空の道を散歩

私の「仏道をならふ」の記

ふたたびの豪雨被害に思うこと

2018-08-16 03:57:19 | 日記・エッセイ・コラム

 猛暑と気力と時間がなくて、なかなかブログを更新できません。

 例によって、友人と発行している同人紙からの転載です。

 

  ふたたびの豪雨被害に思うこと 

 7月中ごろ、兵庫県丹波市市島町を訪れた。

 私が40年近く有機野菜などをとっている「食品公害を追放し安全な食べ物を求める会」(通称「求める会」)と提携して、野菜や卵、米を生産しているのが「市島町有機農業研究会」(通称・市有研)で、求める会は毎月の市有研との話し合いのほか、年2回、作付け会議と圃場見学を行っている。

 今回は秋冬野菜の作付け会議と、6月末から7月上旬、台風7号と梅雨前線による集中豪雨(「平成30年7月豪雨」と命名、「西日本豪雨」とも)が市島にもたらした被害を知るための圃場見学だ。

 通常は生産者担当係の会員数名が参加するだけだが、今回は8名の会員が市島を訪れた。

 2014年の丹波豪雨被害については以前にも書いたが、その被害から何とか立ち直ろうとしていた矢先、今回の西日本豪雨災害が起きた。

 会員は、丹波豪雨以降の生産者の苦労話をずっと聞いていたから、市有研の畑がどうなっているのか心配のあまり、8名のメンバーが猛暑の中、市島を訪れたのだ。

 当日は日向に出れば皮膚がじりじり焼けるような熱暑。

 インターネットで調べたら、当日の最高気温は36℃、最低気温は28℃前日の最高気温は37℃、前々日は38℃もあった。

 雨が降り続いた日々は最高気温25℃~30℃だった。

 ちなみに過去の7月の平均は、最高31℃、最低23℃とある。最近の気温がいかに異常なものであるかが分かる。

 まず、I さんの畑に行って驚いた。

 例年なら炎天下でも青々と茂っているはずのピーマン、万願寺トウガラシが全部立ち枯れしている。

 雨が降り続いて排水ができず、3、4日も水に浸かっていたので豪雨の後の猛暑で根腐れし、枯れてしまったという。

 雨の後は一転して35℃~38℃の猛暑が続き、病気、虫害が発生した。

 農作物にとってはたまったものではない。

 半分緑が残っているピーマンも枝が折れ、枯れるのは時間の問題だとI さんは言った。

 参加者の中には、立ち枯れした万願寺トウガラシの、緑色のしなびた実をちぎっている人もいる。「まだ食べられるだろうから」と言うのだ。

 昨年はイノシシにやられて全滅したカボチャ。

 今年は獣害もなく出来がいいと、I さんも私たちも2年越しの収穫を楽しみにしていた。

 そのカボチャも水没して腐ってしまった。

 ナスは水には強いが、台風で傷がついた。

 その後の暑い日差しで日焼けが起き、さらにテントウムシダマシが葉裏に卵をびっしり生んで駆除に苦労しているそうだ。

 有機農業は農薬を使えないので、病虫害の駆除は大変な作業である。

 豪雨災害は、水が引いたあとも、猛暑、病気、害虫による被害をもたらす。

 サトイモも雨の後の日照りで葉が赤くなり元気がない。

  I さんの別の畑では、ハウスでキュウリ、トマトを栽培している。

 キュウリは台風で葉擦れが起きたうえに、ウリバエが飛び回っていた。

 ウリバエは葉にも実にもついて木を弱らせる。

 トマト、ミニトマトにはタバコ蛾の幼虫が木や実に入り、食害をもたらす。

 ハウス内にも水が入った。トマトは水が入ると実が割れるし、外が暑すぎると花が実にならないという。

 ハウスの中は40℃にもなって、作業をしていると火傷のようになると、Iさんは言う。

 次にH さんの畑に回った。

 4年前の丹波豪雨では、H さんの家の裏山から土砂が流入して、倉庫の農機、出荷前のタマネギが土砂に埋まった。近所では死者も出た。

 今回は、同じように裏山から土砂が流れてきたが、自治体が工事をして、前ほどの被害はなかったが、保存していたジャガイモが水に浸かったという。

 畑にも土砂が流入した。4年前に被害を受けた同じ畑である。Iさんと同じく、ピーマン、万願寺トウガラシがやられた。

 大きな株が泥に埋まって枯れていたので、これは何ですかと尋ねたら、ズッキーニだという。

 ズッキーニは雨に弱く、その後の猛暑で腐ってしまったそうだ。

 大きな株が畑一面、腐って枯れている姿は、断末魔の怪獣がのたうち回っているような、痛々しい感じがした。

 カボチャも腐ったという。

 H さんは平飼いで養鶏もしている。

 その鶏舎にも水が入りぬかるんでいるので、石灰を撒いてなんとかしのいだそうだ。

 市有研は6月に1人のメンバーが、高齢を理由に退会したので、2人になった。

 その上に今回の豪雨被害。今後どの程度の野菜を出荷できるのか、予想がつかない。

 今回は市有研の圃場見学ということで、同じ市島で米を作っている I N さんと、Tさんの畑を見ることはできなかった。

  T さんはお米のほかに、大豆畑トラストの大豆を栽培している。

 大豆畑トラストとは、1口1000円で会員を募り、大豆を作ってもらって、消費者は大豆または味噌の形で収穫物をいただいて国産大豆の生産を支えるという運動である。

 Tさんの作る大豆は見栄えもよく、おいしいので、毎年楽しみにしているのだが、大豆畑にも水が入り、一部の種が流されてしまったそうだ。

 畑が乾いてから流された部分の種を蒔きなおすそうだが、収穫にどう影響するだろうか。

 I N さんの田んぼは、丹波豪雨のときに、一番大きな被害を受けている。

 収穫前の山裾の田んぼが大量の土砂に埋まり、修復は不可能に思われた。

 驚くべきことに4年かかって整備し、今年やっと収穫できると期待していた、その田んぼが再び土砂に埋まってしまった。「

 心が折れそうになった」とI  Nさんは言ったあとで、「西日本豪雨ではもっとひどい被害を受けた人たちがいる、その人たちに比べたら……」と気丈に付け加えられたという。ほんとうに胸が痛む。

 市島は4年前の丹波豪雨で大きな被害を受けた後も、獣よけの電気柵の修復が遅れて獣害がますます増え、台風被害、大雪によるハウス倒壊、病虫害による被害、日照不足、反対に豪雨の後の日照りと、自然災害に悩まされ続けた。

 その結果、私たちに届けられる野菜が少なかったり、固かったり、虫食いが多かったり、黄色くなっていたりと、消費者のクレームが多くなっていた。

 中には、プロ意識が足りないのではないかと言う人もいる。

 そんな苦情は、豪雨被害の現場を目にすれば、言えなくなるだろうと思う。

 求める会と市有研が確認し合った「提携の基本方針」には、「生産者と消費者は生命を委託し合う関係」であり、「農産物は市場経済でいう商品ではない」と記されている。

 ところが、私たちはいつの間にか市場経済のものの見方に影響されて、お金を払って買うのだからと、完全な農産物を欲しがるようになってしまった。

 Hさんから聞いた話では、生協に出すキュウリは写真の見本があって、その通りの色、形でないと出荷できないそうだ。

 農水省発表では、今回の豪雨による農林水産業の被害額は1197億9000万円にのぼるという。

 被害が大きかった広島、岡山の把握ができていないので、被害額は今後大幅に拡大する見通しだそうだ。

 神戸新聞によると、兵庫県内の農林水産業の被害額は120億4600万円で、4年前の丹波豪雨の被害額65億円の倍近くになるとのこと。

 うち、畔やため池破損など農地・農業用施設の被害が66億円で5割を超える。市町別では宍粟市、丹波市の被害が最大で約17億円にのぼる。

 このような被害は、これからも続くだろう。地球規模で温暖化による異常気象が起きているのだから。

 危惧すべきは、農産物被害にとどまらない。

 高齢化、過疎化でただでさえ農業従事者が減り続けている現在、被害が続けば、農業をやめる人が増えるのは想像に難くない。

 今日の民放のニュースで、今回の被害が大きくなった原因の一つが、農林業従事者がいなくなって、山や水路、ため池の管理が行き届かなくなったためであるという特集をやっていた。

 何億円もかけて大規模な砂防ダムを作っても、小さな水路やため池が決壊し、それが原因で被害が大きくなったという現場を取材していた。

 このような検証は初めて見たような気がする。

 兵庫県の被害額のうち、畔やため池破損など農地・農業用施設の被害額が半分を超えているのも、それらを管理する人々がいなくなったということではないだろうか。

 日本の自然は、里山、里海の自然で、農林水産業に従事する人々の手によって管理されてきたという歴史がある。

 私たちは、第一次産業に携わる人々、私たちの命のもとを作っている人々の手によって守られてきたという認識をもっと持ってもいいのではないだろうか。