以下の文は、ニューズウィーク日本版の『遂に「日本売り」を招いた新型肺炎危機──危機を作り出したのはウイルスでも政府でもなくメディアと「専門家」』と題した記事の転載であります。
『遂に「日本売り」を招いた新型肺炎危機──危機を作り出したのはウイルスでも政府でもなくメディアと「専門家」』
<日本は新型コロナウイルス危機の震源は中国の武漢と思ってるが、世界には横浜のダイヤモンド・プリンセス号が震源だと思われている混乱ぶり>
2月24日。
日本は振り替え休日で、テレビのニュースはひたすら新型肺炎でうんざりだったが、夜になるとネットのマーケットニュースは危機を伝えていた。
米国株価指標、ダウ平均は1031ドルの下落という大暴落。ナスダックの下落率はそれ以上で、3.7%の大暴落。
3連休明けの日本市場の株価は日経平均の下落は1000円を超えるものになるのは確実だ(これをみなさんが読んでいる頃は大暴落のあと、乱高下しているだろうが)。
当然だ。
これまで、株価が暴落しなかったほうがおかしい。
中国では工場も学校も実質閉鎖。
再開したとはいうものの、学校はすべてオンラインで自宅から。誰も外出していない。
新型肺炎自体の影響は見極めが必要で、まもなくピークは過ぎるだろうが、これだけ過剰反応すれば、経済はストップし、株価は暴落するのが必然だ。
新型肺炎に対しては人々は過剰反応したが、株式市場では投資家は過少反応だった。
しかし、日本市場は米国市場よりも少し前にその気配があった。
<日本売りのサイン>
2月20日早朝、米国市場で円は急落。
ドル円は一気に111円台に突入した。
私は、これを日本売りの危機のサインと捉え、日本株は暴落すると予想し、円安だと喜んで日本株が上がるようなら株はすべて売るべきだと書いた。
実際、日経平均は400円以上上げたが、その後大幅下落し、前日比ではプラス79円だったが、その日のピークからは300円以上下げた。
21日は懲りずに東京市場では日経平均は100円以上上げて始まったが、間もなく下落に転じ、その日の高値からは200円以上下げて終わった。
私は、自分の短期的予想が当たったことを喜んでいるのではない。
日本の投資家に危機意識がなさすぎるのではないか、という危惧が的中してしまったことを憂いているのだ。
日本では新型肺炎と言えば武漢だが、世界では東京の(実際は横浜だが)ダイヤモンドプリンセス号だ。
中国では新型コロナウイルスの抑え込みに成功したが、日本では混乱が生じているとみられている。
それにとどめを刺したのが、感染症対策の専門家とみられている大学教授が、船内に入り、対策チームや政府の対応がいかに杜撰で不適切が世界に向けて発信したことだ。
これが世界の金融市場で日本売りが始まるきっかけを作った可能性がある。
株価についてはともかく、為替はドル高が進んだが、20日早朝はユーロドルは落ち着いており、日本円だけが売られたので、日本売りであることは間違いがない。
これがプリンセス号の船内レポートによるものであるかどうかはわからない。
きれいごとに振り回される世論
海外では、以前から日本の方針について危惧が一部に見られた。
もっと強権的に隔離したり、移動や行動を制限したりするべきではないか、という日本政府の人権を尊重した対応に対する批判だった。
問題なのは、日本国内では、当初、中国人観光客が減ることによる短期的な経済への影響が最も懸念された。
次には、クルーズ船船内で不自由な思いをしている乗客の不満をテレビのワイドショーが電話で生で会話をして取り上げ、政府の拘束や自由を認めない対応を批判した。
しかし、その後、感染が判明した人数が増加するのに驚き、一転して、感染対策が甘いという批判に180度打って変わった。
そして、件の専門家の大学教授(神戸大学感染症内科・岩田健太郎教授)の内部告発動画が世界的に話題となり、世界的に話題となったことで、日本国内でも話題になり、政府は猛烈に批判されることとなった。
各方面の圧力を受けて、政府はやむを得ず、ということなのか、ある程度落ち着いたからかは、外部からは判断できないが、乗客を船内に押しとどめる方針から彼らを下船させる方針に切り替えた。
そうすると次には、感染の可能性がある人たちを日本中に拡散させていいのか、という批判が高まっている。
いったいどうしろというのか。
<すべてを救うことはできない>
問題点は3つある。
第一に、日本の人々、社会は目先のこと、それも極めて部分的なことに情緒的に反応することである。
これによって、長期的な戦略も立てられないどころか、このような危機対応に対しても社会、世論自体が揺れすぎてしまい、危機に対する社会としての方針を政府あるいはトップが定めることがむつかしくなってしまう。
ぶれる社会だ、ということだ。
第二に、部分的かつ瞬発的かつ情緒的な反応が群集的なうねりを作ってしまうことから、大局的な判断を社会全体でできなくなってしまう、ということだ。
つまり、大局判断のできない社会、という問題だ。
第三に、1を捨てて9を取る、ということができず、すべての人を救わなければいけないというきれいごとに縛られ、リスク判断ができなくなり、政治的には、つねに八方美人的な対応を取らざるを得ず、各方面がそれなりに納得するように神経をすり減らし、危機の時には結局、全員の不満を残したまま、全体の判断としても、わかっていながら次善の現実的に望ましい対応ができなくなってしまうことだ。
良い顔をみんなにしたい、八方美人社会という問題点だ。
しかし、今回の現場、政府の対応は、現実的には非常に良くやっていると思う。
一方、政府の対応をしたり顔で批判する輩どもは最悪だ。
これは今に始まったことではないが、揚げ足だけをとる。
部分的に攻撃する。
今回の問題はそれで政府の動きに制約条件が増え、結果として政府の対応が難しくなってしまうことだ。
出来ないアドバイスは有害なだけ
YouTubeで告発した専門家。
彼は駄目な専門家である。
政府にアドバイスを本気でする気があれば、いや政府に限らず、息子でも友人でも学生に対してもそうだが、できないアドバイスは意味がないどころか、百害あって一理無しである。
できないことをやれ、と言われると慌てふためく。
いままでできていたこともできなくなってしまう。
危機にあるときはなおさらそうだ。
子供や学生ならパニックになってしまって、受験にも人生にも失敗してしまうだろう。
今回の政府は冷静だから大丈夫だと思う。
今回の専門家の指摘の何が問題か。
指摘が事実としては正しい、理論的には正しいだろう。
そして、指摘の事実は政府は120%わかっていることなのである。
わかっているけどできないのだ。
できていないのだ。
なぜか。
怠慢だからでも、あほだからでもない。
制約条件がきつすぎて、現実的にはできないのだ。
人が足りない。
クルーズ船の船内という極めて難しい環境である。
3700人という極めて大人数である。
対応する医師、職員、スタッフの数が足りない。
新型ウイルスでまだ分かっていないことが多すぎる。
<批判ではなく提案を>
このような条件の中、現実に全力で対応しながら、考え、試行錯誤も重ねながら対応しているのである。
わかっているが、できていないことを、したり顔で指摘して、できていないと世界中に拡散しても、何も改善しない。
ただ、日本は危機だ、という誤解が世界中に広まっただけのことだ。
民間同士、日本でなければ訴訟を受けてもおかしくない。
テレビのワイドショーもそうだ。
本来なら訴訟をうけてもいいはずだ。風評被害を起こす、という犯罪なのであり、風評で動く人々も罪深いのである。
危機の現実、危機における真理を分かっていない人々は黙っていて欲しい。
検証は後だ。
今は、今できることを全力で行い、何か改善できることが政府にある場合には、改善策、現在すぐに実行可能で具体的なアクションプランとして提案するべきだ。
今するべきは、批判ではなく提案なのである。
しかも、現実を踏まえた具体的な提案なのである。
ワンチームという言葉を軽薄に使っていた人々、メディアは、いまこそワンチームだということを分かっていないのだ。
転載終わり。