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世界的知性が続々苦言「なぜ日本人は、東京五輪を中止できないのか」    『週刊現代』2021年6月5日号より

2021年05月28日 20時29分20秒 | オリンピック

世界的知性が続々苦言「なぜ日本人は、東京五輪を中止できないのか」

M・ガブリエル、ピンカー、クルーグマンなどが語る
 

コロナ抑え込みに失敗し、ワクチンが遅々として行き渡らない日本。国民も世界の人々も、このまま五輪なんて到底ムリだと言っている。それなのになぜ、権力者たちは暴走を止めようとしないのか。発売中の『週刊現代』が特集する。

日本の評価は地に落ちた

「ドイツをはじめとした欧米各国では、国民の半数近くがコロナワクチンの接種を1度は受けています。接種が完了した人には外出制限を緩めたり、マスクを外しても構わないという動きも出ている。

しかし翻って日本は、ワクチンに関して信じがたいほど遅れをとっています。きわめて困難な状況に陥っているにもかかわらず、東京五輪を強行しようとしているのは、日本人の高いプライドのなせる業なのでしょうか」

こう語るのは、ドイツ・ボン大学国際哲学センター所長のマルクス・ガブリエル氏だ。

世界的ベストセラー『なぜ世界は存在しないのか』などで著名なガブリエル氏が住むドイツでは、昨年12月26日からコロナワクチンの接種が始まった。

5月末時点で全国民の4割強、約3500万人が1回以上の接種を終え、7月中には全国民が接種を完了する見通しだ。

 

日本を除く先進各国はいま、猛烈なペースでコロナワクチンを打ちまくっている。物量で他を圧倒するのがアメリカだ。

各国に先んじて12月14日から接種を開始すると、街のスーパーマーケットやドラッグストアなどで、いつでも誰でも受けられる体制を確立。1日200万人以上のハイペースで打ち続け、接種済みの国民は半年足らずで1億6000万人を突破した。

かたや日本は、惨憺たる状況である。2月17日にようやく接種を始め、一日の接種者数が10万人を超えるまで2ヵ月がかかった。いまや欧米諸国はおろか、トルコやブラジルにも大きく引き離されている。

バブル期に日本の凋落を予言したベストセラー『日はまた沈む』の著者で、イギリス「エコノミスト」誌元編集長のビル・エモット氏が言う。

「日本政府のワクチン政策は、大失敗と言わざるを得ません。世界ですでに何百万、何千万人が接種を済ませているワクチンの認可に何ヵ月も手間取った。

迅速で効果的な接種プログラムを作ることも実行することもできなかった。これらの事実は、すでに日本の国際的な評判に大ダメージを与えています」

 

五輪は「危険なバクチ」

米有力紙ワシントン・ポストは5月5日、「なぜ日本は、これほどワクチン接種で大失敗を喫しているのか」との記事を掲載し、こう評した。

〈世界最高の物流能力で名高い日本が、富裕国クラブであるOECD加盟37ヵ国の中でぶっちぎりの最下位を走っている〉

〈日本は根本的に変われるか否かの瀬戸際にいるのだ〉

いまや世界中が、日本が「コロナ敗戦」を喫しつつあることに驚き、失望し、そして懸念を表明している。

それはほかでもない、開会式まで残り2ヵ月を切った東京五輪を、開催するか否か――その決断の時が、ついに迫っているからだ

本誌は、冒頭で紹介したガブリエル氏をはじめ、世界的知性と呼ばれる海外の研究者やノーベル賞受賞者、さらにジャーナリスト、スポーツ関係者や医療従事者に日本のコロナ対策の現状をどう評するか、そして東京五輪の開催可否をどう見るかについて訊いた。

すると誰もが、口を揃えて「東京五輪開催はありえない」と語った。

「総理は無能と言われても仕方がない」

「私は昨年のコロナ禍が始まった直後、貴誌(週刊現代)の取材に『楽観主義であれ悲観主義であれ、人は深層心理に沿って行動してしまう。それならば、楽観的になったほうがいい』とお話ししました。

しかし日本の現状を見ていると、とてもそんなことが言える状況ではない。

五輪という一大イベントが待ち受けていることを知っていながら、なぜ日本人はこれほど後手に回ってしまったのでしょうか。日本政府は本当に真剣に取り組んでいるのか。

菅総理は何度も『責任は私がとる』『心からお詫びする』と言っていますが、結果が伴っていないのだから、それも空虚な言葉です。(菅総理は)無能と言われても仕方がないでしょう」

「日本のワクチン接種の異常な遅れは、とても先進国とは思えないレベルです」

こう断じるのは、ハーバード大学教授で世界的心理学者のスティーブン・ピンカー氏だ。

さらにノーベル経済学賞受賞者で、ニューヨーク市立大学教授のポール・クルーグマン氏もこう指摘する。

「日本政府もIOCも、どんな犠牲を払うことになっても、断固として東京五輪を開催しようと考えているようです。

しかし開催するとなれば、たとえ無観客であっても、9万人もの選手や大会スタッフ、メディア関係者が日本にやってきます。その中に感染者が一人もいないはずがありません。

変異ウイルスも猛威を振るっている中、いくら検査を徹底しても100%の安全はあり得ない。もし大会期間中に感染拡大が起きてしまえば、日本人のみならず世界中の人から『それ見たことか』と言われるでしょう。

国家の威信を地に落としかねない危険なバクチを、日本がなぜここまでして続けようとするのか。私には理解不能です」

 

カネの亡者たち

各国のワクチン接種率を比較すると、ワクチン接種が進んでいる国ほど、おおむね感染者数の減り方も大きいことがわかる。

たとえばピーク時の今年1月初旬、一日に7万6000人もの感染者を出していたイギリスは、同月中旬からワクチン接種を急加速し、現在は新規感染者を一日2000人程度まで抑えることに成功している。これは日本の半分の水準だ。

 

コロナの抑え込みについに成功しつつある欧米諸国から見て、いまや日本はコロナ対策後進国である。彼らからすれば、東京に自国の選手団を送り込むのは不安で仕方がないだろう。

しかし日本政府、そして五輪を取り仕切るIOCの首脳たちは決して「中止」を口にしようとはしない。その最たる理由が「大損をするから」だ。

5月11日、米最大手紙のニューヨーク・タイムズに「五輪を中止せよ」と題する歯に衣着せぬ論考が掲載され、世界中で話題となった。

〈科学的思考にもとづいて、この危険な茶番を止める時が来た。東京五輪は中止すべきだ〉

〈だがそれでも、五輪という暴走機関車は止まらない。三つの大きな理由は、カネ、カネ、そしてカネだ〉

この論考の筆者であり、元五輪サッカーアメリカ代表選手で、現在は米パシフィック大学教授・政治学者のジュールズ・ボイコフ氏が言う。

 

「日本の皆さんも、大多数が五輪開催に反対していることは知っています。賢明なことだと思います。しかし、いくら世論が反対しても、五輪の『黒幕』たちは意に介しません。

IOCのバッハ会長、コーツ副会長らは『緊急事態宣言下であってもなくても開催できる』と公言しています。

彼らは五輪というスポーツ・ショーを開き、カネ儲けをするためなら、日本の人々を危険に晒しても構わないと考えている。信じられないほど傲慢です。五輪にはマトモな政治のルールや科学的思考が通用しないのです」

令和の「不平等条約」だ

ボイコフ氏をはじめ、今回複数の識者が指摘したのが、東京都がIOCと結んでいる「開催都市契約」の異常さである。この契約こそ、日本人がIOCに楯突くことを許さない「首輪」なのだ。

全87ヵ条にも及ぶ契約書を読むと、重要事項は軒並み「開催都市や開催国の組織委員会が、IOCに対して義務を果たす」という形式になっている。

たとえば、第1条には「IOCは、本契約にて、開催都市およびNOC(開催国の五輪委員会)に、本大会の計画、組織、資金調達および運営を委任し、開催都市およびNOCは、オリンピック憲章および本契約の規定を遵守してその義務を履行することを約束する」と書かれている。

その一方で、第41条には「(五輪に関する)あらゆる種類および性質の権利、権原、利権が、全世界を通じて永久にIOCの独占的な財産であること」も定められている。

要するにこれは、IOCが絶対的な権限を振るい、開催国や開催都市に過大な負担を強いる「不平等条約」なのだ。

 

中でも前出のクルーグマン氏が注目するのが、医療に関する条文である。

「第24条では、『開催都市は大会中、関係者に発生したあらゆる症状について、無料で医療サービスを提供する義務がある』という旨が記されています。

コロナ禍の中でこの要求を満たそうとすれば、日本は莫大な数の医療従事者を動員しなければなりません。

ただでさえ日本の病床は逼迫していると聞きますが、IOCのこんな無茶苦茶な要求を受け入れるキャパシティが残っているのでしょうか。これほど一方的な契約は見たことがありません」

もし日本側がこれらの契約を破る―つまり五輪を中止すれば、IOCは開催都市、すなわち東京都に「違約金を支払え」と迫るのではないか、とも囁かれる。

疫病で五輪が取りやめになった前例はないため、まだ確たることは言えない。

しかし一つだけ間違いないのは、いま日本は「進むも地獄、退くも地獄」という最悪の状況に追い込まれつつあるということだ。

前出のガブリエル氏は、「日本が五輪中止を言い出さざるを得なくなった場合、IOCからの訴訟の嵐に見舞われるのではないか」と懸念する。

「開催都市契約」の第9条「IOCに対する請求の補償と権利放棄」では、かいつまんで言えば、「五輪に関するあらゆる損害賠償や損失の補填は、開催都市が負う」ことが定められている。

五輪が中止となれば東京都、ひいては日本がカネの埋め合わせをさせられるわけだ。

 

どう転んでも損をする

ここで問題になってくるのが、五輪の莫大なテレビ放映権料である。

実は4年間で6000億円を超えるIOCの収入のうち、およそ3分の1がアメリカ三大テレビネットワークの一角、NBCが支払う放映権料で賄われている。

全米の五輪中継を独占するNBCは、人気競技の開始時刻をアメリカのゴールデンタイムに変更させたり、開会式の選手行進の順番を変えさせたりするほどの影響力を誇る。

詳細は非公開だが、全世界からの放映権料を合わせれば、IOCは収入の7割超、約4500億円をテレビ業界から得ていると推定される。

IOCにとって、この金ヅルを失うことは破滅を意味する。東京五輪の情勢をウォッチし続けている、ドイツ最大手紙「南ドイツ新聞」のトーマス・ハーン東京特派員が言う。

「IOCの幹部や日本政府の首脳が、日本国民や世界の一般市民からみて常識外れとしか思えない言動を続けているのは、ひとえに、この放映権料を失うと大変な事態になるからなのです」

どう転んでも損をする

すでに五輪のために1兆6400億円を費やしているのに、さらに数千億円の賠償金まで背負わされれば、日本国民の怒りは爆発するだろう。

「ワシントン・ポスト紙はコラムでバッハ会長のことを『ぼったくり男爵』とあだ名し、ちょっとした流行語になっています。

彼が選手ファーストでも、開催国ファーストでもなく、おカネファーストでものを考えているのは明らか。巨大なリスクを負って開催すれば、日本は感染拡大に怯えなければならず、国際的な批判にもさらされる。中止したいと申し出れば、巨額の賠償金を払わされる。どう転んでも得をするのはIOC、損をするのは日本です」(前出・クルーグマン氏)

日本人はいま、究極の選択を迫られている。東京五輪を強行して、もし大規模なクラスターが発生したり、あるいは「東京株」とでも言うべき変異株が生まれてしまったら、東京五輪は日本の汚点になる。

「こうなることはわかっていたのに、なぜやったのだ」と、全世界から批判が殺到することは避けられない。

一方で中止に踏み切れば、日本はただでさえコロナ対策で身の丈に合わない支出を垂れ流しているのに、さらに大きな金銭的負担を背負わされるかもしれない。どちらを選んでも、待ち受けるのは茨の道だ。

 

だがそれでも、カネは人命には代えられない。米名門医科大学のジョンズ・ホプキンス大学で准教授を務める、疫学者のデイヴィッド・ダウディー氏が言う。

「新型コロナウイルスの猛威は、裕福な国であろうと貧しい国であろうと平等に襲ってきます。失われた命は取り返せませんが、五輪はまた開催することができる。

まだ日本の皆さんがワクチン接種を済ませてもいないのに、どうしても五輪を開催する必要があるとは、私には思えません」

『週刊現代』2021年6月5日号より

 


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