はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

赤壁に龍は踊る・改 二章 その1 開戦、決定!

2025年01月03日 10時35分12秒 | 赤壁に龍は踊る・改 二章
鄱陽《はよう》で水軍を調練していた周瑜が、孫権の要請で柴桑《さいそう》へもどってきた。
孔明は、はじめて美周郎……周瑜、字を公瑾をみて、なるほど、これは長江の水に洗われて磨き抜かれた白い玉のようなひとだなと、その美貌に感心した。
水練で日差しに痛めつけられてきただろうに、日焼けのひとつもしておらず、三十をだいぶ超しているのに、若々しく、二十歳すぎくらいにしか見えない。
所作もうつくしく、足取りも軽やか。
文武百官居並ぶなかで、だれよりも華美な衣をまとっているが、それがまったく嫌味ではない。
むしろ、このひとが着飾らなくてどうする、という雰囲気すらある。
孔明は孫権を中心とした御前会議において、漆黒の衣装を身にまとっていたが、新野でそうしていたように、着道楽に走らなくてよかったと思っていた。
派手な衣装を身にまとっていたなら、きっと周瑜と比べられたはずである。
孔明の目的は、いまのところは周瑜と対抗することではない。


周瑜を前にして、孫権もうれしそうに顔をほころばせている。
それほどに、周瑜を信頼しているのだろう。
周瑜のこのまばゆさを思うと、かれと並び立って不足のなかった小覇王の孫策も、かなりの美丈夫だったはずで、なるほど、世は英傑をひとり、ざんねんなかたちでなくしたものだなということも、孔明は思った。
孫策は許貢《きょこう》の食客に暗殺され、あえない最期を遂げたといわれている。
叔父の諸葛玄《しょかつげん》と、自分が去った後の揚州を平らげた人物が孫策で、その孫策の盟友が周瑜。
そう思うと、面白いめぐり合わせである。


孫権とは対照的に、苦い顔をしているのが張昭の一派だ。
周瑜の晴れ晴れとした顔つきを見て、これは降伏を勧めに来た者の顔ではないとわかったのだろう。
ひそひそと話し合っているが、その内容は今後のことについてか、それとも、周瑜についての噂話か……どちらにしろ、かれらの立場は弱そうだ。


型通りの挨拶が終わった後、孫権は曹操から来た無礼な降伏勧告の書状のことを周瑜に打ち明け、それから、どうしたらよいかと|諮《はか》った。
周瑜はまったく感心するほど明快で、
「開戦」
と、はっきり答えた。
理由を問われると、かれはよどみなく、孔明と同じことを語る。
すなわち、曹操の兵は烏合の衆であること、将兵は連戦により疲れ切っていること、荊州《けいしゅう》の水軍は曹操になついておらず士気も低いこと、そして、いまは冬に入ろうとしており、じきに曹操の陣営には疫病が流行する可能性が高いということ。


それを聞いて、孔明は、やはり龐統が、荊州の情勢を詳しく知らせているのだなと判断した。
周瑜は疫病の流行のことまで予見している。
細作《さいさく》の集めた情報だけでは、こうも的確に状況を分析できまい。
『龐兄はよい仕事をしているな』
と、孔明は感心した。


開戦。
周瑜が理由を述べるたびに、孔明が満座の中で挑戦者を論破した時とは、またちがった興奮が、場を支配していく。
だれのこころにも、闘志に火がついていくのがわかる。
周瑜がこれまで孫家のために働いてきたその信頼感ゆえの説得力だろうし、かれ個人の弁舌の冴えもまたすばらしかった。
曹操を破ったのちには、いずれ敵になる男。
孔明はその一挙手一投足を見逃すまいと、じいっと見つめる。
周瑜のほうは、一心に孫権をまっすぐ見ており、まったく目を逸らさない。
孫権はというと、周瑜のことばに魔法のように引き込まれていて、かれが語り終わると同時に、まさに打てば響く太鼓のように、叫んだ。
「よし、わしの心は確実に決まった! 開戦じゃ! 今後、わしに降伏を勧めんとする者は」
と、孫権はかたわらにあった剣を手に取ると、すらりと白身の刃を鞘《さや》から抜き放ち、おのれの目の前にあった机に、がんっ、と打ち付けた。
相当な力をもって斬りつけたのだろう。
机は真っ二つに割れた。
「この机のようになると心得よ!」
おおお、と家臣たちの雄叫びにも似た声が、場を包んだ。
「いまここに、周瑜を左都督《さととく》に命じる! かならずや、曹操を挫《くじ》けっ」
「この公瑾、かならずや曹操の野望を打ち砕いて見せます!」
周瑜が言ってのけると、今度は文武百官から明るい歓声があがった。
まだ戦もはじまっていないのに、戦勝まちがいなしの雰囲気である。


『たいしたものだ』
孔明は周瑜のすさまじい場の盛り上げ方に、舌を巻かざるを得ない。
自分が同じ立場に立たされたら、こうもうまく人々を動かせるだろうか……そんなことも考えた。


つづく


※ いよいよ開戦が決定しました。
世にも名高い赤壁の戦いのはじまり、さあて、どう料理しているか?
ハードルを自分でガン上げしつつ……二章もお楽しみくださいませ。

それと、gooブログ復旧して本当に良かったです。
お正月から働いてくれたNTTの皆さん、お疲れ様でしたー。
わたしもそろそろ動き出そうかな。
ではでは、また次回もおたのしみに(*^▽^*)

新ブログ村


にほんブログ村