旅をしながら大工をする幹太は、妻子の待つ里へ下りる前に里の側の山で一休みしていた。ふと見ると草の中に赤い実が落ちていた。「ありがてぇ、スモモか?」幹太は赤い実を摘まむと口に入れた。
里へ帰ってきた幹太は旅先の話を妻子に語って聞かせた。子は素直に喜んだが、妻は旅を止めて里に止まるよう求めた。「もう少し、歳を取ったら落ち着くからさ」腕一本で渡り歩く自由を、若い幹太は好んだ。
しかし、幹太は奇妙な夢を見るようになった。大きな杉の木が育ち、そびえ立ち、森を山を見詰める。時が過ぎてゆく。そんな夢だった。木の夢は再び旅立った後も行く先々で見た。幹太はその木が何なのか? 尋ね回るようになったが、そんな大木、誰も知らない。そんなある日、幹太は道の団子屋でギンコに出会った。知った顔だった。「あんたは十ほどの子供だった。一行にはもう一人子供がいたな。それから長老の爺さん。あの爺さんは子供頃からよく見た顔だ」ギンコは怪訝な顔をした。「お前、歳いくつだ?」大して歳の変わらない幹太をギンコは警戒し、去っていった。確かに、知るはずのないことを幹太は知っていた。
幹太は衝動に駆られ、故郷の側の山に向かい、そこで巨大な『切り株』を見付けた。「これか、そんな」木の根の上で呆然とする幹太。だが、どうしようもない。立ち去ろうとすると、両足が木の根と同化している! 「誰かいないか!」助けを求めるとギンコが現れた。「遅かったか」思い返すと、ギンコは確かに幼い頃に『渡り』の二人と共にこの大木の側に来たことがあったのだ。里の者達を呼び、根に斧を入れ、一先ず幹太を助けた。
2へ続く
里へ帰ってきた幹太は旅先の話を妻子に語って聞かせた。子は素直に喜んだが、妻は旅を止めて里に止まるよう求めた。「もう少し、歳を取ったら落ち着くからさ」腕一本で渡り歩く自由を、若い幹太は好んだ。
しかし、幹太は奇妙な夢を見るようになった。大きな杉の木が育ち、そびえ立ち、森を山を見詰める。時が過ぎてゆく。そんな夢だった。木の夢は再び旅立った後も行く先々で見た。幹太はその木が何なのか? 尋ね回るようになったが、そんな大木、誰も知らない。そんなある日、幹太は道の団子屋でギンコに出会った。知った顔だった。「あんたは十ほどの子供だった。一行にはもう一人子供がいたな。それから長老の爺さん。あの爺さんは子供頃からよく見た顔だ」ギンコは怪訝な顔をした。「お前、歳いくつだ?」大して歳の変わらない幹太をギンコは警戒し、去っていった。確かに、知るはずのないことを幹太は知っていた。
幹太は衝動に駆られ、故郷の側の山に向かい、そこで巨大な『切り株』を見付けた。「これか、そんな」木の根の上で呆然とする幹太。だが、どうしようもない。立ち去ろうとすると、両足が木の根と同化している! 「誰かいないか!」助けを求めるとギンコが現れた。「遅かったか」思い返すと、ギンコは確かに幼い頃に『渡り』の二人と共にこの大木の側に来たことがあったのだ。里の者達を呼び、根に斧を入れ、一先ず幹太を助けた。
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