帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第三 夏歌 (161) ほととぎすこゑもきこえず山びこは

2017-02-27 19:48:51 | 古典

             

 

                        帯とけの古今和歌集

                ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

古典和歌は、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成ら平安時代の歌論と言語観に従って紐解き直せば、公任のいう歌の「心におかしきところ」即ち俊成がいう歌の深い旨の「煩悩」が顕れる。いわば、エロス(生の本能・性愛)である。

普通の言葉では言い出し難いことを、「清げな姿」に付けて表現する、高度な歌の様(表現様式)をもっていたのである。

 

古今和歌集  巻第三 夏歌 161

 

侍にて、男ども酒賜うべけるに、召して、郭公待つ歌詠め

とありければ、よめる              躬恒

ほとゝぎすこゑもきこえず山びこは ほかになくねをこたへやはせぬ

侍詰所にて、男ども、酒を頂戴していた時に、呼び寄せられて、郭公を待つ歌を詠めと、御言葉があったので詠んだ・歌  みつね、

(ほととぎす、内裏では・鳴く声が聞こえない、山彦は、他で鳴く音を、反響する対応はしないのではありませんか……且つ乞う女の声が、この辺りでは待てど・聞こえない、異性の且つ乞うと泣く泣くの要求を・山ばの野郎どもの根おが、応じてしまったかもしれませぬ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「ほとゝぎす…郭公…鳥の言の心は女…名や鳴き声は戯れる。且つ乞う」「やまびこ…山彦…こだま…山ばの男」「彦…男」「ほか…他所…他性…異性…女」「なくねを…鳴く音を…(カッコーと)鳴く声に…泣く声を…(且つ乞うと)泣く女の声に」「ねを…音を…音に…根お…おとこ」「を…に…対象を表す」「こたえへ…対応…応じること…(要求を)かなえる」「やは…反語の意を表す…疑問の意を表す」「せぬ…しない…してしまった」「ぬ…『ず』の連体形、打消しの意を表す…『ぬ』の終止形、完了の意を表す」。

 

郭公の声が聞こえないのは、山彦が、他所で鳴く声を、内裏に反響する対応はしないからのようで、ございます。――歌の清げな姿。

且つ乞う女の声、ここでは待てど聞こえない、山ばの男どもは、異性の要求に、応えてしまったようで、ございますよ。――心におかしところ。

 

性の格は、圧倒的に女性が優勢。常に劣勢なおとこは、時々このように、おとこ誇り(おとこ自慢)がしたくなるようで、そこんところも、主上は十分御承知で題を出されたのである。男どもだけの酒の座は和む歌だろう。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)