
子どもに語りかけるように、やさしく「憲法のこころ」を記述したこの本は、素直に読め、感慨深くページを閉じました。ちょっと、しみじみとしました。ただ、いろいろ考えさせられ、武力を捨てる覚悟の恐ろしさとともに、自衛隊のありかたについて、どう解釈したらいいのかという疑問もおこり、複雑な胸中です。
とは言っても、自分の国の憲法なのに、日頃まったく法律の本は開かず読まず、きちんと知ろうともせず、漠然としたままで生きてきたことに気づき、唸っています。けれど、依然として法律の本は、開かず。だからこそ、こういった易しく書かれてあり、かつ作者が心をこめて書いた本から入っていくのが、自分には適していると思いました。熱弁の醜さは、まったく無く、うそ臭い「美しい日本」とは根本的に別物で、いわさきちひろ氏の子どもが描いたような絵+井上ひさしの文の易しさ、こっけいさというコンビの楽しさを満喫しました。
構成は、
はじめに
絵本:憲法のこころ
お話:憲法って、つまりこういうこと
あとがき
付録:日本国憲法全文
となっております。
「日本国憲法のなかでも、これだけは読んでおいてほしいと思う、前文と第9条を小学生でも読めるようにやさしくしてみました。平和憲法は、世界に先立つ理想的な憲法なのです。敗戦後の当時の人びとの心の結集なのです。アメリカに押しつけられたなどという安っぽいものでは、ありません」
というのが、どうも骨子のように思われました。
民主主義って、本当に何だろうか?まず、自分のために、要点をまとめてみたくなりました。朝日新聞臭いと反発するか、素直に共感するかは、それぞれの方の自由な感想におまかせします。
(要約) 《》は引用印 漢数字は記号数字に統一しました
●「はじめに」
いまでは信じられないことだが、昭和20(1945)年の日本人男性の平均寿命は、たしか23.9歳だった.戦地では兵士が戦って死に(あとで分かったのだが、戦死者の3分の2が餓死だった)、内地では空襲で焼かれて死に、病気になれば薬がないので死に、幼児たちは栄養失調で死ぬ。そこで大半が若死にした。女性の平均寿命も37.5歳だったはず。
国民学校では、「君たちも長くは生きられないだろう」と、先生から言われていた。ところが、8月15日を堺に、なにもかも変わった。「君たちは30、40まで生きていいのです」。重石がとれた感じを、「解放感」という言葉でいいあらわしていた。
その呆とした気持ちがシャンとなったのは、敗戦の翌年、日本国憲法が公布されたときです。
悲しそうにしていた先生たちも、こんどは朗らかな口調で「これから先の生きていく目安が、すべてこの100と3つの条文に書いてあります」とおっしゃった。《とりわけ、日本はもう2度と戦争で自分の言い分を通すことはしないという覚悟に、体がふるえてきました。日本刀をかざして敵陣へ斬りこむより、もっとずっと雄々しい生き方ではないか。》剣豪たちは、いつも決まって山のなかに隠れたりする。なぜだか、このときに、分かった。《剣よりも強いものがあって、それは戦わずに生きること。》剣豪たちは、そのことを知っていたのだ。
《2度と武器では戦わない。これは途方もない生き方ではないか。勇気のいる生き方ではないか。》剣豪たちと同じ境地に立っているのだ。《なんて誇らしくて、いい気分だろう》
《この子どものときの誇らしくていい気分を、なんとかしていまの子どもたちにも分けてあげたいと思って、私はこの本を手がけました。》
●「絵本」憲法のこころ ぶん/いのうえ ひさし え/いわさき ちひろ
憲法のなかでも、いちばん大事なところ、前文と第9条を、小学生にも読めるように
やさしくしてみました。
この国のかたち(前文)
国民がみな、ひとつところに集まって話し合うことができないので、決められたやり方で、「代わりの人」を国会に送って、どうすれば私たちの未来がよりよいものになるのか、それをよく話しあってもらうことにした。
私たちが、同じ願いをもつ世界のほかの国々の人たちと、心をつくして話しあうなら、かならず戦はいらなくなる。
《私たちはそのようにかたく覚悟を決めたのだ》
戦で、つらく悲しい思いをするよりも、のびのびとおだやかに生きることが、ほかのなによりも、大切であると信じるようになった。
《そこで私たちは代わりに国会へ送った人たちに、2度と戦をしないようにと、しっかりと、ことづけることにした。》
《この国の生きかたを決める力は、私たち国民だけにある。》
《そのことをいま、世界に向けてはっきりと言い、この国の大切なかたちを憲法にまとめることにする。》
代わりに国会へ送った人たちに力があるのは、私たちが任せたからであり、その値打ちは私たちのものである。
私たちは、世界の人たちがみな、こわがったり飢えたりせず、おだやかな生き方をしたいと願うのは、当たり前であるということを、自分に言い聞かせ、《どんなことがあっても、そのじゃまをしてはならないと、たしかに決めた。》
自分のためになることだけ言いたてて、ほかの国をないがしろにしてはならない。《これは、いつどんなときでも守らなければならない決まりごとである。》
この決まりごとを、きびしく守り、どこの国の主人にも家来にもならない。
日本国民は、今まで書いたことを、ありったけの力をふりしぼって、やりとげる決意である。
もう2度と戦争はしない(第9条)
私たちは、人間らしい生きかたを尊び、人間らしく生きるための決まりを大切にし、《おだやかな世界を、まっすぐに願っている。》
だから、どんなもめごとが起こっても、軍隊や武器の力でかたづけるやり方を選ばない。
殺したり、殺されたりするのは、人間らしい生きかただとは考えられないからだ。どんな国も自分を守るために軍隊をもつことができる。けれども私たちは、勇気をふりしぼって、その立場を捨てることにした。
どんなもめごとも、筋道を立ててよく考えて、ことばの力をつくせば、かならずしずまると信じるからである。《よく考えられたことばこそ、私たちのほんとうの力なのだ。》
《そのために、私たちは戦をする力を持たないことにする。》国は、戦うことができるという立場もみとめないことにした。
●「お話」憲法って、つまり、こういうこと
1.憲法ってなんだろう
《憲法は、その国の大もとをきめています。》《憲法が、その国の性格をきめてしまうんですね》
日本国憲法には、
「国民主権」(国のありかたをきめる権利は国民にある)
「基本的人権の尊重」(人が生まれながらにもっている権利を大事にする)
「平和主義」(戦争をしない、争いごとは武器ではなく話し合いで解決する)
という、3つの大きな考え方があります。この3つを簡単に変えてはいけない。
2.なぜ「きまり」がいるんだろう
子どもも、大人さえもけんかをするんじゃないかと思います。いけないことだと分かっていても、まあ、動物の本能として、しょうがないってところもあります。
でも度をこして、殺しあうこともある。《人間って、支えあったり、愛し合ったりできる、すばらしい生き物ですが、イヤな面もあるんですね》
「基本的人権」とは、かんたんにいうと、みんな自由だということです。《しかし、自由しほうだいだと、どうなるでしょう?》
ほかの人から殺されるかもしれないと、だれもがびくびく、おびえて、暮らさなくてはならなくなり、逆に生きづらくなる。そこで平和な社会で生きられるように、《私たちは、殺す自由をたがいに法律にあずけているのです。》
私たちには、「生命」「自由」をもち、それを使って働きます。働いた結果、所有物、つまり「財産」ができます。《「生命」「自由」「財産」のことを、「その者だけがもつ資産」といって、これはだれにも侵せない権利です。》それを守る「きまり」をつくって、おたがいに守りあって、法律ができてくるわけです。いまの私たちは、資産を日本という国にあずけています。私をだれかが殺そうとしたなら、日本という国が、相手を罰するのです。もし、日本という国がそれをしてくれなかったら、国に文句をいうことができます。《それを「抵抗権」をもつ、と言います。》《そういう大切なことを、憲法が決めているのです。》
3.憲法にも種類がある?
おおざっぱにいって、3つに分類できます。
「欽定憲法」(きんていけんぽう):王様が、力をふるって好き勝手をすると、人民が、がまんができないと動き出します。そうなる前に、王様のほうから「これから、この国をこういうふうにする」という憲法をつくって、人民ととりきめます。これが、王様が制定する欽定憲法です。昔の日本でいうなら天皇で、明治時代の「大日本帝国憲法」は、欽定憲法です。いろいろな自由が書いてありますが、かならず、上に「法律の許す範囲において」がつき、王様が条件をつけて「この範囲でならやってもいい」と、やっぱり王様が命令をくだしているのです。
つぎに、人民の力が強くなると「協定憲法」ができます。《これは、王様と人民がいっしょになってつくるもの》つまり制定者は王様と人民です。
《3番目は、「民定憲法」》
ここでは、《国民のほうが、国の基本的なかたちをつくります。》《国民が、「こういう国をつくるのだ」ときめて、ときの権力者に発信するのです。》《いまの憲法は、民定憲法です》国家が国民を無視して、暴走をはじめたら、それをくいとめるために、憲法があるのです。国民が、権力者に命令するのです。
《明治21(1889)年に発布された「大日本帝国憲法」は、国民が権力者の力をおさえるものではなく、じっさいは、その逆でした。国民が権力者に命令するための憲法ができたのは、それから57年後、昭和21(1946)年のことだったのです。》
4.憲法前文を読んでみる
第2次世界大戦に負けて、昭和21(1947)年に、新しい日本国憲法が施行されました。そのときに、ときの文部省が、「あたらしい憲法のはなし」という冊子を、子どもたちに配りました。
《いま、やっと戦争は終わりました。》こんな戦争で、どんな利益があtったでしょうか。《何もありません》戦争は、人間をほろぼし、世の中のよいものをこわすことです。このまえの世界戦争のあとでも、もう戦争は2度とやるまいと、多くの国々がかんがえたのですが、またこんな戦争をおこしてしまったのは、まことに残念です。....そこで、今度こそ戦争をしないように、武器や軍隊をもたない、ときめたんですね。《戦力を捨ててしまうのは、勇気のいることです。》でも、けっして心ぼそく思うことはありません。正しいことぐらい強いものはありません。《ほんとうに固い決心のもとに、憲法がつくられたんですね。この決心は、憲法の前文にも表されています。》憲法全体のまとめといっていいでしょう。《ここで、いちばん大切なことは、「日本国民は」という主語ではじまっているところ。》《この憲法をつくったのは日本国民である」と、書いてある。政府が命令するのではなく、国民が政府に命令しているんですね。》
5.「象徴」ってなんだろう
《ハトは平和の「象徴」であると、よくいわれます。》「日本」日本国民」というと、何をおもいうかべるでしょうか?《憲法の第1~8条は、》「日本」「日本国民」の象徴を、「天皇」にしています。天皇のことが、条文のいちばん最初にあるのは、過去の反省からです。「大日本帝国憲法」では、天皇は、神と一体化され、大きな力を持っていました。《それにつけこんだ指導者たちが、「すべては天皇陛下のためである」と、国民を悲惨な戦争へかりたてていったのです。》
新しい憲法では、《「天皇は人間だった」と宣言し》日本の象徴とすると書いてあります。当時の日本人は、天皇が生き神さまだなんて、ふしぎなことを信じていたのですが、現実に信じて多くの人々が死んでいったことを思うと、笑いはたちまち凍りついてしまうのです。
6.第9条のこと
もう2度と戦争はしない、という第9条ができてから、日本がよその国の人を殺したり、武器をつくって売ったりしていません。世界でも、こんな国はまれです。胸を張っていい。日本は力のある国ですから、世界の人たちの役に立つ方向で、りっぱに生きていけます。《防衛に使うお金を医学の研究に使ってがんに効く薬を発明するというふうに、世界の苦しみや悩みを解決するためにお金を使う。》そうすれば、あの国は世界にとって大切な国だから、ぜったいに、こわしてはいけないと、世界から思われるでしょう。
ちかごろ、この第9条の中身が古いという人がいます。古いでしょうか。戦争をせず、話し合いで解決していくというやり方は、《これからの人類の課題ですから、第9条は、新しいものだといっていい。日本は正しいことを、ほかの国より先に行っているのです。》《その考え方が戦争をふせぐ最良の方法だと、注目している人は、世界でもたくさんいます。第9条は、世界の人のあこがれでもあるわけですから、なんとしても、その精神を、つらぬいていきたいものです。》
7・「個人の尊重」ってなんだろう
8.日本人であるということ
9.私たちの使命
●「あとがき」
●「日本国憲法」(全文)と、続きますが、読書の楽しみを奪わないように、このくらいにしておきます。
とは言っても、自分の国の憲法なのに、日頃まったく法律の本は開かず読まず、きちんと知ろうともせず、漠然としたままで生きてきたことに気づき、唸っています。けれど、依然として法律の本は、開かず。だからこそ、こういった易しく書かれてあり、かつ作者が心をこめて書いた本から入っていくのが、自分には適していると思いました。熱弁の醜さは、まったく無く、うそ臭い「美しい日本」とは根本的に別物で、いわさきちひろ氏の子どもが描いたような絵+井上ひさしの文の易しさ、こっけいさというコンビの楽しさを満喫しました。
構成は、
はじめに
絵本:憲法のこころ
お話:憲法って、つまりこういうこと
あとがき
付録:日本国憲法全文
となっております。
「日本国憲法のなかでも、これだけは読んでおいてほしいと思う、前文と第9条を小学生でも読めるようにやさしくしてみました。平和憲法は、世界に先立つ理想的な憲法なのです。敗戦後の当時の人びとの心の結集なのです。アメリカに押しつけられたなどという安っぽいものでは、ありません」
というのが、どうも骨子のように思われました。
民主主義って、本当に何だろうか?まず、自分のために、要点をまとめてみたくなりました。朝日新聞臭いと反発するか、素直に共感するかは、それぞれの方の自由な感想におまかせします。
(要約) 《》は引用印 漢数字は記号数字に統一しました
●「はじめに」
いまでは信じられないことだが、昭和20(1945)年の日本人男性の平均寿命は、たしか23.9歳だった.戦地では兵士が戦って死に(あとで分かったのだが、戦死者の3分の2が餓死だった)、内地では空襲で焼かれて死に、病気になれば薬がないので死に、幼児たちは栄養失調で死ぬ。そこで大半が若死にした。女性の平均寿命も37.5歳だったはず。
国民学校では、「君たちも長くは生きられないだろう」と、先生から言われていた。ところが、8月15日を堺に、なにもかも変わった。「君たちは30、40まで生きていいのです」。重石がとれた感じを、「解放感」という言葉でいいあらわしていた。
その呆とした気持ちがシャンとなったのは、敗戦の翌年、日本国憲法が公布されたときです。
悲しそうにしていた先生たちも、こんどは朗らかな口調で「これから先の生きていく目安が、すべてこの100と3つの条文に書いてあります」とおっしゃった。《とりわけ、日本はもう2度と戦争で自分の言い分を通すことはしないという覚悟に、体がふるえてきました。日本刀をかざして敵陣へ斬りこむより、もっとずっと雄々しい生き方ではないか。》剣豪たちは、いつも決まって山のなかに隠れたりする。なぜだか、このときに、分かった。《剣よりも強いものがあって、それは戦わずに生きること。》剣豪たちは、そのことを知っていたのだ。
《2度と武器では戦わない。これは途方もない生き方ではないか。勇気のいる生き方ではないか。》剣豪たちと同じ境地に立っているのだ。《なんて誇らしくて、いい気分だろう》
《この子どものときの誇らしくていい気分を、なんとかしていまの子どもたちにも分けてあげたいと思って、私はこの本を手がけました。》
●「絵本」憲法のこころ ぶん/いのうえ ひさし え/いわさき ちひろ
憲法のなかでも、いちばん大事なところ、前文と第9条を、小学生にも読めるように
やさしくしてみました。
この国のかたち(前文)
国民がみな、ひとつところに集まって話し合うことができないので、決められたやり方で、「代わりの人」を国会に送って、どうすれば私たちの未来がよりよいものになるのか、それをよく話しあってもらうことにした。
私たちが、同じ願いをもつ世界のほかの国々の人たちと、心をつくして話しあうなら、かならず戦はいらなくなる。
《私たちはそのようにかたく覚悟を決めたのだ》
戦で、つらく悲しい思いをするよりも、のびのびとおだやかに生きることが、ほかのなによりも、大切であると信じるようになった。
《そこで私たちは代わりに国会へ送った人たちに、2度と戦をしないようにと、しっかりと、ことづけることにした。》
《この国の生きかたを決める力は、私たち国民だけにある。》
《そのことをいま、世界に向けてはっきりと言い、この国の大切なかたちを憲法にまとめることにする。》
代わりに国会へ送った人たちに力があるのは、私たちが任せたからであり、その値打ちは私たちのものである。
私たちは、世界の人たちがみな、こわがったり飢えたりせず、おだやかな生き方をしたいと願うのは、当たり前であるということを、自分に言い聞かせ、《どんなことがあっても、そのじゃまをしてはならないと、たしかに決めた。》
自分のためになることだけ言いたてて、ほかの国をないがしろにしてはならない。《これは、いつどんなときでも守らなければならない決まりごとである。》
この決まりごとを、きびしく守り、どこの国の主人にも家来にもならない。
日本国民は、今まで書いたことを、ありったけの力をふりしぼって、やりとげる決意である。
もう2度と戦争はしない(第9条)
私たちは、人間らしい生きかたを尊び、人間らしく生きるための決まりを大切にし、《おだやかな世界を、まっすぐに願っている。》
だから、どんなもめごとが起こっても、軍隊や武器の力でかたづけるやり方を選ばない。
殺したり、殺されたりするのは、人間らしい生きかただとは考えられないからだ。どんな国も自分を守るために軍隊をもつことができる。けれども私たちは、勇気をふりしぼって、その立場を捨てることにした。
どんなもめごとも、筋道を立ててよく考えて、ことばの力をつくせば、かならずしずまると信じるからである。《よく考えられたことばこそ、私たちのほんとうの力なのだ。》
《そのために、私たちは戦をする力を持たないことにする。》国は、戦うことができるという立場もみとめないことにした。
●「お話」憲法って、つまり、こういうこと
1.憲法ってなんだろう
《憲法は、その国の大もとをきめています。》《憲法が、その国の性格をきめてしまうんですね》
日本国憲法には、
「国民主権」(国のありかたをきめる権利は国民にある)
「基本的人権の尊重」(人が生まれながらにもっている権利を大事にする)
「平和主義」(戦争をしない、争いごとは武器ではなく話し合いで解決する)
という、3つの大きな考え方があります。この3つを簡単に変えてはいけない。
2.なぜ「きまり」がいるんだろう
子どもも、大人さえもけんかをするんじゃないかと思います。いけないことだと分かっていても、まあ、動物の本能として、しょうがないってところもあります。
でも度をこして、殺しあうこともある。《人間って、支えあったり、愛し合ったりできる、すばらしい生き物ですが、イヤな面もあるんですね》
「基本的人権」とは、かんたんにいうと、みんな自由だということです。《しかし、自由しほうだいだと、どうなるでしょう?》
ほかの人から殺されるかもしれないと、だれもがびくびく、おびえて、暮らさなくてはならなくなり、逆に生きづらくなる。そこで平和な社会で生きられるように、《私たちは、殺す自由をたがいに法律にあずけているのです。》
私たちには、「生命」「自由」をもち、それを使って働きます。働いた結果、所有物、つまり「財産」ができます。《「生命」「自由」「財産」のことを、「その者だけがもつ資産」といって、これはだれにも侵せない権利です。》それを守る「きまり」をつくって、おたがいに守りあって、法律ができてくるわけです。いまの私たちは、資産を日本という国にあずけています。私をだれかが殺そうとしたなら、日本という国が、相手を罰するのです。もし、日本という国がそれをしてくれなかったら、国に文句をいうことができます。《それを「抵抗権」をもつ、と言います。》《そういう大切なことを、憲法が決めているのです。》
3.憲法にも種類がある?
おおざっぱにいって、3つに分類できます。
「欽定憲法」(きんていけんぽう):王様が、力をふるって好き勝手をすると、人民が、がまんができないと動き出します。そうなる前に、王様のほうから「これから、この国をこういうふうにする」という憲法をつくって、人民ととりきめます。これが、王様が制定する欽定憲法です。昔の日本でいうなら天皇で、明治時代の「大日本帝国憲法」は、欽定憲法です。いろいろな自由が書いてありますが、かならず、上に「法律の許す範囲において」がつき、王様が条件をつけて「この範囲でならやってもいい」と、やっぱり王様が命令をくだしているのです。
つぎに、人民の力が強くなると「協定憲法」ができます。《これは、王様と人民がいっしょになってつくるもの》つまり制定者は王様と人民です。
《3番目は、「民定憲法」》
ここでは、《国民のほうが、国の基本的なかたちをつくります。》《国民が、「こういう国をつくるのだ」ときめて、ときの権力者に発信するのです。》《いまの憲法は、民定憲法です》国家が国民を無視して、暴走をはじめたら、それをくいとめるために、憲法があるのです。国民が、権力者に命令するのです。
《明治21(1889)年に発布された「大日本帝国憲法」は、国民が権力者の力をおさえるものではなく、じっさいは、その逆でした。国民が権力者に命令するための憲法ができたのは、それから57年後、昭和21(1946)年のことだったのです。》
4.憲法前文を読んでみる
第2次世界大戦に負けて、昭和21(1947)年に、新しい日本国憲法が施行されました。そのときに、ときの文部省が、「あたらしい憲法のはなし」という冊子を、子どもたちに配りました。
《いま、やっと戦争は終わりました。》こんな戦争で、どんな利益があtったでしょうか。《何もありません》戦争は、人間をほろぼし、世の中のよいものをこわすことです。このまえの世界戦争のあとでも、もう戦争は2度とやるまいと、多くの国々がかんがえたのですが、またこんな戦争をおこしてしまったのは、まことに残念です。....そこで、今度こそ戦争をしないように、武器や軍隊をもたない、ときめたんですね。《戦力を捨ててしまうのは、勇気のいることです。》でも、けっして心ぼそく思うことはありません。正しいことぐらい強いものはありません。《ほんとうに固い決心のもとに、憲法がつくられたんですね。この決心は、憲法の前文にも表されています。》憲法全体のまとめといっていいでしょう。《ここで、いちばん大切なことは、「日本国民は」という主語ではじまっているところ。》《この憲法をつくったのは日本国民である」と、書いてある。政府が命令するのではなく、国民が政府に命令しているんですね。》
5.「象徴」ってなんだろう
《ハトは平和の「象徴」であると、よくいわれます。》「日本」日本国民」というと、何をおもいうかべるでしょうか?《憲法の第1~8条は、》「日本」「日本国民」の象徴を、「天皇」にしています。天皇のことが、条文のいちばん最初にあるのは、過去の反省からです。「大日本帝国憲法」では、天皇は、神と一体化され、大きな力を持っていました。《それにつけこんだ指導者たちが、「すべては天皇陛下のためである」と、国民を悲惨な戦争へかりたてていったのです。》
新しい憲法では、《「天皇は人間だった」と宣言し》日本の象徴とすると書いてあります。当時の日本人は、天皇が生き神さまだなんて、ふしぎなことを信じていたのですが、現実に信じて多くの人々が死んでいったことを思うと、笑いはたちまち凍りついてしまうのです。
6.第9条のこと
もう2度と戦争はしない、という第9条ができてから、日本がよその国の人を殺したり、武器をつくって売ったりしていません。世界でも、こんな国はまれです。胸を張っていい。日本は力のある国ですから、世界の人たちの役に立つ方向で、りっぱに生きていけます。《防衛に使うお金を医学の研究に使ってがんに効く薬を発明するというふうに、世界の苦しみや悩みを解決するためにお金を使う。》そうすれば、あの国は世界にとって大切な国だから、ぜったいに、こわしてはいけないと、世界から思われるでしょう。
ちかごろ、この第9条の中身が古いという人がいます。古いでしょうか。戦争をせず、話し合いで解決していくというやり方は、《これからの人類の課題ですから、第9条は、新しいものだといっていい。日本は正しいことを、ほかの国より先に行っているのです。》《その考え方が戦争をふせぐ最良の方法だと、注目している人は、世界でもたくさんいます。第9条は、世界の人のあこがれでもあるわけですから、なんとしても、その精神を、つらぬいていきたいものです。》
7・「個人の尊重」ってなんだろう
8.日本人であるということ
9.私たちの使命
●「あとがき」
●「日本国憲法」(全文)と、続きますが、読書の楽しみを奪わないように、このくらいにしておきます。