あまりのスマートぶりに、戸惑うわたし。 「良太、ありがとう!ごちそうさま!」 「ええねん」
わたしは、ようやく気づいた。
弟は、自由に使えるお金や、 交通系ICカードがほしかったのではない。
誰かのために、お金を使いたかったのか。 誰かのために、お金を使うことに、 ずっと、ずっと、あこがれてたのか。
ケチなわたしったら、忘れてた。 ごちそうすることの、嬉しさを。 愛する人に、喜んでもらいたい。 お腹いっぱいになってもらいたい。 助けたい、役に立ちたい。 そのために、わたしたちは、 働いていたのではなかったか。
汗水たらしてゲットした初任給で、 家族にラーメンをおごった日のことを、 思い出してわたしは泣きそうになった。
弟は25年間も待ちわびていた、 その喜びを噛みしめている。
誰に教えてもらったわけでもないのにね。 お金をうまく稼ぐ才能がなくても、 お金をうまく使う才能のほうが、 よっぽど人を幸せにするのかもね。
数日後、マクドを買いすぎた弟は、 健康診断にひっかかり、 母にこっぴどくお説教をくらって、 ICOCAの使い道は事前申請制になった。
まあ、それは、しゃーない。
ゲームソフトは、弟の誕生日に、 わたしが買うことになった。 なんでやねん。
wikipedeia
【評価】
「Internet Media Awards」選考委員の篠田真貴子は「インターネットメディアには『炎上』『分断』など怖く荒れたイメージが強く、敬遠しがちな人もいる。でも、インターネットには前向きな可能性もたくさんある。受賞作はそれを示す好例だ」と評した。
また、佐渡島庸平による「岸田さんは誰も傷つけない面白い文章が書ける珍しい人だ」の言葉で、会社を辞めて作家になる決心がついたと語っている。
入試問題に文章が取り上げられることが多く、京都大学医学部、灘中学校、筑波大学附属駒場中学校などが採用している[
【家族】中学生の時、父親が突然他界。その後、病気により車椅子での生活を余儀なくされた母[と知的障害のある弟、高齢の祖母がいる。障害のある家族がいる作家による感動エッセイというようなとらえられ方には違和感を覚えると語り、『家族』をテーマに書こうとさえ思っていない」とも語っている[。