アルベルト・ジャコメッティ-矢内原伊作とともに
2006年6月3日から7月30日
神奈川県立近代美術館 葉山
ジャコメッティの展覧会があるといえば、やはり駆けつけたくなります。
神奈川県立近代美術館 葉山は初めて。地図を見ると御用邸のお隣。夏休み・海水浴シーズンとなれば渋滞が予想されます。すこし無理して早起きをしようとしたのですが寝坊。でも、雨混じりの曇り空ということで、ほとんど渋滞もなく到着しました。駐車場が満車とありましたが、空きが数台あり、いれてもらえました。ほっ。
展覧会は4部で構成されます。
第I章 初期/キュビズム、シュルレアリスムを経て
第Ⅱ章 モデルたち-ディエゴ、アネットを中心に
第Ⅲ章 ヤナイハラとともに
第Ⅳ章 空間の構成と変奏-人物、静物、風景、アトリエ
第I章(第一展示室)まず出迎えてくれるのは、「歩く女Ⅰ」(1932-36)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。姿勢のよく歩く女性の背中ラインが美しい。ののキュビズムの影響を受けた「トルソ」(1925-26)(アルベルト・ジャコメッティ財団、チューリヒ)やアフリカの影響を受けた可愛らしい「カップル」(1927)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)が目を引きます。この章では、表面の仕上げは、つるっとした普通の彫刻と同じです。
第Ⅱ章(第一展示室、第二展示室) ここには、ごつごつした表面で仕上げられた彫刻、じっと坐るモデルと対峙して、画面中央に真っ黒に塗るつぶされた感のある肖像のデッサンがが並びます。
印象的だったのは、第2室の部屋の中央に並べられた小さな彫刻4点。「アネットの小さな胸像」(1946)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「立つ裸婦、写生による」(1954)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「立つアネット」(1954)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「立つ女」(1961)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。その脇にあった「坐るアネット(小)」(1956)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。「立つアネット」、「立つ女」を背面から見ると、臀部のようすなどよく表されています。
第Ⅲ章(第三展示室、第五展示室) 矢内原伊作は、東大総長の矢内原忠雄名誉教授のご子息。ジャコメッティのモデルをしながら、ジャコメッティの創作風景を著述したという。そのヤナイハラの石膏像2点が展示されている。「ヤナイハラI」(1960)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)と「ヤナイハラⅡ」(1961)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。何年もかかってヤナイハラと親密になりながら、ヤナイハラの本質に迫った作品ということになる。また、矢内原のノートや写真による記録や、ジャコメッティの手紙も展示されている。
第Ⅳ章(第三展示室、第四展示室) この章では、みながよく知っているジャコメッティらしい不思議な作品が展示されている。特に第4展示室は、この葉山の海も見える明るい素晴らしい展示室。そこにジャコメッティらしい展示作品が展示されているのだから、展示スペースというのも作品を見る重要なファクターだ。「石碑Ⅰ」(1958)(兵庫県立美術館)、「檻(第1ヴァージョン)」(1950)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「ヴェニスの女Ⅰ」(1956)(大原美術館)など。特によかったのは、「台上の4つの小立像(バージョンB)」(1950-65)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)
アルベルト・ジャコメッティは、人間の実存を暗示する細長い人物像で知られる彫刻家として、またセザンヌ以降に展開された絵画の実験の極北に位置する画家として20世紀美術に屹立する偉大な芸術家だという。ジャコメッティは、現実の人間を「見えるとおり」に描こうとしたとも解説されています。最後の回廊の展示室のビデオで、ジャコメッティは「ギリシア彫刻のように表面を移すのではなく、人間の内面を描きたい、玉葱のように剥いていって中身が空になった」というようなことを語っていました。NHK新日曜美術館では、遠ざかる人をみて、変らない真実があることに気がついたというようなエピソードがあると出演者が喋っていました。
これらの話をきいて、実際の彫刻と対峙しても、どうも理解できません。1点だけ気づいたのは、会場を歩き回ると彫刻と自身の距離が、刻々と変ります。ジャコメッティの場合は、「遠ざかる人をみて、変らない真実があることに気がついた」訳ですが、それを追体験するためには、こちらが歩いてみればというわけです。そうすると、影絵か走馬灯を見ているようで、これがジャコメッティの言いたかったことかも、思えてきました。特に第2展示室に展示されていた4体の「アネットの小さな胸像」等とか、第4展示室の「台上の4つの小立像(バージョンB)」のように小さな作品で、強く追体験できた気がします。会場を歩く程度で、彫刻の見えるサイズが大きく変化するので、より顕著に感じられたのでしょうか。
ともあれ、葉山という場所に関わらず、それなりに人の入りがいい、雰囲気のいい展覧会でした。
2006年6月3日から7月30日
神奈川県立近代美術館 葉山
ジャコメッティの展覧会があるといえば、やはり駆けつけたくなります。
神奈川県立近代美術館 葉山は初めて。地図を見ると御用邸のお隣。夏休み・海水浴シーズンとなれば渋滞が予想されます。すこし無理して早起きをしようとしたのですが寝坊。でも、雨混じりの曇り空ということで、ほとんど渋滞もなく到着しました。駐車場が満車とありましたが、空きが数台あり、いれてもらえました。ほっ。
展覧会は4部で構成されます。
第I章 初期/キュビズム、シュルレアリスムを経て
第Ⅱ章 モデルたち-ディエゴ、アネットを中心に
第Ⅲ章 ヤナイハラとともに
第Ⅳ章 空間の構成と変奏-人物、静物、風景、アトリエ
第I章(第一展示室)まず出迎えてくれるのは、「歩く女Ⅰ」(1932-36)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。姿勢のよく歩く女性の背中ラインが美しい。ののキュビズムの影響を受けた「トルソ」(1925-26)(アルベルト・ジャコメッティ財団、チューリヒ)やアフリカの影響を受けた可愛らしい「カップル」(1927)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)が目を引きます。この章では、表面の仕上げは、つるっとした普通の彫刻と同じです。
第Ⅱ章(第一展示室、第二展示室) ここには、ごつごつした表面で仕上げられた彫刻、じっと坐るモデルと対峙して、画面中央に真っ黒に塗るつぶされた感のある肖像のデッサンがが並びます。
印象的だったのは、第2室の部屋の中央に並べられた小さな彫刻4点。「アネットの小さな胸像」(1946)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「立つ裸婦、写生による」(1954)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「立つアネット」(1954)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「立つ女」(1961)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。その脇にあった「坐るアネット(小)」(1956)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。「立つアネット」、「立つ女」を背面から見ると、臀部のようすなどよく表されています。
第Ⅲ章(第三展示室、第五展示室) 矢内原伊作は、東大総長の矢内原忠雄名誉教授のご子息。ジャコメッティのモデルをしながら、ジャコメッティの創作風景を著述したという。そのヤナイハラの石膏像2点が展示されている。「ヤナイハラI」(1960)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)と「ヤナイハラⅡ」(1961)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)。何年もかかってヤナイハラと親密になりながら、ヤナイハラの本質に迫った作品ということになる。また、矢内原のノートや写真による記録や、ジャコメッティの手紙も展示されている。
第Ⅳ章(第三展示室、第四展示室) この章では、みながよく知っているジャコメッティらしい不思議な作品が展示されている。特に第4展示室は、この葉山の海も見える明るい素晴らしい展示室。そこにジャコメッティらしい展示作品が展示されているのだから、展示スペースというのも作品を見る重要なファクターだ。「石碑Ⅰ」(1958)(兵庫県立美術館)、「檻(第1ヴァージョン)」(1950)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)、「ヴェニスの女Ⅰ」(1956)(大原美術館)など。特によかったのは、「台上の4つの小立像(バージョンB)」(1950-65)(A.&A.ジャコメッティ財団、パリ)
アルベルト・ジャコメッティは、人間の実存を暗示する細長い人物像で知られる彫刻家として、またセザンヌ以降に展開された絵画の実験の極北に位置する画家として20世紀美術に屹立する偉大な芸術家だという。ジャコメッティは、現実の人間を「見えるとおり」に描こうとしたとも解説されています。最後の回廊の展示室のビデオで、ジャコメッティは「ギリシア彫刻のように表面を移すのではなく、人間の内面を描きたい、玉葱のように剥いていって中身が空になった」というようなことを語っていました。NHK新日曜美術館では、遠ざかる人をみて、変らない真実があることに気がついたというようなエピソードがあると出演者が喋っていました。
これらの話をきいて、実際の彫刻と対峙しても、どうも理解できません。1点だけ気づいたのは、会場を歩き回ると彫刻と自身の距離が、刻々と変ります。ジャコメッティの場合は、「遠ざかる人をみて、変らない真実があることに気がついた」訳ですが、それを追体験するためには、こちらが歩いてみればというわけです。そうすると、影絵か走馬灯を見ているようで、これがジャコメッティの言いたかったことかも、思えてきました。特に第2展示室に展示されていた4体の「アネットの小さな胸像」等とか、第4展示室の「台上の4つの小立像(バージョンB)」のように小さな作品で、強く追体験できた気がします。会場を歩く程度で、彫刻の見えるサイズが大きく変化するので、より顕著に感じられたのでしょうか。
ともあれ、葉山という場所に関わらず、それなりに人の入りがいい、雰囲気のいい展覧会でした。