深夜食堂

いつものようにゲンがマスターや常連客に絡みながらできんぴらごぼうを食べていると、『めしや』に先生が入ってきた。「きんぴらごぼう、あるかしら？」「あるよ」席に着いた先生は出されたささがきのきんぴらごぼうを嬉しそうに食べた。ゲンはその姿をまじまじと見つめていた。
先生はゲンの恩師だった。ヤクザのクセに下戸のゲンは泥酔し、先生に告白して頬を張られた挙げ句「俺を叩き直してください！」と全力で頭を下げた。
久しぶりに帰国し、懐かしい人々に連日会う先生。『見舞い』として病院にも寄った。ヤクザであることを隠して学生のように自分を慕うゲンに、先生は熱海まで連れ添うはずだった既婚の昔の男を捨て、体を許した。
最後の日、めしやで煙草を一本吸った先生。ホテルでは、また泥酔して眠るゲンに「バイバイ」と口付けし、米国へと帰って行った。
ゲンがカタギになった。めしやでも噂となり、冷やかしできんぴらごぼうをありがたがる客もいた。そのめしやに、一通のエアメールが届いた。
店の制服姿のゲンがパチンコ屋の出玉のケースを運ぼうとしていると、封の開いた件のエアメールを持った竜が現れた。渡された手紙を読むゲン。ケースの出玉を踏み散らすゲン。叫んで、膝を付き、泣いた。
いつか、もう過ぎた日。ゲンは先生とベンチに並んで座っていた。先生は寒いのかゲンの上着を腹の辺りに掛けていた。ゲンの知らない、静かな日だった。