「シュリ!!シュリぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
と叫んだ、
けれど、実際の僕は寝ている状態だし、布団の僕は、少しだけ寝返りをうつ・・・くらいのものだろうか?
そんな想像をする気もなく、僕は、自分の睡眠中の彼女の為に、幽霊屋敷の中で、引き裂ける程の力で喉を使った。
その、僕の叫び声も届かず、シュリの反応はナイ。
少しだけ助走をつけて殴り掛かれば届く位置にいる、白いワンピースの女は、僕よりも大きな声で、自分が探し求める相手の名前を叫んでいる様だけれど、聞き取る事は出来ない。
聞き取れるような音量じゃないと言えば、伝わるかもしれない音量だ。
その白いワンピースの女に、【黄色のマネキン】が捕まった。
以前までの僕から見た黄色のマネキンの印象は、特に冷静で、表情を変える事はなかった。
【赤】などは、僕が命令口調で何かを命ずると、一瞬、コチラを見た後、不服を抑えて業務に努める印象だったけれど、黄色は違った。
黄色は、一度たりとも、僕に目を合わせた事がナイ。
思い出せば、こんな夜があった。
僕が、飲んだこともない色の液体を飲み干し、酔っぱらっている感覚に近い陶酔感を覚えている時に、【黄色】に言った。
「ヒマワリを持ってこい!!!」
座り心地の良い、至極のソファで僕は叫んだ、勿論、この夢の中で。
黄色は後ろを振り向き、両手を拡げ、間を確認して一気に閉じた。
何かを捕らえたのは僕にも見えた。
黄色がこちらを振り向くと、立派な黄色に輝くヒマワリを持っていた。
僕は、感動したが、その鮮やかさに嫉妬した
今、思えば、何故、そんな事を言ったのかは判断できない、陶酔感のせいにしたい、「そんな黄色じゃねーよ!!!」
僕は、グラスを黄色に投げつけて、見たこともないようなヒマワリを蹴り飛ばし、黄色を殴りつけた。
黄色は、鼻から黄色の液体をこぼしながら、次の準備をした。
もう一度、【黄色】が出現させたヒマワリは、僕から見たら、黄色なんだけども、見たことがナイ黄色で、
言葉と心を失った・・・、美しすぎたのだ。
この僕の世界では『限界』と言うものがナイらしい・・・。
キレイなものは、常に更新され、驚かせてくれる・・・。
そんなやり取りを、黄色と、一晩中やりあった。
その朝、二日酔いの感覚のまま、眠りの中で目覚めると、
失明するほどの黄色の眩しさが、僕を責め立てる・・・
その時は、シュリが近くにいた、「ちょっと・・・、昨日は、やりすぎじゃない?・・・」
声のトーンは呆れていた。
僕に、それを言うのは初めてじゃないんだろう、この世界では。
このまま起きて、この花束を現実世界に持ち帰られるなら、億万長者の一人になれるだろう・・・
その様な未知の黄色いヒマワリで、部屋を飾っていた。
そんなヒマワリを創造してくれた【黄色】が、白いワンピースの女に・・・捕まっている。
女は、黄色に尋ねた。
「今、あの人はどこにいるのよ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
黄色は答えない、
一瞬の沈黙をかき消すような破裂音がした、
黄色が、女の手の中で弾けて散った。
まるで水風船が爆発したように・・・
僕が、腰を抜かして、ただ茫然と、出来事を時間に任せていると・・・
白いワンピースの女は、色々なマネキンを捕まえて、破裂させていった。
部屋の各所で、色が弾ける。
【紫】のマネキンを破裂させた時に、やっと僕は、気付いた。
部屋の色がドンドン・・・
ドンドン暗くなっている?
暗くなっている訳じゃない!!
色がなくなっている!!!!
紫は、シュリが大好きな色で、僕がシュリの爪に塗った初めての色だ。
「あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
色が失われていく世界に、何をしていいのかは分からない、
僕は叫ぶしかなかった
ドンドン、この夢の世界からは色がなくなっていき、もう、灰色、白と黒とでなんとか認識出来るほどになった・・・
その時にふと、白いワンピースの女を見ると、今までの様子とあからさまに違った。
その女にだけは色があり、
白いワンピースには、残酷な血痕の赤や、人に殴られたような跡の青と、痛々しく腫れた黄疸
薄汚れた深緑や、髪の毛の黒さもしっかりと見えた。
なんなんだこいつは!!!!
シュリを助けたい、シュリの色だけは奪わせないぞ!!!と僕は抵抗した、
部屋にある、色のナイ絵画や壺、柔らかい花、色のマネキンの残骸などを投げつけた・・・
投げつけながら逃げる、
玄関から出れば、この悪夢から覚めて、僕は平凡な"売れていない芸人"に戻れる気がした。
"もう、こんな世界どうでもいい!!!!!"
全力疾走で玄関に走る。
後ろを振り向けば、あの女の様子はナイ。
玄関のドアを開ける、その時に、冷蔵庫が鳴った。
声がする、直ぐにシュリだ!と気付いた。
僕はこの世界から逃げる事を忘れて、冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の中には、色を亡くした真っ白いシュリが固まっていた。
「シュリ!!シュリ!!!!!」
シュリは、死んではいなかった、なんとか生きている様子。
僕は、冷たく凍えて、強く持ってしまえば、パリンと砕けてしまいそうなシュリの手を握り、冷蔵庫から出した。
あの女の様子は周辺に、ナイ。
「シュリ・・・、シュリ・・・、ここから逃げよう、俺が目を覚ませば大丈夫なんだから」
と言いながら、左手でシュリの右手を握り、
僕は、自らの右手でドアノブを握って開けた。
ぐっ・・・わぁーーーーーああああああああぁぁああーーー!!!
ドアノブを開けた先には、直径3メートルはある様な、あの女の顔がニッコリと笑って、僕に叫んだ。
『おおおおーーーーー、おぎる・・・おぎ、ぎぎ、おき・・・起きる時間よぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!!まだぁー、まだまだ、あんだわぁーーーー!!!!・・・・・』
僕は、気を失う感覚で、布団の中に戻った、
夢の中、右手で本気で握っていたのはドアノブではなく、自分のスマートホンだった。
いつもの部屋だ・・・
汚い部屋だからこそ、色が沢山ある・・・
とても深い呼吸を一度して・・・、今日もバイトだと再確認した。
「そうだよな、夢だよな・・・」、不意に出た独り言に、自分でも笑ってしまった、「はは・・・、最近、飲み過ぎてたかな・・・」
なんとなく。
汗だくになった自分の脇の下をなでながら、
なんとなく、見た、
現実では出逢うはずのナイ、シュリちゃんのインスタグラムを見てみると・・・
彼女のタイムラインの写真が全て、白黒になっていて・・・
「あ・・・・・・、あああああぁぁぁぁあぁぁぁーーーーー!!!!!!!!!」
僕は、奇声の勢いで自分のスマートホンを壁に投げつけた。