日本人としてのアレ。

通りすがりで会ったなら、その出会いを大切にしたい

『アンデッドデイ』

2015-09-09 | 曼荼羅タイト
出来心だった、今では後悔しない訳がない。

深夜にランニングしている時、気になった空き家。


なんとなく、

なんとなくとしか言いようがない衝動。


二階建ての昔ながらの一軒家、庭もない、その家の横には、もう何年も乗られていない車が埃をかぶっていた。

とくにそんな事を考えて、じっと見た訳ではないけれど、ベランダまで登る経路が見えてしまった。

あのブロック塀に足をかけて、あのベランダまで手をひっかけて、登れば、ベランダまで入れるかなぁ・・・


何かを盗みに入った訳じゃない。

盗むものなどナイと一目瞭然の空き家だ。


僕は、何も考えないで、その経路を登った。

ボルダリングでも楽しむように、

ベランダにはあっさりと登って、窓に手をかけた、ガラリ。


開いた。




古びた畳の臭いが、新鮮な深夜の空気に混ざる、

(うわ、くさいなぁー)


そのニオイで、自分が何をしたか理解した、僕は、知らない人の家に勝手に入ろうとしているんだ、と。

でも空き家だ、盗む気もない、

少しだけ間取りを見て、玄関から出ればいい、それだけの事。




昔住んでいた家族や、これからこの家に幸せを持ち込もうとする家族には悪いけれど、スニーカーを脱ぐ気にはならなかった。

窓を全部開けると、その部屋は、寝室だった様に思える広さ、破けた押し入れ

立派な箪笥、一番下だけ、少しこちらに開いている、

傘を被った電球、そこから垂れる、色の判らない紐



入ってしまった。

一歩、


箪笥の、一番下の段が少し開いているのが気持ち悪かったので、つま先で蹴る。

ドン!

自分の蹴った音に驚いた。


その横には、カレンダーがあった。

1978年9月

カレンダーの製作会社は、間宮自動車と言う、地元の車屋さんだろうか?

(うわぁ・・・僕が生まれる前から、空き家なのかよ・・・)

この家に興味が沸いた。

その部屋を出ると、この二階には、他に二部屋ある様だったけど、他の部屋には入らず、階段を下りた、

真っ暗。


自分のスマートホンを懐中電灯モードにして、足元を照らした。


慎重に下りる。

階段を下りると、廊下は右側にL字に曲がっていた、懐中電灯で照らして見られる範囲では、右側に一部屋

奥の方には、台所などがありそうな部屋がある。


手前の右側の部屋のドアを横に滑らせて開けようとしたが、なかなか固くて開かない、力任せに一気に開けると、スタン!!と音がして開いた。




また違った部屋のカビ臭さが、二階とは違う異世界の臭いを感じさせる。


部屋を見回すと、

間違いなく1978年から、そこにあるであろう丸いちゃぶ台と、今では見られなくなったテレビ。

赤ちゃんが遊ぶ為の、ちいさな怪獣のおもちゃが転がっているし、周りには、茶碗なども転がっていた。


食べ物の腐敗臭なのか、嗅いだこともない気持ちの悪くなるニオイが酷いので、部屋を出た。

律儀に、ドアをしっかりと閉めた、パシャと閉めた瞬間に、その奥のテレビの電源が入った音がして、テレビから、おそらく当時のものであろう、テレビ番組の音が聞こえてくる。


(え?)と思うと、考えもせずに開けた、さっきの様な力は必要なくスっと開いた、そして目に飛び込んで来たのは、眩しすぎる光、そして『わぁー!!誰だ!お前は!!』と、大人の男の声

僕は、眩しかったので目を開けていられず、半分目を細めた状態で、相手を確認しようとしたけど、相手は『誰だ!!』ともう一度叫ぶ。



何かを投げつけられた、何か細い棒のようなもの、カラリと床に落ちる、箸か?

そんな事より、人が住んでいたんだ!と思って、謝るのが先だ、「スイマセン!!空き家だと思って!!」

相手は続ける、『泥棒か!!』

目が慣れてきた僕は部屋と相手を確認した、


さっき、本当に一瞬前までは、朽ちた廃屋だったけれど、今は、新しい訳ではナイが、1978年のそれだった。


(え?なんだこれ)


困惑している間に、『コノヤロー!!』と叫んで、その家主であろう人間が、僕に襲い掛かってきた、当然、僕も抵抗する。

(うわ!)っと思った瞬間には、その男を突き飛ばした、


男が転げる、転げて、頭をテレビにぶつけた。

テレビも床に転がり落ち、僕は、(見られた!!)と言う思いから、焦りが止まらない。


その男は頭を押さえながらも立ち上がり、僕を睨み付けた、自分の妻であろう女性の名前を呼びながら、僕を泥棒だ!と叫ぶ、

僕は、ちゃぶ台の上の瓶ビールを持ち、とっさに黙らせるために、その父親の頭にめがけて振り下ろした。


自分の腕にかかる負担の振動から、おそろしい骨の感触がした。

父親は、声も出さずに倒れた。



襖が開く。

女性と目が合った、

僕を見て、ビール瓶を確認し、自分の旦那であろう人間が倒れているのをみつけると、まるでサイレンの様に叫んだ。



その女性は、背中に赤子を背負っていた。

僕には不釣り合いに見えた包丁に、女性の腕の筋肉がギっと締まる。


普通なら、赤ちゃんを背負ったお母さんが包丁を持つのには恐怖心など感じないが、僕の今の状況からしたら、その包丁の使い道が自己防衛の道具に使われるのは容易に判断できる。

「そうじゃないんです!」と叫ぶと同時に、その母親は、僕に向ってきた『この、人殺しぃーーー!!!』



(う、わぁー!)と思った時には、僕は母親の腹部に強烈に踵を飛ばした。

ゲロを吐くような声を発しながら、母親は倒れ、赤子も泣き出した。


僕は、とっさに包丁を持ってしまい、もう仕方がない!として、母親の胴体に何度も何度も突き刺した。



転がる重い肉を何度も刺しているうちに、赤ちゃんの泣き声で(早く逃げないと!)と我に返った。



赤子は、倒れた拍子に母親から離れ、額を切り、大きく割れている。



倒れて死んだ父親を確認し、僕は包丁を床に捨てて、その家の玄関から、飛び出した。



飛び出して、振り返る。


(え?え?・・・)


僕が侵入した家には灯りがついていない、

冷静になれるはずがない、不可思議な事が起こり、人を殺した実感もある。

けれども、その家に、人がいる気配がないし、



この時間に、あれだけ、男が叫び、女が奇声をあげた、赤子も泣き喚いたが、近隣住民の家から、【何事か?】を確認する気配もない。

辺りを見回し、もう一度、その"空き家"に、玄関から忍び込んだ。


(え?・・・・)

灯りもついていない、人の気配すらない、それに、人が生活をしているニオイではなく、気持ち悪い腐臭しかしない・・・


僕は、何が起こったのか、判らないまま、その家を飛び出し、

全力で走って、家に帰った。







1978年9月9日、


間宮自動車の社員、土方正文さん(42)の妻・清美さん(38)が包丁で惨殺される事件があった。

お腹には、赤ちゃんもいたとの報道

夫・正文さんは、一命をとりとめるが半身不随

長男・一文君(2)は、額に大きな傷を残すも生存。











僕は昨日の人殺しを忘れられず、家に帰って来てから調べた事件だった

犯人は捕まらず、未解決のまま

何がなんだか解らない・・・。


僕の父親の名前は、土方正文、数年前にベッドで死んだ。

兄貴は、額に大きな傷のある、一文。

僕の四つ、上の兄貴だ。
コメント
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