帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二十七〕すぎにしかた恋しき物

2011-03-22 00:54:18 | 古典

 



                                帯とけの枕草子〔二十七〕すぎにしかた恋しき物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」だけ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 


 清少納言 枕草子〔二十七〕すぎにしかた恋しき物

 


 すぎにしかた恋しき物(過ぎた方が恋しいもの)、


かれたるあふひ

(枯れている葵……ずっと以前の逢引きの日)


ひいなあそびのてうど

(子供のころの・雛人形遊びの調度品……秘井な遊びの手うど)

 ふたあゐゑびぞめなどの、さいでの、をしへされてさうしの中などにありける見つけたる

(二藍、えび染の裁ち切り布が圧しへされて双紙の中などにあったのを見つけている……二合い、えひ初めの絶ち切れのおし、へされて双肢の中などにあるのを見つけている)


 また、折から哀なりし人のふみ、雨などふりつれづれなる日、さがし出たる

(また、その時から哀れだった人の文が、雨など降ってすることもない日に捜し物していて出てくる……また折りから、哀れだった人の夫身、お雨などふり、することもない日に、さぐり出している)


 こぞのかはほり

(去年の夏扇……去年の川掘り)


 

言は戯れ無常なもの、「言の心」を心得て「聞き耳」をわれわれと同じくしましょう。

 「恋…乞い」「かれ…枯れ…離れ…ずっと以前」。
 「二藍…紅と藍…青紫色…二合…再度の和合」「ゑび染め…薄紫色…ゑひ初め…酔い初め…ものに心を奪われた初め」「さいで…裁断切れ…ものの端くれ…おとこ」   「おし…圧し…お肢…おとこ」。
 「ひいな…雛…秘井な…ひ井の」「て…手…接頭語…手製の…手ごろな」「うど…人…おとこ」。
 「また…又…股」「折…時…折り…逝き」「ふみ…文…手紙…夫身…おとこ」「見…覯…まぐあい」。
 「かはほり…蝙蝠扇(夏用)…川掘り…井掘りと同様、情事、まぐあい」「川…女…おんな」。

 


 枕草子は、おとなの女ならば共感できる読みもの、夜の仲を未だ知らないお姫さまの読む物ではない。

また、言の戯れを知らず、言の心を無視した大真面目な人々には、清げな姿しか見えないでしょう。衣の内なる女の生の声は聞こえない。


 

伝授 清原のおうな

聞書  かき人しらず   (2015・8月、改訂しました)

 枕草子の原文は、新 日本古典文学大系 岩波書店 枕草子による





帯とけの枕草子〔二十六〕心ときめきする物

2011-03-22 00:51:59 | 古典

 



                    帯とけの枕草子〔二十六〕心ときめきする物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」だけ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 

清少納言 枕草子〔二十六〕心ときめきする物

 

心ときめきする物(心がときめきどきどきするもの)、
 
 すゝめのこかひちごあそばする所のまへわたる

(雀の子を飼い乳児を遊ばしている所の前を通っている……すす女の小貝、路、子を遊ばせているところの前をわたる)。


 よきたき物たきてひとりふしたる

(良い薫物を焚いて独り寝ている……好き多気もの燃えて、後・独りで寝ている)。

 

からかがみのすこしくらき見たる

(舶来の・唐鏡の少し暗いのを見ている……おおきな彼が身の少しと惑っているのを見ている)。

 

よきおとこのくるまとどめてあないしとはせたる

(よき男の車を止めて取次し何かを尋ねさせている……よきおとこの来る間止めて、内情を告げ、と、馳せている)。

 

頭洗い化粧して、香ばしくしみついた衣などを着ている、ことに見る人もないところでも心のうちは、猶いとおかし
(頭を洗い化粧して、香ばしく香の染みついた衣など来ている。とくに、見る・情け交わす、男のいないところでも、女は・やはりとっても快い)。

 

待つ人などのある夜、雨の音、風ふき物ゆるがすもふとおどろかる
(待つ人などある夜、雨の音、風が吹き物を揺るがすのにも、ふと目覚めている……待つ夫などある夜、お雨のお門、心風吹き、もの揺るがすも、夫かと・ふと、おどろかされる)。


  言は戯れ無常なもの、「言の心」を心得て「聞き耳」を同じくしましょう。
 「す…女…洲…おんな」「こ…小…接頭語」「貝…女…おんな」「ち…ぢ…路…女」「こ…子…おとこ」。
 「たきもの…薫物…練香…多気もの…多情もの」「たき…焚き…燃え…たぎり」。
 「からかがみ…唐鏡…大きい鏡…おおきい彼が身」「から…唐…舶来の…大きい」「身…男の身の端」「くらき…暗き…明るいのは心が曇る、三十路だし顔の調度品 も配列整ってはいないし縮れ髪だったので…とまどっている…まよっている」「見…覯…媾…まぐあい」。
 「くるま…車…来る間…山ばくる間…繰る間…繰り返す間」「あないし…消息を伝え…内情を告げ…未だよ早すぎるわと伝え」「とはせ…問わせ…尋ねさせ…門馳せ…おんな駆けて」「と…門…おんな」。
 「ふと…夫と…夫だと…さっと…不意に」「おどろく…目を覚ます…驚く…おとこ雨ののち彼が身は急変するのでおどろく」。


 

これは諧謔。おどけ、ふざけのたぐい。曇り暮らす女たちの心が和らげれば、このような文芸も価値があるというもの。


 

伝授 清原のおうな

聞書  かき人しらず    (2015・8月、改訂しました)

 枕草子の原文は、新 日本古典文学大系 枕草子による