【内田樹氏に聞く(上)】 五輪中止で電通倒産の確率高い
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仏文学者で作家の内田樹氏に、「コロナ後の社会」を聞いた。東京一極集中や教育の在り方、オリンピックの開催の行方と電通、政治・経済等の動向に至るまで“内田節”で、ざっくばらんに語った。コロナ禍の現在とその後の社会は、現在とは一変せざるを得ないのではないかという。(聞き手は角田裕育)
▼オリンピックはどうなる? ーーオリンピックは来年出来るのでしょうか?
内田 アメリカ国内の感染が収まらなければ、選手団が来ない。アメリカが参加しないオリンピックをNBCが放映する意味がないので、アメリカは五輪中止を求めてくるんじゃないですか。ヨーロッパの国も、ブラジルも、インドも年内の選手選考は無理でしょう。
日本政府と組織委が開催にこだわっているのは、止めたら電通が潰れるからじゃないですか。 ーー復興五輪ということで石原慎太郎都知事(当時)が、東日本大震災直後に提案したと記憶していますが。
内田 復興に充てるはずの資源を全部東京に回したから、東北の復興はむしろ遅れたと思います。五輪招致が決まった直後から、建築関係の人件費も部材費も急騰しましたから、五輪は復興の妨げでしかなかった。
ーー当時(2011年)、岩手で「復興五輪」案を知りましたが、「仙台ならわかるけど、何故東京でやるのが復興五輪なの?」と現地の人と笑っていました。
内田 その通りだと思います。仙台や会津若松か岩手でやるなら意義がありますけれど。
ーー前回の1964年の東京五輪は先生は東京でどうお迎えになりましたか?
内田 中学2年生でしたが、興味なかったです。見に行かなかったし。テレビで少し見たぐらいですね。市川崑の記録映画は学校で見に行きましたけど。
ーー何故、興味が沸かなかったのですか?
内田 東京五輪開催が決まってから、急激に開発が進んだからです。子供たちの遊び場がなくなった。雑木林は刈り取られ、川や池は埋め立てられ・・・。江戸時代と地続きだったような風景が東京にもあちこち残っていたんですけれど、それが全部消えた。その前のローマ五輪のときはまだ興味を持ってラジオにかじりついて日本選手の活躍を聞いてましたけれど、東京五輪の時にはそういうことはなかったです。三波春夫の『東京五輪音頭』も嫌いでしたし。
ーー内田先生のように冷めていた人は沢山いたんですか?
内田 うちの家族はそうでした。
ーー映画『Always 三丁目の夕日’64』では、オリンピックを心待ちにしている東京都民が描かれていますが。
内田 もちろん楽しみにしていた人はいたんでしょうけど、全然興味ない人もいた。でも、「興味ない」なんてことはわざわざ口に出さないし、メディアも報じません。「早く終わらないかな」と思っていても、せっかく喜んでいる人に水を差すのも悪いし。
ーーオリンピックなんて面倒くさいな、と?
内田 面倒くさいと言うより、どうしてこんなに壊すんだろうと・・・。東京の街の壊し方は凄かったですから。
ーー前回のオリンピックも内田先生は冷めておられましたが、今回はどうですか?
内田 僕は最初から招致反対です。前回はまだ五輪開催の大義名分がありました。日本が敗戦から復興して、ようやく先進国の仲間入りをしたということを世界にアピールするという意味があった。その思いそのものは可憐だった。
ーー初めてですね。
内田 そう1940年の五輪は戦争で中止になったから。
ーー前回は本当に初めての第1回目なわけで、今回は冬季を入れると4回目なんですよ。
内田 もうそんなにやってるんだ。
ーー長野、札幌入れて4回目なんですよ。流石に人間飽きるのかな? と。
内田 飽きるというか、開催目的がもはや経済効果しかないわけでしょう。招致のキャンペーンもひたすら「五輪を呼べば金になる」という話ばかりで・・・。これ程、志の低いオリンピックを見たことがない。
ーー安倍首相は64年をイメージして、「もう一度『三丁目の夕日』のような、ああいう時の気持ちを思い出してほしい」と言ってましたが・・・。昭和39年の時みたいな。アベノミクスを高度成長に喩えたいのをどう思いますか?
内田 でも、あの人知らないでしょ? 昭和39年の東京の下町の空気なんて。ファンタジーですよ。 ▼電通の倒産もあり得る!? ーー五輪目当てに人を増やしてしまったところから、かなりの失職者が出てくるみたいですが。電通も危ないみたいですが。
内田 電通も危ないし、ゼネコンも危ないところがあるんじゃないですか? 五輪組織委はお金がなくなってまた奉加帳回してお金集めているらしいけれど、どこも出さないそうですよ。当たり前ですよ。開催するかどうかわからない五輪の準備のための組織委のオフィスの家賃や職員の給料が足りないから寄付してくださいって言っても。
ーー何か恐ろしい話になって来ましたね。
内田 電通の倒産はあり得ると聞いてますよ。五輪招致にたいへんな金額を使ってますからね。
ーーそりゃ社運を賭けたんでしょう。
内田 電通にとって東京五輪は社運を賭けた事業だったと思いますよ。招致チームからシンガポールのブラック・タイディングスというダミー会社に2億3000万円の送金があり、それがブエノス・アイレスで開かれたIOCによる開催都市選定の前と後になされていた。 IOC委員の票のとりまとめに暗躍したと言われる元国際陸連会長のディアクはその後フランスの検察に追われて、逃亡中です。でも、招致に使ったお金はそんな額じゃないはずです。もう一桁くらい多い金が動いたと思いますよ。 東京オリンピックが開催されたら、特大のビジネスチャンスが到来するはずだったのに、それが全部飛んだ。サービスデザイン協議会の巨額の中抜きが問題になりましたけれど、あれだけ人目も気にしないで公金をつかみ取りするのは、ほんとうに資金繰りが苦しくなっているからでしょう。
ーー企業取材に関わって来た身からすれば、危ない会社の典型だと思いますね。
内田 あちこちから「電通は危ない」と聞きましたよ。
ーー内部からのお話で!?
内田 複数のソースから同じ話を聞きましたよ。五輪中止になったら危ないって。汐留のビルを売るとか、社員のレイオフとか、場合によったらあり得るんじゃないですか。
ーーレイオフ・・・、つまり解雇ですよね。つまり、大リストラをせざるを得ない・・・。
内田 もともと電通はコネ入社が多いですからね。昔みたいに仕事の出来る人間がいなくなったんじゃないですか。
ーー今聞いてますと、コロナ禍の電通は原発事故の時の東電を重なるものがあるんですけど。
内田 そうかもしれないですね。
▼電通のしがらみが消えた民放は自由な番組を作れる? ーーしかし、電通が倒産すれば、経済に与える打撃もあるとは思うんですが
内田 直接経済に与える打撃はないでしょう。広告代理店なんて別に実体経済にとってはあってもなくても、どうでもいい業種ですから。他の会社がとって代わるだけで。ただ、電通は政府自民党の広報機関としてテレビと新聞を仕切ってきたわけですから、他の代理店にその仕事がすぐに代行できるかどうかはわからない。電通のメディア支配が崩れると、この8年間見たことのなかったようなテレビ番組が出来てくるという可能性はありますね。
ーーそれは報道番組なんでしょうか? 安倍政権を露骨に批判するというような・・・。
内田 実際に取材してきた映像資料とか制作された番組で、上からの指示で放映されなかったものは山のようにある。そういうこれまでオンエアされてない映像が出てくる可能性はあるかもしれないです。
ーー例えば森友・加計学園もここまで取材してたんだ!? とかですか?
内田 そうですね。沖縄の米軍基地のものとか。
ーー今、そういうことが起きますでしょうか?
内田 政府が公金を投じて救済しようとしているところを見ると、自力では危ないということなんじゃないですか。
ーー東電みたいな企業ではないですからね。
内田 代わる会社は他はいくらでもありますからね。
(続く、次回はテレワークによる東京集中の緩和などコロナ後も聞きました)
■角田 裕育(ジャーナリスト) 1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。