コラム(275):岐路に立つ安倍政権と自民党
自民党総裁選挙では党員票が予想のほか石破氏に流れました。これは国会議員の考え方と党員の考え方に大きな乖離があるということを意味しています。党が国会議員の思惑で運営され、地方党員(世論)の声が安倍総裁には届きにくくなっていることを物語っています。
取り巻きという奸物
政治権力にはそれを利用したい人たちがいます。いま安倍首相の周りには、「虎の威を借る狐」となった清和会(安倍派)系の国会議員が集まっています。
そのため首相の耳に届くのは私利私欲に固まった人々の意見ばかりで、国民や党員の真実の声は届きません。しかも、この人たちは首相の側近であることを吹聴し、傍若無人な態度で行政への過度な干渉をし、業界団体には許認可権を使い利権の開拓に目の色を変えています。実は彼らは都知事選と都議選で東京都利権や五輪利権から排除された人々でもあるのです。
しかも、彼らは、当ブログ「自民党の危機」で指摘したように、自分の利権活動をカモフラージュするため評論家やネットのグループを使い、自分たちを批判する人に対し悪口や人格攻撃をしています。相手は同じ自民党員であっても容赦しません。最近ネット上で小泉進次郎氏が槍玉にあがっているのはこのためです。
総裁選最中に石破派斎藤健農林水産相への辞任を迫ったのも彼らの仕業ですが、すでに総裁選後は石破氏に投票した人を反逆者のように扱い始めています。しかし、こうした一連の行為は党員に不快感を与えるだけでなく国民の不信を招くことにつながります。結果的に安倍政権の基盤を揺るがすものとなるのです。
国民との意識の乖離が危機をもたらす
安倍政権の本質的な危機は、多数の国民が共感し支持した「日本を取り戻す」という政策が中途半端になっていることと、経済政策の目玉であるアベノミクスが見かけの数字で、実際は国民を幸福にしていないことにあります。
実際、国会では、国のあり方についての根本的な議論は一切行われず、罵りあいの場となっています。
これは必ずしも無能な野党議員だけのせいではないのです。
安全保障政策上で最も重要な安保法制の議論のときも、政府は誰ひとり「中国の脅威から国民を守るのだ」という本当の理由を言えず、ずるずると野党側の論理を横行させ、結局、不毛な国会論戦に終始し国民に後味の悪い不信感だけを残しました。
また、アベノミクスは数字やデータを並べ日本経済に活況を取り戻したと自己評価しているのですが、多くの国民は実感として感じていません。これはデフレ脱却の実績としての数字づくりのため物価を上げることだけ先行させたからです。実際の生活は支出が増えただけで豊かさの実感が乏しいのです。
しかも、見せかけの数字をはじき出すことが仕事の官僚と、取り巻きの言葉だけで安倍首相はアベノミクスの真実の進捗を知らないのです。とても消費増税が実施される環境で無いことは言うまでもありません。
このままでは、安倍政権は国民から益々遠のいていきそうに見えます。
安倍政権の重大な分岐点
「戦後レジームからの脱却」で第一次、「日本を取り戻す」で第二次安倍政権が発足しましたが、現状を見る限り、安倍首相は多数の利権体質が残る旧来の自民党議員に呑み込まれようとしています。
しかも自民党内の利権派集団は改憲に興味はありません。むしろ、改憲しないほうが利益になると考えている者さえいます。
また、国民生活に直接大きな影響を与える消費税の増税に関して、党内の誰ひとりとして再考や再延期を口にする議員がいないことも、自民党が今や国民不在の慢心した政党になり下がりつつあることを物語っています。
安倍首相は在任中に真に国民を直視し洞察し、その上で真正面から憲法を全面改正しようとするのか、あるいは利権集団に担がれたまま時代を逆行させるのか、その分岐点に立っています。
安倍首相におかれましては、「日本を取り戻す」の原点に返り、国民の側に立つ政治家であってほしいと強く願っています。
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