本日2月16日は、菅原道真が大宰府へ向けて出発した日で、東京気象台が日本初の天気図を作成した日で、ロシア帝国領となっていたリトアニアでリトアニア協議会が独立を宣言した日で、衆議院予算委員会でロッキード事件の証人喚問を開始した日で、京都議定書が発効された日です。
本日の倉敷は雨のち曇りでありました。
最高気温は十二度。最低気温は十度でありました。
明日は予報では倉敷は曇りとなっております。
本日の倉敷は雨のち曇りでありました。
最高気温は十二度。最低気温は十度でありました。
明日は予報では倉敷は曇りとなっております。
小山の公園の大葉子の実は結び赤詰草の花は枯れて焦茶色になつていて粟は刈りとられ一寸顔を出した野鼠は吃驚したやうに又急いで穴の中へ引つ込む。
眩い銀の薄の穂が一面風に波立つている。
其の公園の真ん中の小さな四角い林に野葡萄の藪があつて其の実がすつかり熟している。
狐は溜息をしながら藪の傍の草に座る。
幽かな幽かな日照り雨が降つて草は綺羅綺羅光り向うの山は暗くなる。
其の有り無しの日照りの雨が霽れたので草は新に綺羅綺羅光り向うの山は明るくなつて狐は眩しく面を伏せる。
そつちの方から百舌鳥がまるで音譜をばらばらにして振り撒いた様に飛んで来て皆一度に銀の薄の穂に泊まる。
野葡萄の藪からは綺麗な雫がぽたぽた落ちる。
幽かな気配が藪の影から上つてくる。
友人がライラック色の裳裾を曳いてやつて来たのである。
今、其の後ろ、東の灰色の山の上を冷たい風がふつと通つて大きな虹が明るい夢の橋のやうに優しく空に現れる。
狐は化石のやうに座つてしまう。
友人は此処に狐が居たことを意外に思いながら僅かに眼に会釈して暫らく虹の空を見る。
さうだ。今日こそ、只の一言でも天の才有り麗しく冷徹な此の人と言葉を交わしたい。
丘の小さな葡萄の木が夜空に燃える焔よりもつと明るくもつと哀しい想いをば遥かの美しい虹に捧ると、只是だけを伝えたい。
もう世界から居なくなつた此の人に。
もう幽体でしか会えなくなつた此の人に。
「どうか私の尊敬をお受けくださいませ」
狐はしわがれた声を風に半分とられながら叫ぶ。
友人はうつとり西の碧い空を眺めてゐた大きな碧い瞳を狐へ向けた。
「何か御用?」
狐はまるで山毛欅の木の葉のやうに震えて息が忙しくて思うように物が云えない。
「どうか私の心からの敬いを受けとつて下さい」
友人は幽かに吐息したので其の胸の黄や菫の宝石は一つずつ声をあげるやうに輝きました。
「敬いを受けることはあなたも同じです。何故そんなに陰気な顔をなさるのですか」
「貴女に会えないのが辛いのです」
「如何してそんなことを仰るのです? あなたは生きているではありませんか。此処に来るべきではないのです」
「私が生きるより貴女が生きるほうが余程素晴らしいことです」
「あなたは生きているのです。そして私は死んだ。もう会うべきではありません。帰りなさい」
「もし、もしも代わることができるなら」
友人は思わず微笑いました。
「御覧なさい。向うの青い空の中を一羽の鵠が飛んで行きます。鳥は後ろに皆その後をもつのです。皆は其れを見ないでしょうが私は其れを見るのです。同じやうに皆其々の一つの世界を作つています。其れは生きている者が作るのです」
「けれども貴女は高く光の空に架かる才がありました。全て草や花や鳥は皆、貴女を褒めて歌います。私は誰にも知られず巨きな森の中で朽てしまうのです」
「私を輝かしたものはあなたをも煌めかします。私に与えられた全ての言葉は其の儘あなたに贈られます」
「私を連れて行つて下さい。私はどんなことでも致します」
「否。私はあなたを連れて行きません。でも何時でもあなたが考える其処に居ります。全て真の光の中に一緒に住んで何時でも一緒にゐるのです。けれども私はもう帰らなければなりません。お日様が遠くなりました。百舌鳥が飛び立ちます。私に固執してはなりません。では。ごきげんよう」
停車場の方で鋭い笛が鳴り、百舌鳥は皆飛び立ってばらばらの楽譜のやうに喧しく鳴きながら東の方へ飛んで行く。
「私を連れていつて下さい。どうか私を連れていつて下さい。」
美しく気高い友人は幽かに笑つたやうにも見えた。
又、当惑して頭を振つたやうにも見えた。
そして周囲は暗くなり空だけ銀の光を増せば、あんまり百舌鳥が喧しいので姉妹の雲雀も仕方なくもいちど空へ登つて行つて少うしばかり調子外れの歌を唄つた。