「恩を仇で返した」——米現地時間2月6日、ドジャース・大谷翔平(30)の元通訳で、銀行詐欺罪などに問われていた水原一平被告(40)が公判で量刑を言い渡された。出廷した米連邦検察局のジェフ・ミッチェル連邦検事補は、大谷の怒りを代弁するかのようにこう語り、水原被告を厳しく批判した。
【写真】今も販売される大谷翔平の「不名誉なギャンブルコラ画像」。ロン毛とぽっちゃり化が進んだ水原被告の近影
公判前、水原被告は連邦地裁に減刑を求める申立書を提出し、当時、経済的に困窮していたこと、休みのない「過酷な労働環境」がストレスになっていたことなどを訴えた。しかし、ミッチェル検事補はそれらの主張をことごとく“論破”したのだ。
(中略)しかしながら被告は嘘をつき、騙し、そして盗んだ。被告は大谷選手に嘘をつき、大谷選手のスポーツエージェントに嘘をつき、経理担当に嘘をつき、銀行に嘘をつき、そして仮想通貨でお金を失ったなどと胴元にも嘘をついた」(ミッチェル検事補)
嘘に嘘を重ねた水原被告。なかでも検事補が「深刻な被害」だと主張したのは、賭博騒動が発覚する直前、水原被告が米スポーツ専門局「ESPN」の取材でついた“嘘”だ。
昨年3月19日は、ドジャース対パドレスの開幕第1戦が韓国・ソウルで行われた当日だった。その時点では少なくとも450万ドルが大谷の口座から違法な胴元側に送金された事実が判明しており、同局の取材に対し水原被告はこう答えていた。
《これはギャンブルによる借金です。私は大谷選手に助けを求めた。大谷選手が自分のコンピューターにログインしてはじめの送金を行い、ブックメーカー(胴元)からの指示に従って目的として『ローン』と打ち込むのを、私は横で見ていた》
そして翌日、水原被告はドジャースを解雇される。その日のESPNの記事には上記の水原被告の主張が掲載され、ニュースは日米を駆け巡った。しかし被告はその後のESPNの追加取材に対し、前言を撤回した。
《私は嘘をついていた。大谷選手はギャンブルの借金について知らず、送金も行っていない》
もはや取り返しのつかない嘘だった。
「水原は大谷のスケープゴート説」を生んだ“罪深い嘘”
このトラブルが報じられる時、水原被告がついた“最初の嘘”は、大谷にとって「回復が難しい名誉毀損」になったとミッチェル検事補は指摘している。
「ESPNの記事は世界に衝撃をもたらし、大谷選手自身もギャンブルに関与していたのではないかという憶測が広がった。被告の嘘によって、MLB(米大リーグ機構)までもが大谷選手の捜査に乗り出した。そして米捜査当局が『大谷選手は被害者であり、ギャンブルに関与したことを示す証拠は一切ない』と何度となく説明しても、人々は信じようとはしなかった」
ネット上には、大谷がギャンブルにハマっているかのような“コラ画像”が流出し、それらの画像をカードにして販売する人々も現れた。実際、アメリカで野球カードなどを販売する大手オンラインサイトを確認すると、大谷がスロット台の前で目を真っ赤にしているかのような画像が印字されたカードが、20ドル前後で現在も販売されているのだ。
「この事件は国際的な注目を集めた。それは水原被告がESPNの記者に嘘をついたという事実のためだ。好むと好まざるとに関わらず、世界は耳を傾けていた」
水原被告は一体、どこでボタンを掛け違えたのだろうか。
◆取材・文/水谷竹秀(みずたに・たけひで):ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。2022年3月下旬から2か月弱、ウクライナに滞在していた。