名残の月
2024-08-12 | 思い
名残の月
「せんせ~、ジョーバ連れてって~」2年生の優衣が言った。
「ああ、いいよ」と答えたが、ジョーバって何?「乗馬」かな?もしかして遊園地のメリーゴーラウンドのことかな?と考えを巡らせた。
「どこのジョーバなの?」
「上越大通りのセブンの前のジョーバだよ」
・・・・ああ、そうか。それは『上越バイキング』という焼き肉店のことだった。
授業中は落ち着きがなく、成績も下降している優衣だった。だから、「ジョーバへ連れてって」は、「優衣のことを見捨てないで」というシグナルだと思った。
だから私は「ああ、いいよ。期末考査で優衣の成績が少しでも上がっていたらね」と答えた。
・・・それから夏休みに入り、そして夏休みが終わった。
二学期が始まって2週間が過ぎるというのに、優衣は学校に来ていない。
夏休みの間に両親が離婚して、優衣は母親と一緒に他所へ引っ越したのだという。親しかった級友との連絡も途絶えているらしい。
・・・そして、今日は初秋の9月の13夜。見上げると、空には名残の月が浮かんでいた。
・・・・ああ、そうだったのか。「せんせ~、ジョーバへ連れてって~」は、優衣が父親に言いたかった言葉だったのだ。
まだ子供だった頃、優衣は両親に連れられて何度も「ジョーバ」に行ったのだろう。家族が団らんで、あんなに楽しいバイキングだったのに・・・。
そう、あの店では、大好きなプリンやケーキも食べ放題だった。そしてくるくる回っている綿飴機の前にじっと立って、優衣はふわふわと純白な夢を膨らませていたことだろう。
・・・優衣は行ってしまった。父親への思いを断ち切るかのように。あれは、もう二度と会うことの叶わない父との想い出を呼び戻そうとしていたのだろうか。
「せんせ~、ジョーバ連れてって~」この言葉を私の心に置いたままで。
以上は、siawase-kさんに発掘していただいた2013-10-05の記事です。
幸せ-kさん、ありがとうございました。(5381naninani ゆ~)