議員票で逆転して、自民党新総裁に安倍晋三元首相が選出された。中国での反日暴動などで、民主党政治の限界が露呈しており、自民党内には「次期衆院選で比較第1党となり、安倍氏は次期首相だ」と楽観視する声もある。ただ、政界の一寸先は闇。
政権奪還に向けて、新総裁が抱える「3つの壁」が見えてきた。
5人が乱立した総裁選は、一部で中傷合戦もみられたが、全国17カ所での街頭演説やメディアへの露出は党勢拡大につながった。読売新聞の最新世論調査(15-17日)では、衆院選の比例投票先として自民党を挙げた人は31%で、前回(8月11、12日)から10ポイントも上昇。党内には政権奪還ムードが高まっている。
しかし、安倍氏の先行きは平穏ではない。まず、野田佳彦首相は「衆院選の先送り」に傾いている。
来夏の「衆参ダブル選論者」として知られる民主党の輿石東幹事長を留任させたほか、先の通常国会で参院で問責決議を突きつけられたことを理由に、約束した「近いうち」解散の見直しを示唆している。尖閣・竹島問題が起きたため、衆院選による「政治空白」を危惧する向きもある。
現在の自民党執行部は、(1)特例公債法案を解散と引き換えるカードにする(2)秋の臨時国会でも、問責を理由に審議拒否を続ける-という強硬路線だった。
これに対し、安倍氏は「早期解散が基本だ」という考えだが、石破茂前政調会長は「解散しないからといって審議しないということがあってはならない」と語るなど、総裁選候補の中でも「早期解散論」と「法案成立に協力すべき」という立場で割れた。
この路線対立は、党内抗争の火種になりかねない。今回の総裁選は1972年以来の決選投票となったが、当時は田中角栄氏と福田赳夫氏の争いとなり、後に「角福戦争」と呼ばれる抗争に発展した例もある。
路線対立と絡み、「長老グループの復権」もネックといわれる。
総裁選では、引退を表明した森喜朗元首相、古賀誠元幹事長、引退した青木幹雄元参院議員会長ら長老たちの“暗躍”があからさまになった。自民党関係者がいう。
「森、古賀両氏が、谷垣禎一総裁に再選不支持を伝えて出馬断念に追い込んだ。自分たちに近い石原伸晃幹事長の苦戦が伝えられると、下位の2候補の票をそちらに移そうと動いた。決選投票では『脱長老・脱派閥』ではない候補者にまとめようとした。最初から最後まで、無視できない力を見せつけた。新総裁となった安倍氏は長老に気を使った処遇をしないと面倒だが、処遇をすればマスコミから『古い自民党だ』と批判される」
大阪市の橋下徹市長率いる「日本維新の会(維新)」の動向も、見逃せない。
やや、かげりが出ているとはいえ、産経新聞とFNNの世論調査(今月上旬)では、比例投票先に「維新」を選んだ人が23・8%に上り、自民党の21・7%、民主党の17・4%を上回っている。
安倍氏は維新と良好な関係を築いてきたが、総裁選では厳しい発言もしている。次期衆院選を見据えて、今後、自民党と維新の距離が離れて、全面対決になる可能性もある。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「尖閣・竹島問題を受けて、総裁選を通じて自民党の保守色が強まった。右傾化と長老支配が顕著になれば、有権者が離れる可能性もある。自民党が落ちれば、維新が受け皿となって伸びるだろう」と話した。
順風満帆の船出となるのか。