ナナ子ー(2)

妙高山から夕立が降ってきたので、シゲルたちは神明社の境内に駆け込んだ。
シゲルたちは御堂に潜り込んで、パッチ(めんこ遊び)をした。赤バットの川上や青バットの大下、火の玉投手荒巻などの絵がある丸いパッチで、阪神ファンのシゲルは物干竿の藤村選手のものを集めていた。
雨が上って午後4時が過ぎて、仲間たちが家に帰ってしまうと、シゲルは急にあの女の子のことが気になってきた。雨に濡れていないだろうか、無事にお家に戻っているだろうか。

カラマツの林のもっと上の方にある白樺林の中に白い洋館が見えた。あの女の子はあの別荘の子なのだ、シゲルはそう思った。

シゲルは神明社のクヌギの森からカラマツ林に通じる道を辿っていった。北國街道沿いの小川の浅瀬に、農耕馬用の「馬洗い場」があって、岸には月見草やオトギリソウが咲いていた。北国街道を横断すると、清水が湧き出ている小さな祠(ほこら)に馬頭観音が祀(まつ)られていた。
オオバコや白詰草を踏み踏み、シゲルは馬頭観音の山道を上っていった。道端の芝草の中から、捩摺(もじずり)のピンク色の穂が細長く伸びていた。その向こうには、黄色い小花をいっぱいつけて女郎花(おみなえし)が咲いていた。
女郎花が群れ咲く山道をさらに上がっていくと、ヒナゲシが咲いていたお花畑に出たが、芥子の花はもう無くなっていて、あのセミのお墓も見当たらなかった。そして路傍にはユウスゲが咲いていた。シゲルはユウスゲの幹に留まっているセミ殻、空蝉のアブラゼミをじっとみていた。


ヒグラシが一斉に鳴きだした。カナカナカナと鳴くヒグラシの声が、あの日のあの瞬間の、あの少女の悲鳴と一緒になって、シゲルの耳に「ウワーン、ウワーン」と響いてきた。(完)

以上、「ナナコ」は私(ゆ~)が『文芸妙高第41号』に寄稿した「蝉しぐれ」の一部を切り取ったものです。お読み頂きありがとうございました。

例えば、妙高市に「ふるさと納税」された人や、「文芸妙高」(@1200円)を購入して下さる方は大歓迎です。 ふるってご応募ください。

応募締め切りは、毎年9月末日。発行は翌年2月末です。
応募などの詳細については、下記へお問い合わせください。
〒944-0046 妙高市上町9-2 妙高市図書館内 文芸妙高編集委員会
電話 0255-72-9415
メール myoko_lib@extra.ocn.ne.jp

ご訪問、ありがとうございました。(ゆ~)