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終末期の赤い地球

2013年06月04日 | SF
ジャック・ヴァンスと言えば、
「終末期の赤い地球」(久保書店Q-Tブックス)がなんといってもマイベストです。
薄暮の地球を舞台にしたファンタジイともSFとも言いかねる不思議な物語は、
まさにワンアンドオンリー。
その延長線にあるのが、1967年にヒューゴー賞の中篇部門を受賞した「最後の城」。

「終末期の赤い地球」では、魔法生物の跋扈する地で魔道士や美女や無法者の冒険を描いて、
どちらかといえばファンタジイ、
それもC・A・スミスの「ゾシーク」によく似た世界が展開されています。
じつは、同じころに読んでいたので、カブるんです。
さらに、山田風太郎の短編にどこか似てるんだよなあ。


武部本一郎の表紙はマストバイですが古書市場にはもう出てこないんじゃないでしょうか。
裏表紙には原著書影



そういえば「終末期の赤い地球」を読んでいたときに、
井の頭線の渋谷駅のどこかに読みかけの「終末期の赤い地球」を忘れて、
しかたがないのでもう1冊買い直したことがありました。
あのころはフツーに書店で売ってたんですがね。

「最後の城」は「終末期の赤い地球」と比べるともう少し話のラインがくっきりしていて、
遠未来の宇宙のどこか、
退廃の極みにいた人類に奴隷として使役されていた異星生命が反乱を起こす、というハナシ。
同じ年に同じヒューゴー賞をとったのが、ラリイ・ニーヴンの「中性子星」。
また同じハナシですが、「最後の城」と「中性子星」が同じように受賞するのがSFの懐の深さですね。
ところで、この講談社文庫「世界SF大賞傑作選2」は、いいラインナップですね。


久保書店SFノベルス「太陽系の危機」(ジョン・W・キャンベル・ジュニア)には、
ヴァンスの中篇「宇宙の食人植物」が併載されています。
解説では「エース・ダブルのようなものと思ってもらえば」と書いてありますが、なんか言い訳のような。
で、この作品は、ストーリーがよくわからないというか、もしかしたら抄訳かも。



「冒険の惑星」の解説で大谷圭二(浅倉久志)が指摘していましたが、
ヴァンスはプロット作りが弱いそうです。

たしかに言われてみれば、雰囲気は濃厚ですが、筋がはっきり起承転結になってない。
ニーヴンの「中性子星」と比べてみれば分かりますが、
「中性子星」は中性子星の謎(潮汐)がストーリーを転がすベクトルになっていて(つまりキャラクターは駒)、
謎を解く作業=物語なんですが、
ヴァンスの作品では、キャラクター=物語、
キャラクターが物語を動かすベクトルになっているわけです。

そこあたりも、世界とキャラクターを創造できる才能が唯一無二なんでしょうね。
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