしました。そのあとから、たくさんのリスが、「おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?おれのクルミ ほったぁ やつは だれだ?」と さけびなら、おいかけていきました。》
ほかの リスたちは チミーをつかまえると 《あの ちいさいあなのある木にのうえに ひっぱりあげると、チミーを ぎゅうぎゅう あなに おしこめました。》 チミーは ふとっているので あばらぼねが おれなかったのは ふしぎです。《「あいつを ここへおいて おこう」》 それから 《あなのなかへ「おれのクルミ ほったぁ やつはだれだ?おれのクルミ ほったぁやつは だれだ?」と どなりました。》
チミーは、あなのなかへ ころがりおちて カアチャンと いっしょに ひろったクルミのやまのうえに たおれ、ずっと 目をまわしていました。
《さて いっぽう カアチャンは クルミのふくろをもって さきに うちへ、かえっていました。》 チミーのために お茶をいれておいたのですが、かえってきません。《カアチャンは みじめな よるを すごしました。》 つぎのあさ、おもいきって チミーをさがしに いきましたが、《いじわるい ほかのリスたちが カアチャンを おいはらってしまいました。 》 チミーのなまえを よびながら カアチャンは もりじゅう さがしました。
《さて、こちらは あなのなか。チミーは気がついてみると、ちいさな コケのベッドに ねていました。》 くらくて ちかしつのようでした。
あばらぼねが いたみ チミーは うなっていました。すると チイチイという、こえがして、とても ちいさなシマリスが ろうそくをもって 出てきました。
「《「いくらかは よくなりましたかね?」》 と、ききました。そのシマリスはとても しんせつで、チミーにナイトキャップを かしてくれました。たべものは、いっぱい あります。
《シマリスは、木のうえかのほうから クルミが うえのほうから あめ・あられと ふってきた、という はなしをしました。》 《シマリスは、チミーのはなしをきくとおおわらいしました。》 シマリスは、チミーに くるみを たべなさいと すすめるのですが、チミーは、やせないと あなから出れないので あまり、たべません。
《「かないが しんぱいして まっているんです。」》 でも、シマリスは、ひとつか ふたつだけでもと すすめ、チミーは ぐんぐん ふとっていきました。
《さて、カアチャンは ひとりぽっちで また しごとを はじめていました。》 けれど キツツキのあなへは もう クルミはいれず もっと とりだしやすい木の根のあなへ いれました。《クルミは から・からと おとをたてながら おちていきました。》 ある日、カアチャンが とくべつ たくさんのクルミをいれたところ、《キィ!という こえがして ちいさい シマリスが、あわててとびだしてきました。》
「もう ちかしつは かんぜんに いっぱいに なるところですよ。居間はいっぱい。ろうかにも ごろごろ。そして―うちのひと、チビー・ハッキーっていうなまえですが、わたしをすてて でていきました。なぜ こんなに クルミがふってくるのか せつめいをしてもらいたいものですわ」
《「ほんとに すみませんでした。どなたか すんでいらっしゃるなんて しらなかったんです。」《でも、ハッキーさんは どこへいってしまったのでしょう。うちのチミーも いなくなってしまったんですよ」》
《「チビーが どこへいったかは だいたい けんとうが ついています」》
《そして、ハッキーおくさんは、キツツキのあなのところへ カアチャンをつれていきました。》 あなのなかから クルミを わる音がきこえてきました。
《そして、ふとい リスのこえと ほそいリスのこえが、いっしょに うたを うたっていましたーー
「うちのひとと わたしが なかたがい。
これを いったい どうしましょ?
いちばん いいところで 手をうって、
さあ、おまえさんは とっとと 出ていけ」》
《「あなたなら、あの あなへ もぐりこめるでしょ」 と カアチャンがいいました。》
「ええ、でも 《うちのチビーは くいつくんです》」
あなのなかから、また 《クルミをわるおとと かりかりと かじるおとが きこえました。》うたも きこえます。
《「ああ よいこらさのさ!
ああ これわいさのさ!
よいこら これわいさのさ!」》
カアチャンは、あなからのぞいて チミーを よびました。チミーは、《「おまえか、カアチャンや、や、ほんとに カアチャンだ!」》 チミーは 木をのぼり、あなから かおをだし カアチャンにキスしました。ふとって あなから でられません。チビーは あなの したで くすくす わらって いました。
《こんなちょうしで 2しゅうかん すぎました。》ところが、ある日、おおあらしがおこって 木のてっぺんが おれてしまいました。》
チミーは あなからでて おおあめのなかを カアチャンといっしょに かさをさして いえへ かえりました。
けれども、チビーは つらいが もう1しゅうかん のじゅくして がんばりました。
《そのうち、ある日、おおきなクマが出てきて もりを とおりぬけました。》くんくん においを かいでいるようでした。
そこで、チビーは いそいで いえに かえりました。
そして、いえにつくと はなかぜを ひいていることに 気がつきました。のじゅくよりも もっと つらい おもいを しました。
《それからあと、チミーとカアチャンは、クルミは ものおきにしまって、ちいさい なんきんじょうを かけることにしています。》
《さて、あのとりは、いまでも シマリスたちを みるたびに、「おれのクルミ ほったぁやつは だれだ?おれのクルミ ほったぁやつは だれだ?」と うたいます。でも、だれも へんじなんか してやりません。》
おわり
読んでであげるなら:4才から
自分で読むなら:小学低学年から