「古代ギリシャ展ー時空を超えた旅ー」東京国立博物館 2016.6.21~9.19
入ると、会場は一面、青。エーゲ海の海!古代ギリシャにいざなわれる感じ。
構成は以下の通り。
第一章:古代ギリシャ世界の始まり(前7000~前2000年)
第二章:ミノス文明(前3200~前1100年)
第三章:ミュケナイ文明(前1600~前1100年)
第四章:幾何学様式~アルカイック時代(前900~前480年)
第五章:クラシック時代(前480~前323年)
第六章:古代オリンピック
第七章:マケドニア王国
第八章:ヘレニズムとローマ(前323~)
紀元前7000年ごろから紀元30年ごろまでをめぐる、まさに時空の旅。
3時間はかかると前評判を聞いていたけど、今日は時間が二時間半しかなかったので、時間を意識しながら進むという悲しい見方になってしまう。それでもすっかり、なりきり旅した気分だった。
アートとしても魅惑的なものが多かったので、それを羅列した備忘録です。
◆第一章は、前7000~前2000年の新石器時代から青銅器文化のころ。
・各地の出土品が地域ごとに並んでいる中、レスボス島の「人形アンフォリスコス」(前3000年)に惹かれる。レスボス島はほとんどトルコ寄りの位置。
もとは顔も描かれていたのだけれど、経年で消滅したそう。好きに想像していいのだ。
・アッティカ地方のソースポート型容器」前2800年~前2300年もパーフェクトな逸品。ホテルでカレーを注文したらご飯と別々に出てくるあのカレーの容器の形。模様もほのぼの。
・キュクラデス文明の出土品もよいのが多い。チラシにも出ている「スペドス型女性像」前2800~2300年の、腕をまえに合わせるポーズは、どこか悠久なものが漂う。キュクラデス諸島はギリシャ本土から南の海上。海への進出を表していると。
この時代のものは、日本でも外国でもそうだけれど、温かみがあって根源的。人を生み出す存在としての人間を意識していたような。出土品は、人の手の痕跡を感じ、そこにひかれたのかもしれない。
◆第二章は、キュクラデス諸島より南、クレタ島のミノス文明。開放的な海洋文化。
・私でも知ってる「クノッソス宮殿」の配置図と、その役割についての解説が興味深かった。宮殿というだけでなく、倉庫・工房・居住区が配置されている。行政、宗教のみならず、物資の集積と再配分をになうのだ、と。実用的なセンターでもあった。
・「カマレス式杯」の二つはコーヒーカップ。渦巻き模様がなんともすてき。凝った模様で、ぜいたく品なのだろう。この辺りになると、専門のいい職人さんがいたんだろうな。
・海洋文化らしく、海由来の模様が魅力的。「海洋様式のリュトン」は、ひとつは軽く若冲みたいに巻貝が乱舞。もうひとつは、タコ足?オウムガイ?や巻貝。
「海洋様式の葡萄酒甕」後期ミノスIB期(前1450年頃)は、びっくり目のタコ。わかめやサンゴも。ギリシャでもタコを食べるから、日本人にも親しみのわくモチーフ。
・「牛頭型リュトン」は、穴が開いていて、あごのところから注いだものが出てくる。どんどん模様も色彩も洗練されれくる
・「牡牛像」のほうも魅力的だった。牛は神聖なものであり、犠牲獣としての役割に用いられた。こちらはちょっと牛舌ぽいのがくるっと出てるところがかわいくて。https://twitter.com/greece2016_17?ref_src=twsrc%5Etfw
・「パピルス型ビーズのネクレス」は、そのままWi-Fi模様の連なり。このパピルス模様はいくつかあったけれど、パピルスもたくさん生育していたのかな。
・テラ(サントリーニ島」の出土品が状態がいいのは、前1600年の噴火で埋まっていたからだそう。
「イルカと野山羊を現した舟形容器」は、陸と海の者を取り合わせた面白い模様。切れ長の大きな目の野山羊がインパクトあった。波型模様も動きを添えて。他にもクロッカスなど、モチーフが素敵だった。http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=viewphoto&id=832&c=4
「漁夫のフレスコ画」は、さすが看板にも用いられているだけあって、色彩もバランスもぱっと印象に残る。頭のふたつの房が、ここだけ残してそり上げたものとは。足元、補修のあとが、波打ち際みたいで瑞々しかった。
フレスコ画では、「ユリと花瓶のフレスコ画」のほうが印象に残った。現代のリビングにあっても違和感ない感じで。窓わきのつけ柱を飾る。ユリは供え物としてもよく用いられたと。
だんだん、ギリシャ、ひいてはその後のヨーロッパ全般の根底にあるものが見え始めてきた感じの章だった。
◆第三章は、ミュケナイ文化。前章のミノス文化の中心であったクレタ島は、ミケーネを中心とするミュケナイ文明に紀元前1450年頃に征服される。
シュリーマンの強引な発掘を時にいさめたギリシャ人学者スタマタキスの話が興味深かった。
・「戦士の象牙彫り」など、戦士のモチーフがちらほら登場する。だんだん権力と戦いの色合いが割合を増してくる。金のボタンは蝶や渦巻きの模様が繊細だったけれど、これも富あるものを飾り立てたものでしょう。
・「牡牛小像」は大きな角にクローバー模様。ミノス文明の影響も残ります。
◆このあと、ミュケナイ文化崩壊後、第4章との間、前1100年ごろから前900年ころの間は、「暗黒時代」。そう呼ばれて、文化の破壊と攻撃の時代と思われたいたけれど、最近の研究では、けしてそれだけではないと。交易も盛んで、次章の文化の萌芽をもたらしたよう。
◆第四章は、幾何学模様~アルカイック時代
だんだん人間の内面性に意識が向いてきたのを感じた展示。
これまでは、形態や出来事といった目に見えるものを、像やフレスコ画につくりあげていたが、このころからは、ひとの感情を目の前の像に表現してみようと意識が変遷したのか。顔をあれこれいじると、気持ちが目に見えるように造形できると、気づいたんだろうか。
「クーロス像」と「コレー像」が堂々と立っていましたよ。あとで振り返ると、二体の後ろ姿が一緒に見えたのだけど、後ろ姿は、いっそう体のライン(特におしりのライン)が美しく、印象的な瞬間だった。
生命を生むものとして神格化するにとどまらず、だんだん、理想の人体美とは?ってことを、意識しはじめたころ。アルカイックスマイルが生まれた本場と時代。
この時代から人間は、こんなミステリアスな微笑みをするようになったのかな。
そしてギリシャ神話の体現化も。「アッティカ黒像式アンフォラ ボレアスとセイレーン」、パリスの審判を描いた「キュクラデス様式アンフォラ」など。
「アッティカ幾何学様式アンフォラ」は幾何学模様。今ではよく見る模様も。
◆第五章はクラシック時代、前480年~前323年
アテネは民主政を確立し、パルテノン神殿が建設される。だんだん哲学的になってきたようだ。
解説では、「人間は『死すべき存在』と認識することで、個性」に思索を深めるように。前章の「顔」「感情」といったものへの認識からさらに、分化していたようだった。
「女性頭部」は、この展覧会で初めて生身の人間に向き合ったようで、どきっとした。少し傾けた顔は人間らしい感情を表しているようで。「思う」「物思いにふける」「揺れる想い」とかいったものが、目の前にいる私にも伝わってくる。
そしてこれ以降、どんどん像の顔に、感情と思索の面持ちが感じとれてくる。
「墓碑」は、夫婦のモチーフ。哀愁が漂っていた。複雑な感情表現を十分描き出している。
「青年を現した奉納浮彫り」は、足に動きが。呼応していた。
「黒像式バナテナイ型アンフォラ」は、ふくろうがかわいい!。縦になったいるかも。
「アクレピオス小像」は林真理子の小説を思い出すけれど、卵をヘビが巻き。若返りの象徴とか。
◆第六章は、古代オリンピック。ちょうどリオで開催中ゆえ、感慨深い。
展示の上の方の壁にも、競技者のレプリカが張り巡らされていた。だんだん時間がなくなってきて、ここはさらっと。
◆第七章は、「マケドニア王国」
「アフガニスタン展」に心を動かされ、ヘレニズム文化の魅力にもはまってしまったので、この展示も興味深かった。
フィリッポス二世は、自らをギリシャの子孫とし、ギリシャ文化を取り入れる。
特に「キンバイカの冠」はその時の展示を思い出した。小さい実がついていたのがかわいらしかった。
「アレクサンドロス頭部」は、一目見て、若い!と。アクロポリス出土とのこと、王子時代のアレクサンドロスと考えられているそうだけど、34歳で亡くなることを予見するような。先生のアリストテレスの胸像もありました。
「抱擁するエロスとプシュケ」、なにかと見かける二人だけれど、これはかわいいタイプの二人だった。
「エロスを伴うアフロディテ」は、ドレスの裾にくっついているエロスが。http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=viewphoto&id=832&c=8
「イルカに乗ったアフロディテ像」、イルカがイルカらしくなく造形されたものをよく見てきたせいか、このイルカの写実性?には射ぬかれた。イルカの頭の丸みがなんともいえず。しっぽにくっつくエロスも愛らしく。エロスってなんににでもくっつく習性なのかな?
第八章は、ヘレニズムとローマ。前31年、ギリシャはローマに征服されるけれど、その文化は受け継がれてゆく。アルテミスやアフロディテ、アテナなどの像が林立。美しさと色気。でもこの辺りで時間切れ。
見終わってみれば、人間の感情や思考、思索って、こんなふうに複雑化していったのかと、その軌跡を見た気がした。人間が、自分たち人間そのものを実用から理想へと意識を変えていく変遷をも感じた。
出土品のひとつひとつも、そして俯瞰しても、どちらも面白い展覧会だった。