豊玉毘売、奇(あや)しと思ひて、出(い)で見て、【見感(みめ)でて】【目合(まぐあい)】して、其の父にまをしていはく、「我が門に麗しき人有り」とまをしき
海の神自ら出て見て
「この人は天津日高(あまつひこ)の御子、【虚空津日高(そらつひこ)】ぞ」といひて、即ち内に率入(いい)りて、【みちの皮】の【畳八重】を敷き、【きぬ】畳八重を其の上に敷き、其の上に坐(いま)せて、【百取(ももとり)の机代】の物を具(そな)へ、【御饗為(みあへし)】て、其の女(むすめ)を婚(あ)はしめまつりき。故、三年(みとせ)に至るまで其の国に住みたまひき
★見感(みめ)でて
見て気に入る
★目合(まぐあひ)
互いに目配せして情を通じる
★虚空津日高
日の御子
★みちの皮
あしか。海獣。皮は珍重された
★畳八重
敷物、折り重ねて用いることが多いのでタタミという
★きぬ
あらく織った粗製の絹
★百取りの机代
多くの結納品
★御饗為(みあへし)て
もてなしの食事
婚姻の儀式の一つ
■豊玉毘売は不思議に思って、門の外に出て見て、たちまち火遠理命の容姿にほれぼれして、互いに目配せして心を通じ合わせてから、その父の神に「私どもの門のところに、美しい男がいます」と申し上げた
そこで海の神はみずから門の外に出て見て「こな人は天津日高の御子の虚空津日高でいらっしゃるぞ」と言って、すぐに宮殿の中に連れて、あしかの皮の敷物を何枚も重ねて敷き、絹の敷物を何枚もその上に敷き、その上に火遠理命を座らせて、たくさんの結納品を揃え、御馳走をした上で、その娘の豊玉毘売を結婚させた
こうして火遠理命は三年、海神の国に豊玉毘売と一緒に過ごした