毎日新聞2018年5月5日 東京朝刊
【ロンドン矢野純一】ノーベル文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーは4日、今年のノーベル文学賞の選考を見送ると発表した。2019年の受賞者を発表する際、今年の受賞者も公表する。アカデミーのメンバーの夫によるセクハラや情報漏えい疑惑が昨年明らかになって以降、アカデミーの信頼が失われると共に、メンバー内の意見の対立で、選考作業に支障が出るおそれが指摘されていた。
アカデミーは声明で「(セクハラや情報漏えいを巡り)次の受賞者を選考する前に、信頼を回復する必要がある」として、今年の受賞者の選考を来年に先送りする方針を発表した。
ノーベル財団はアカデミーの決定の受け入れを表明。財団は声明で「延期の決定は、ノーベル賞の長きにわたる評判を維持する助けとなる」と決定を評価し、信頼回復と組織改革への期待を示した。
昨年11月、アカデミーのメンバーで詩人カタリーナ・フロステンソン氏の夫の写真家ジャンクロード・アルノー氏による性的暴行疑惑を地元メディアが報道。アルノー氏がアカデミーから資金提供を受け文化活動をしていたほか、妻から聞き出したノーベル文学賞選考を巡る情報を漏えいしていた疑惑も浮上していた。
第三者機関の調査で、女性18人がアルノー氏からセクハラ被害を受けていたことが判明。セクハラを告発する1996年の手紙をアカデミーが放置していたことなども明らかになった。
アカデミーは先月、「いかなるセクハラ行為も強く非難する」とした声明と共に、信頼回復に向けて組織改革などを行うことを明らかにした。ロイター通信によると、セクハラ疑惑を指摘されているアルノー氏と、フロステンソン氏は疑惑を否定しているという。
メンバー間では、フロステンソン氏の活動停止を巡り意見が対立し事務局長が辞任。メンバーは終身会員で辞任できず、18人中8人が活動を停止していた。
ノーベル文学賞受賞者は例年10月に発表され、12月10日に授賞式が開かれる。文学賞で受賞者が決まらないのは1949年以来。アカデミーは1786年にスウェーデン文学を発展させる目的で同国国王によって設立された。作家や言語学者、歴史学者ら18人のメンバーで構成され、1901年の同賞創設時から受賞者を選考している。