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自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

浜矩子×宮嶋勲 寛容なイタリア人、他人の幸せは自分の幸せ 2024.1.11

2024年12月16日 17時35分35秒 | 目についた本 読みたい本

浜矩子×宮嶋勲 寛容なイタリア人、他人の幸せは自分の幸せ

  • 浜 矩子/エコノミスト、同志社大学名誉教授
  • 宮嶋 勲/ワインジャーナリスト
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  • 経済学者のアダム・スミスは、「経済活動を営む人間たちとは、共感性を有する人々であるはずだ」と言っている。自分に対しても他人に対しても寛容なイタリア人は、アダム・スミスのお眼鏡にかなう。私たち日本人はイタリア人の何を学ぶべきか。エコノミストの浜矩子さんと、『最後はなぜかうまくいくイタリア人』(日経ビジネス人文庫)の著者・宮嶋勲さんの対談3回目。


第1回「 浜矩子×宮嶋勲 『労働=苦役』ではないイタリア人 
第2回「 浜矩子×宮嶋勲 イタリア人に見習うべきタフさとしたたかさ 

アダム・スミスのお眼鏡にかなう人々

浜矩子(以下、浜) 前回、「労働とはそもそも幸せになるためのものである」というお話が出ましたが、『最後はなぜかうまくいくイタリア人』では、イタリア人は自分も幸せでありたいし、他人も幸せであってほしいと書かれていますね。アダム・スミスは「経済活動を営む人間たちとは、共感性を有する人々であるはずだ」と言っています。人の喜びを我が喜びとし、人の痛みを我が痛みとできる。そういう意味では、イタリア人はアダム・スミスのお眼鏡にかなった人々だと感じます。

宮嶋勲(以下、宮嶋) 私は仕事柄、イタリアとフランスを行き来することが多いのですが、両国の最大の違いは「寛容性」です。フランスは秩序とルールを重んじ、フランス革命ではルイ16世やマリー・アントワネットをギロチンで処刑しました。イタリアだったら革命から数年たつうちにうやむやになり、処刑しなかったかもしれません。

 現代でも、有名な料理人が不祥事を起こし、もう料理界では活躍できないかと思いきや、1年後ぐらいにはしれっと店に出ていたりします。「彼には彼の事情があったから」「彼も反省しているから」と寛容なんですよね。その根底には「他人の幸せは自分の幸せ」という共感性があると思います。

 イタリア人にイスラエルとパレスチナを仲裁してもらいたいですね。聖書・詩編85編に「慈しみとまことはめぐりあい、正義と平和は抱き合う」という言葉があるのですが、現代は慈しみとまことはすれ違い、正義と平和はいがみ合う時代になっているので、イタリア人的な考え方が希望となるかもしれません。

「イタリア人はアダム・スミスのお眼鏡にかなった人々」と語る浜矩子さん
「イタリア人はアダム・スミスのお眼鏡にかなった人々」と語る浜矩子さん
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日経BOOKプラス編集部(以下、──) イタリアが排他的ではないのは、カトリック社会であることも関係していますか。

 確かに、聖書には「異邦人を排斥してはならない」と書かれています。

宮嶋 基本的に信仰心があついこともありますが、移民都市だった古代ローマの時代にさかのぼれる気もします。私のイタリア人の友人はアフリカ系の養女を迎えていますし、地中海文化らしく、多様な人を受け入れる土壌があると思いますね。

 それから今のイタリアは不景気ですが、人々の生活はどうにか回っています。なぜなら観光客向けのピザは1枚2000円だけれども、地元の人間には原価の500円で融通し合っているからです。たまにレストランでアルバイトをして日当をもらったりします。昔ながらのお裾分け文化というか、自給自足的なたくましさもあります。

 ドルチェ・ヴィータ(気ままで自由な生活)とは、よく言ったものですね。

宮嶋 イタリア人は結婚生活も自由で、すぐくっついたり、別れたりします。その結果、血のつながっていない親と子ばかりが暮らすこともあります。その結果、血縁関係のない大家族ができあがるケースもあります。

 そういう自由さに日本人は憧れるのかもしれません。

「デザインはいい、機能は劣る」

宮嶋 憧れといえば、靴工房のような職人芸的な働き方はイタリア人が最も得意とするところです。それが大量生産に飽きた日本人に支持されているのだと感じます。フェラーリは1950~60年代頃は電気系統が弱く、「雨が降ったら走れない」といわれていました。もちろん今は改善されていますけれども、現代では、機能性よりも遊び心やワクワクを求める人が多いから、これだけ人気があるのではないでしょうか。

 素晴らしいデザインだけれども洗ったら色が落ちる洋服、見事なフォルムだけれども座ったらつぶれる椅子、というのもイタリアらしいですし、それを許容する文化がイタリアにはあります。

「大量生産に飽きた日本人はイタリアの職人仕事を求めています」と話す宮嶋勲さん
「大量生産に飽きた日本人はイタリアの職人仕事を求めています」と話す宮嶋勲さん
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 今、日本人が苦しいのは「機能性を高めたい」「精度の高さが高価格につながる」という観念からどうしても脱却できないからでしょうね。そうした思い込みを振り捨てられないまま、何をやっても世界に追い抜かれ、突き放されていくとおびえる、「どうして日本はこんなふうになっちゃったんだ」と自信をなくしていく。日本人にこそ、ドルチェ・ヴィータが必要ですね。

宮嶋 そして若者はもっと怒ってもいいと思います。G7で各国の首脳陣を見れば日本は高齢ですし、もう何か新しい発想を求めるのは無理でしょう。

 イタリア人的な考えだと新陳代謝も進みやすいでしょうね。イタリア人的な生き方に関心を持つ日本人が増えているとなると、希望が持てるかもしれません。

宮嶋 希望であると同時に悲惨さも感じます。「失われた30年」では根本的解決に目を向けず、場当たり的にその場でしぼり取れる部分をしぼり取ってきました。今やしぼり取るものがないから、「やりがい」という幻想を与えて働かせようとしています。

 イタリア人は「自分の幸せ」が根本にあるので、だまされにくい。イタリア人が東京に来ると、通勤ラッシュを見て「こんな生活はとてもできない。自分だったら故郷に帰る」と驚くんですよ。私はそんなことは考えもしなかったけれど、給料が半分になってもいいから、故郷でのんびり過ごすというのはある意味で健全だなと気づかされました。

若者の地方移住は希望になるか

 最近の若者は意識が変わってきていて、それで移住者も増えているのかもしれません。

宮嶋 イタリア人は故郷とマンマの味が大好きです。日本も一昔前までは演歌といえば故郷ソング、東京駅の周辺には郷土料理の居酒屋があって、郷土愛がありました。でも、タモリが方言をいじるギャグを言い出したあたりから、風向きが変わったのかなと。地方出身であることを恥じて、隠すようになってしまいました。

 でも、東京でもニューヨークでもミラノでも、外から人が流入しているわけですから、1代、2代さかのぼれば地方出身者が多いですよね。それを恥とするか、誇りと思うのかの違いです。

イタリア的生き方は日本人の希望になるか。対談は浜さんのご自宅で行われた
イタリア的生き方は日本人の希望になるか。対談は浜さんのご自宅で行われた
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 今は地方に戻る人や移住する人が増え、また少し風向きが変わってきているようにも思います。苦役から逃がれたい人は逃げればいい。移住先でそうした人たちのコミュニティーができるかもしれません。

 移住先でさまざまな友人をつくり、人生を楽しむ。その結果、日本の地上から誰もいなくなった──となっても、楽しいかも。ホントの日本人は地下に潜んでドルチェ・ヴィータしているというのも悪くないですね。

文:三浦香代子 構成:桜井保幸(日経BOOKプラス編集部) 写真:小野さやか

日経ビジネス人文庫『 最後はなぜかうまくいくイタリア人 
イタリア人に学ぶ、心軽やかに生きるヒント

怠惰で陽気で適当なのに、ファッションから車まで、独自のセンスと哲学で世界の一流品を生み出している国イタリア。彼らの秘密を、日常のさまざまなシーンの行動・価値観や「イタリア人あるある」から、軽妙にひもとく。

宮嶋勲著/日本経済新聞出版/825円(税込み)

 イタリア人的な考えだと新陳代謝も進みやすいでしょうね。イタリア人的な生き方に関心を持つ日本人が増えているとなると、希望が持てるかもしれません。

宮嶋 希望であると同時に悲惨さも感じます。「失われた30年」では根本的解決に目を向けず、場当たり的にその場でしぼり取れる部分をしぼり取ってきました。今やしぼり取るものがないから、「やりがい」という幻想を与えて働かせようとしています。

 イタリア人は「自分の幸せ」が根本にあるので、だまされにくい。イタリア人が東京に来ると、通勤ラッシュを見て「こんな生活はとてもできない。自分だったら故郷に帰る」と驚くんですよ。私はそんなことは考えもしなかったけれど、給料が半分になってもいいから、故郷でのんびり過ごすというのはある意味で健全だなと気づかされました。

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