■REM(レム)■ そりゃありがちなノンストーリーモノだけど、つまりこれ式モチーフでやりゃあドラマ作りの才能なくてもいっくらでも創れるじゃん系の典型・ある意味安易な映画には違いないけど、うん、普通に真っ当に良く出来てるんでとりあえず五重丸。幻覚と現実が適当に交錯した軽みで勝負していながら、主人公がだんだん現実を思い出していくプロセスがかぶさるので微妙に重厚ッて感じなんです。指が血の痕を引きながら歩いてったり、モンスターとしか言いようのない胎児が腕を掴んで離さなかったり、あのへんのホラー味ビジュアルは数ある類似作に比べて断然濃密でしょ。ただ、邦題から〈眠り〉そのものがテーマになってるものと予期してたんで、そこハズされたのは良かったんだか悪かったんだか。玄関のピンポーン、電話の呼び出し音、隣家の声、水漏れの音、そういった音響小道具がこれでもかと反復されてテンションが高まっていく。うまいよ。ちらちら訪問してきた女子学生と精神科医が各々もうちょっと絡んでくれるかと期待したけど、まああのくらいあっさりが結果的には良かったのかも。つまり間男が最終的な絡み方してくれたぶんね。もうちょい睡眠と覚醒の境目をいろいろ越境する瞬間を見せてほしかった気がするけど、不眠症の大学教授がついに壊れちゃった経緯を、見せることなく伝える手法はヨシ。あるときは点々と、あるときはタラーリと、あるときはじわわーと、血が見え隠れする画面からは目を離せない。奥さんの中途半端な罵声がちょい余計だったけど、全般、大いに楽しめました。
■日本のいちばん長い日■ うーん……。やっぱ帝国陸軍はこれからが本番と思ってたのかなあ。やる気満々だね。主力決戦を何度もやって完敗を認めている海軍大臣と、まだ本格的な陸戦をやってない、今までのは局地戦にすぎんと息巻く陸軍大臣の対立が面白い。そりゃ太平洋戦争、中途半端っちゃあ中途半端で終わったのは事実かもしんないけど。(特攻機がまだ一万機用意されてたってホント?)そうさね、満州以外の中国大陸にいた将兵らは「え?」って感じだったんだろうけど。ま、どうでもいいけど、玉音盤録音と同時に出撃してった最後の特攻隊がアメリカ艦隊にせめてもの損害をどれほど与えることができたのかが気になる。幼児を多数起用したあの出撃シーンこそ名場面だし。調べてみよっと。
■キャッチ22■ うむ、使える使える。定評どおりパラドクスの1項目に登録せん。にんまり。全裸で勲章いただくってのは佯狂ですか。ま、あんなんで許してくれるほど軍は甘くないってか。んでラスト、何気なく逃げちゃうのね。ギャグの暴露とともに。「撃墜される練習」はよかったね。盛り上がりもしないなんとなくムードがつくづく情緒的というか。
■バタフライ・エフェクト■ テクノ不要のタイムトラベルねえ。都合よすぎるけどまいーか、こういうのだったらいくらでも続けられるなあ、と見てたら(日記のない歴史に入っちゃったらオシマイだよなあ、と心配してたら敵もさるものやっぱそれ組み込んだのね)、ラスト近く、将来の恋人と早々に縁を切っとくところ、あそこでこのモチーフがやっと生きましたな。ただ、このテのお話についてはやや哲学的な批評を加えとかなきゃいけません。というのは、ものすごい自己中ストーリーだってことです。つまり、自分についてこういう巻き戻し制限なしのパラレルワールドが実在するってことは、他の人間についてもそれぞれのパラレルワールドが進行してるってことであってね。現におやじさんも散々悪戦苦闘行きつ戻りつしたあげくのあの顛末だったってことだし。つまり主人公はですね、自分のことだけ考えてりゃいいってことなので。恋人を救うためとか考えるのはおこがましいってこって。彼女にはまた彼女のパラレルワールドがあるわけで。自分を中心としたパラレルワールドだけに囚われてると、なんか却って尊大なことになっちゃうわけです。(幸せな彼女といっしょに居たいだけ、という反論は不可。だって結局縁切りに行くんだもんョ)。なお人間原理的に考えると、この種のタイムトラベルというか貫歴史横断ができる場合、確率的にいって、自分がそのトラベラーであることはほぼ確実です。ということは、私自身が現にトラベラーではないってことは、現実にはこうしたパラレルワールドはないという証拠になります(マジレスでした)。でもま、いろいろ疵の多い映画ながら、過去を変えるたびに友人たちに性格ががらっと変わってるのは一々面白かったですわ。
■CURE キュア■ フム、やっぱああいうふうに拡散させざるをえませんでしたか……。仕方ないけどね。全体、ひじょーに個性的なサイコホラーになってただけにチト残念。あんなに無理することなかったのに。謎なんか必要ないんだから、ここまで雰囲気出しおおせてれば。刑事のトラウマはわかるけど、各々の犯人の個人的トラブルがわかるようになってないのが惜しいよ。究極の癒しは殺人だとかいう仄めかしになってるみたいなのでね。奥さんの壊れぶりをもっと詳細に見せてほしかったような。あの空っぽの洗濯機(だっけか)、やっぱこえかったですし。
■不機嫌なジーン■ 前半、何度中断しようと思ったことか。我慢して――というか毎回出てくる虫たちと進化論バナシに引きずられてなんとかズルズル――見続けた甲斐あって、後半それなりに挽回してくれました。南原教授が再び帰国したあたりからやや面白くなったというか(子ども教室の壇上で痴話喧嘩始めるとこは「またかよ……」とうんざりしましたがね)。なぜに前半ワタシが苛ついたかというと、なんかこう、コメディ作ろうって意気込んでるスタッフの熱は伝わってくるんだけど、うっとーしーのよ、キャストのどいつもこいつもコミカルこれみよがしで。べつに竹内結子って印象悪くないけど、頑張り過ぎよ、演技過剰。不自然。恋愛のことしか頭にない暑ッ苦しい女というか、ケンイチとやらいうぼんやり系小学校教師との恋愛なんぞどーしょーもなく運命性ゼロ厚みゼロだし、それ以前になんか好感持てないのねジンコに、同じテレビドラマでも『トリック』『ケイゾク』『やまとなでしこ』等に比べてなぜにヒロイン面がいまいちだったかゆーと、思うにどうも簡単なことなのでした。このドラマだけヒロインが処○でない。これに尽きます。ジラシ系ラブストーリーやるんだったら処○でなきゃオハナシにならんでしょ? つまり、遺伝子をばらまく♂の本能と並んで、慎重に相手を選ぶ♀の本能にまで言及しないと遺伝子テーマは完結しないっしょ。だから♀キャラは処○でないと片手オチなんですわ。そもそもしょせん元同棲カップルの縒り戻しバナシがメインだなんて、視聴者としちゃ関心薄いんですよ、スリル乏しくて。どうせすでに相性確かめ済みの仲なんてね。新鮮さゼロ。あーもーそれに、有明海の干拓がらみでは結局は「環境守れ」が正義です、南原にしても実は干拓するな派だったんですみたいなお定まりパターンがウンザリ。大体ブラックバスが生態系乱すに決まってるって頭ごなしに決めつけてる仁子って学者としてどうよ? 調査始めるだけ始めりゃいいでしょうが?(そもそも生態系乱しちゃいけないなんつってたら、おめーら生物進化の事実否定するんですかと)。ま、いろいろ苦情は言いたいが、とりあえず二人が結ばれなかったんでホッとしました。御都合よすぎた『やまとなでしこ』あたりに比べて、ラストに限って言ゃぁこっちが断然上ね。普通に結ばれてたら目も当てらんないドラマになるとこだったよ、ああよかった。
■降霊■ えーとこれ、正直言いまして、オチんとこ意味わかんなかったんです。なんであれで「バレた」の?って。で、観終わってしばらくしてよく考えたら(考えるほどの価値ある映画じゃなかったけどさ、いや映画じゃなくてもともとテレビドラマってか)どうやらこういうことらしいな。女の子の遺体はすでに警察が発見して安置所に運ばれている。にもかかわらずあなた、「今あなたはどこにいますか」という問いに「土の中……寒い……」と答えましたね。はずレー、安置所にいるはずです。答え間違ってるのに、どうして土の中ってわかったんですか、あなたが埋めたからでしょう!」とまあ、そういう理屈らしいな。しかしだね、よく考えてもみてよ、なぜそれで「ボロを出した」ことになんの。霊媒の呼び出した霊が真に現在霊って確証がどこにあるの。霊媒なんて非現実的な現象なんだからさ、タイムラグくらいあるのかもしんないでしょう。それに女の子の霊は今現在、まだ自分が土の中にいると「思い込んでる」のかもしんないでしょう、実際は安置所にいながら。残留思念って説明もありだしね。だからこれねー、あまりに霊媒の言葉を厳格に受け取りすぎて「ホントの現在に対応してなきゃいけない」「霊の主観ではなく客観的事実を言い当ててなきゃいけない」ってルールを勝手に適用して、そこを外したんだからあんたインチキ、インチキのくせに「土の中」って当てやがッた、ゆえにあんた犯人、ときた。あのですね~。こういう、ちょっとでも間違ったらシッポ掴んだぞ、式解決ってよくありがちだけど、御都合主義の裏バージョンというかいい加減やめといてよ。霊媒もそのへんすぐ反論しろよ、全く。ホラーっつーより世の中にゃなんとまあこんなアタマ悪い人もいるんですよー方面の恐怖劇だったのかも。確かに怖いわナこんなのと関わったら。とにかくまあ、前半はなかなか見物だったのにねえ。録音素材に紛れ込んでたらしいどうでもいい声なんぞにやたら怯える技師であるとか、てんでなってない脇役がいい味出してて。しかしなんというのか、つくづくあまりに愚かすぎて。女も男も、そいから学生も(何が悲しくてこんな霊媒信じる気になったのよ)。えーとところで役所さん、空のまんま持ってって富士山麓で一度もあけもせずただロックだけして重量の変化にも気づかず持ち帰って車の外に出してはただ何日か放置したジェラルミンケースね、あれそもそも何のために持ち運びしたわけ? 女の子に潜り込ませるため、ドラマを成立させるためだけ、ってのはいくらなんでもナシですよ。
■幻の湖■ なるほろなるほろ。悪評まみれで知られるこの映画、ついに観てみました。で、まあ、確かに。ヒドいっちゃヒドイ出来です。しかもオバカ確信犯としてやってるんじゃなくて大作気取りでやってるところがムゴイ。でも、正直いいますと、終盤の入口あたりまでは結構楽しく観ちゃいました。ともあれ、「走る」がいけなかった。作曲家を追いつめてくところ、間延びしすぎよ。短距離走ならまだしも長距離なのでねえ。しかもそう大した悪人とも見えない相手だし。とにかく感情移入絶対不可能のトルコ嬢がメインに躍り出っぱなしされても観てる方としては反応のしようがなし。まあ定評どおり謎の東宝50周年記念大作でしたと。