私の唯一の嗜好品はコーヒーである。1日に何倍も飲む。
若いときには、高い豆を買ってきてネルドリップで入れたり、銀でできたコーヒーフィルターを買ってきたりもした。ここ何年間はめんどくさくなって、自宅で飲むときには、有機栽培のフェアトレードのコーヒー粉を業務用スーパーで買ってきて、コーヒーメーカーで入れて飲んでいた。
おいしいコーヒーを飲みたいときには、喫茶店に行く。私は、どういうわけか、出かけた先で、安くておいしいコーヒーを入れてくれる喫茶店に鼻が利いた。
ところが、実家での介護生活が中心になってから、コーヒーメーカーもないし、近所には喫茶店もない。駅まで出るとあるが、おいしいコーヒーは飲めない。仕方がないので、紙パックのドリップコーヒーか、インスタントで我慢していた。
駅と実家の中間にいつも買い物をするスーパーがあるのだが、今年になって、その一つ南側の通りに、「珈琲亭」という店を見つけた。何回か前を通り過ぎて、ある日、中に入った。豆を売る店だが、小さなテーブル2つとカウンターで、コーヒーも飲めるようになっている。
マスターが一人でやっていて、注文を聞いて豆を挽き、ペーパーフィルターでドリップして入れてくれる。
香り高く、雑味がなく、とてもおいしい。カップも有田焼の作家さんの作品で、1つ1つ違うデザイン。ブレンドコーヒーは1杯380円というのにもびっくりした。
それからは、両親がデイサービスに出かけた日、買い物のついでに必ず寄る。自宅に帰る日も、時間があれば寄る。週に2、3回は行くようになった。
マスターとも話すようになった。マスター曰く。コーヒーは豆で決まる。いい豆なら、980円の家庭用コーヒーメーカーでもおいしく入れられるとのこと。豆にはとても自信を持っているようだ。
それで、豆を買い、ドリップの仕方を教えてもらい、自宅で入れて飲んだ。コーヒーメーカーで入れても、おいしかった。それまで飲んでいたコーヒーは水みたいに物足りなく感じた。
今、私にとって、「珈琲亭」は、実家での介護生活を癒す、ほっとスポットになっている。