尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と韓国の運命を左右する弾劾審判がハイスピードで進められている。
憲法裁判所は、2月6日から終日審判を行い、2月中に弁論期日をすべて終える計画だという。早ければ3月初めにも結論が出る見通しだが、一方で裁判官たちの政治的偏向に対する世論の批判が強まっており、その憲法裁が下す結論に国民が納得できるかどうか不透明な情勢になってきている。
私的勉強会が「司法府の出世組織」に
憲法裁判所は、3審制が原則の裁判所とは違って、合議体による単審判決を下す。9人の定員の憲法裁判官は、政党を解散させることも、国会で作った法律を無力化させることも、そして国民の手で選んだ大統領を弾劾することもできる。それこそ「万能」の司法的権限を持っている。
ところがその憲法裁判所に「ウリ(我が)法研究会」という革新系(進歩系)判事の勉強会出身者が多数布陣し、尹大統領弾劾審判に対する政治的偏向疑惑が浮上している。
「ウリ法研究会」とは1989年革新性向の判事7人と弁護士3人が作った勉強会で、1995年以後は判事だけが会員として加入できるようになった。初代会長を歴任した朴時煥(パク・シファン)最高裁判事は2005年、「ウリ法研究会」論文集に寄稿した文で、「わが会は、会員の実力向上や力量増進など、個人の発展を目標とする会ではない。裁判所内の問題意識と理想を持った会員が集まって裁判あるいは司法過程に参加することで裁判所を理想的な方向へ変化させることを目標にする団体ではないかと考える」と明らかにした。これはこの団体が単なる勉強会ではなく「理念結社体」として存在するという意味と解釈できる。
ウリ法研究会は、革新政権である盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代、同研究会出身の康錦実(カン・グムシル)法務長官、朴時煥最高裁判事などが任命されたことで大きく躍進する。勉強会出身者が要職に就いたことで「司法府の出世組織」としてクローズアップされ、数十人に過ぎなかった会員が一気に150人まで増え規模を拡大した。
ただ、閉鎖的な組織運営と政治的偏向性によって、「司法府内の〈ハナ会〉」という非難を浴びた。「ハナ会」とは、陸軍士官学校出身の少壮派軍人たちで組織された秘密結社で、1979年の軍事クーデターを通じて全斗煥(チョン・ドファン)政権誕生に大きな役割を果たした組織のことだ。ハナ会は全斗煥政権時代に政界を掌握して強大な影響力を及ぼしたが、金泳三政権によって強制解散させられた。
李明博(イ・ミョンバク)政府発足後は、ウリ法研究会所属の判事らが「不偏不党でなければならない」という倫理規定に反する行動を犯したり、大統領を批判する書き込みを堂々と掲載するなどして、社会的な議論を巻き起こした。すると、2011年、ウリ法研究会の第2代会長を務めた金命洙(キム・ミョンス)最高裁長官が初代会長を務める別の革新系判事の勉強会である「国際人権法研究会」が設立されるが、一部からは「第2のウリ研究会」とも呼ばれた。
司法府を侵食
2017年、文在寅(ムン・ジェイン)政権の誕生によって9年ぶりに革新政権が発足すると、ウリ法研究会は「第2の全盛期」を迎える。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾とあいまって、梁承泰(ヤン・スンテ)最高裁長官も「裁判取引疑惑」(上告裁判所の設置を目的に朴前政権と裏取引をしたなどの疑惑)で弾劾されるなど、「司法府内の積弊清算」作業が行われた。この時期に、80人余りのエリート裁判官が一度に辞職してしまう未曽有の事態が起きた。
すると文政権の初代最高裁判長を務めた金命洙裁判官は、彼らが出ていった空席を、ウリ法研究会および国際法研究会出身者で埋め尽くした。その結果、最高裁では14人中7人、憲法裁判所では9人中5人の裁判官がウリ法研究会・国際人権法研究会出身者になるなど、司法府の政治化が進んでしまった。
約3000人の裁判官のうち、10%に過ぎないウリ法研究会・国際人権法研究会出身の“革新裁判官”が司法府最高位層の過半数を掌握している状況は、文在寅・司法府の左傾化の象徴とされ、今も批判の対象になっている。
尹錫悦大統領の弾劾審判を進めている憲法裁には、現在8人の裁判官(現在は1人が空席)のうち3人が同研究会出身だ(残り5人のうち2人が保守系、3人が中道)。そして「所長代行」を務めながら弾劾審判を主導している文炯培(ムン・ヒョンベ)裁判官は、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表と司法研究院の同期で親しい間柄として知られている。
与党「国民の力」は文裁判官が李在明代表の公職選挙法違反事件の一審有罪判決に対して「納得いかない」と周辺に話していたと主張した。また、過去に自身のSNSで政治的に偏向した投稿を数多く乗せたとも指摘している。
裁判官が左派の陰謀論にまで同調
例えば文裁判官は「セウォル号沈没事件は国情院の仕業」との陰謀論に基づいて描かれた映画『ダイビング・ベル セウォル号の真実』を鑑賞後、「果たして真実は何だろう?」という投稿をSNSに載せたが、そのことを国民の力は「左派の陰謀論に同調した」と批判している。
さらに同裁判官は、北朝鮮の魚雷による哨戒艦「天安(チョンアン)艦」沈没事件が発生した2010年の投稿文では、「平和のために北朝鮮により多く与えるべきだ」という主張を展開したという。
さらに、同裁判官がフォローしているアカウントは大半が左派と分類される有名人のアカウントであることについても「政治的に左に傾いた証拠だ」と主張している。
同じくウリ法研究会出身のイ・ミソン、チョン・ゲソン裁判官に対しては、家族が弾劾審判と直接・間接的に関連していることが問題点とされている。イ・ミソン裁判官の妹は、民弁(民主社会のための弁護士の会)の「尹錫悦退陣特別委員会」副委員長で、チョン・ゲソン裁判官の夫は国会の弾劾訴追代理人団に合流しているキム・イス弁護士と同じ法律事務所に勤務中であり、尹大統領弾劾を求める声明にも名前を載せたことが知られている。これらを国民の力側は「審判の家族が選手としてプレーしている」として強く批判している。
革新政党に肩入れする裁判官
保守紙の『朝鮮日報』をはじめとするメディアの一部からも、憲法裁裁判官の最近の行動について、公正性に対する懸念を指摘している。
例えば、任命のたった2日後に弾劾された放送通信委員長に対する弾劾審判で、ウリ法研究会出身の3人組は全員「弾劾引用」意見を出し、共に民主党が主導した29回にわたる弾劾事件に対しても「弾劾乱発ではない」という結論を下したことなどが指摘された。
10件を超える検察人事と政府人事に対する弾劾審判が数カ月間も処理されていないままなのに、禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長が提起した権限争議審判「マ・ウンヒョク憲法裁判官候補者の任命保留に対する憲法訴願」を最優先に処理する動きに対しても批判が起きている。崔相穆(チェ・サンモク)権限代行は国会が推薦した3人の憲法裁判官のうち2人だけを任命した。
マ・ウンヒョク候補は共に民主党が推薦した2人の憲法裁判官候補のうちの1人だが、国会推薦は与野党が1人ずつ、与野党合意で1人が推薦されなければならないという点を挙げて裁判官は任命しなかった。このマ・ウンヒョク裁判官もウリ法研究会出身であり、米国を光州民主化運動の民間人虐殺の背後に名指しするなど、親北性向が強い「仁川地域人民労働者連盟」に所属していた過去があるバリバリの左派裁判官なのだ。
しかし、これらの批判に対して憲法裁は、「裁判官の個人性向を画一的に断定し弾劾審判の本質を歪曲している」「司法府の権限侵害の可能性がある」としてむしろ攻勢に出た。共に民主党の庇護の下、司法府の権威を前面に出して批判的な声を静めようという考えだろう。
ダブルスタンダードを駆使する裁判官
ただ、ウリ法研究所といった私的組織が韓国国民の間で司法部に対する不信をもたらしているのは事実である。3日に発表された世論調査では、憲法裁が「中立的ではない」と答えた人が46%で、「中立的」という回答(45%)より誤差内でリードする結果も出た。
2020年、李在明・共に民主党代表が京畿道知事時代にやったとされる虚偽事実公表事件の裁判で、二審では当選無効になる判決を受けていたが、最高裁はこれを二審判決を無罪の趣旨で破棄、審理を差し戻した。これも最高裁長官の金命洙と盧貞姬(ノ・ジョンヒ)という2人のウリ法研究会の裁判官が無罪意見を出したことが決定的だった。
曺国(チョ・グク)元法務部長官の子供の入試不正に関連する裁判が5年間も遅れたのも、金命洙最高裁長官が事件をウリ法研究会出身の裁判部に割り当てたためだ。裁判が遅れたことで曺元長官は国会議員になることができた。
現在の状況も似ている。大統領に対する弾劾審判はまるで暴走機関車のように猛スピードで進行しているのに対し、3年も延ばし続けてきた李在明代表の罪が問われている5つの裁判は、2つの裁判で1審が宣告されただけで、残りの3つはまだ1審判決も出ていない。
もし、5月に早期大統領選挙が実施されて、そこで李在明代表が大統領に選出された直後に李代表に対する最終有罪判決が下された場合には、また次期大統領を選ぶための選挙態勢に入らなければいけない。司法府のダブルスタンダードは、韓国社会の混乱にさらに拍車をかけるものになっている。