赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

① ロシア・ウクライナ戦争の落としどころ

2023-09-05 00:00:00 | 政治見解



① ロシア・ウクライナ戦争の落としどころ
――中東情勢、米大統領選も影響か:230905情報



ロシア・ウクライナ戦争について、元戦争特派員のトーマス・リックス氏は
「戦闘の取材は危険だが、比較的簡単だ。見聞きしたことを書き留めるだけでいい。しかし、戦争を正確に取材するのははるかに難しい」、「戦略、兵站、士気など、しばしば観察することができないものをある程度理解する必要があるからだ」
と述べています。

今、私たちが目にする情報は、ウクライナ・サイドの物が多く、ウクライナの反転攻勢でウクライナが勝利するのではないかという話がすう勢だと思うのですが、実際のところはわかりません。ただ、ウクライナが勝利しなければ、中国の台湾侵攻が現実問題となるだけに気が気ではありません。

そこで、ソ連崩壊時にモスクワにいてロシア事情を知り尽くしている専門家に、ロシア・ウクライナ戦争の落としどころ、そして、それに関連した中東情勢、アメリカ大統領選、アジア情勢を含めて、あらゆる事態を想定した解説をお願いしました。




▼ゼレンスキーとプーチンの望み

まず、ゼレンスキーとプーチンの望みを理解しましょう。ゼレンスキーの望み。これは、間違いなく、「ロシアに奪われているすべての領土を取り戻すこと」です。具体的にいうと、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州、そしてクリミア。

ロシア軍が州のほとんどを支配できているのは、ルガンスク州だけです。

次に、プーチンの願いを見てみましょう。

彼は当初、「全ウクライナの支配」を狙っていました。最初から首都キーウに進軍したことでわかります。しかし、首都陥落がかなわなかったので、「今支配している場所をロシア領とすることで停戦したい」と要求が変わりました。(@ロシアは昨年9月、上記4州を勝手に併合しています。)

まとめると、ゼレンスキーは、すべてを取り戻したい。プーチンは、今支配している場所をロシア領にして終わらせたい、となります。


▼戦況は?

次に、戦況はどうなのでしょうか?

今年の1月、プーチンは、ゲラシモフ参謀総長をウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命しました。彼は、「ハイブリッド戦略」で世界的に有名な人物です。つまり、プーチンは今年はじめ、「最終兵器」を投入したのです。

プーチンは、「3月中にルガンスク州、ドネツク州のすべてを制圧せよ!」と命令しました。ところが、ゲラシモフは、成功しませんでした。ロシアは、防衛戦の準備を開始します。6月からウクライナの反転攻勢がはじまりました。

皆さんご存知と思いますが、ウクライナ軍は苦戦しています。なぜでしょうか?

大きな要因が二つあるでしょう。一つ目は、地雷です。大量の地雷のせいで、ウクライナ軍はなかなか先に進めません。二つ目は、航空優勢をロシア軍が確保していることです。


▼欧米は?

ウクライナ戦争について、決定的な事実があります。それは、「ウクライナは、欧米からの支援なしでは、絶対にロシアに勝てない」ということです。つまり、ウクライナの運命は、「欧米がどこまでウクライナへの支援を継続できるか」で決まるのです。

では、欧米はどうなのでしょうか?

欧州は分裂しています。ロシアからの脅威をあまり感じない国々、たとえば、ドイツ、フランス、イタリアなどは、「ウクライナが領土を一部失っても、はやく戦争を終わらせたい」と考えている。一方、「プーチン・ロシアを打ち負かそう」と考えているのが、ロシアから近い国々。たとえば、バルト三国やポーランドなど。そして、イギリス、アメリカです。


▼アメリカは?

アメリカのバイデン大統領は、戦略的に見て、「ロシアを打ち負かさなければ」と考えていました。どういうことでしょうか?

もし、欧米が支援するウクライナがロシアに負ければどうなるでしょうか?

習近平は、「欧米が支援するウクライナは負けた。俺が台湾侵攻を決断しても、欧米が支援する台湾に勝てるだろう」と考えるでしょう。台湾侵攻 = 日米台 対 中国 の戦争の可能性が高まります。


▼「4正面作戦」を強いられるアメリカにとって最悪のシナリオとは?

というわけで、バイデンは基本的に、「ウクライナが勝つまで支援する」という姿勢です。ところが、状況は常に変わります。バイデンが、心配な状況が発生してきたのです。なんでしょうか?

「中東戦争勃発の可能性」です。具体的には「イスラエル・イラン戦争」です。なぜ?

米英仏独ロ中は2015年、イランといわゆる「核合意」を成立させました。ところが2018年、トランプさんが核合意から離脱し、イランへの制裁を復活させた。これにブチ切れたイランは、ウラン濃縮度をあげていきます。そして、核兵器製造に必要な「90%」に迫っているのです。

『NHK NEWS WEB』3月1日。
〈IAEA=国際原子力機関は、イランの核施設で濃縮度が84%ほどの高濃縮ウランが見つかったとする報告書をまとめました。イラン側は「意図しない濃縮が起きた可能性がある」としていますが、ウランの濃縮度は、90%以上になると核兵器に転用可能とされていてIAEAが状況の確認を進めています。〉
ーー

日本を代表するリアリスト・伊藤貫先生によると、
「イランは年内に核兵器を保有する可能性が高い。しかし、イスラエルは、イランが核兵器を保有する前に戦争を開始する可能性が高い。さらに、アメリカはイスラエルと共にイランと戦うことになる」
というのです。

そうなると、アメリカは、ウクライナと中東で「二正面作戦」になってしまいます。これは、「困った事態」でしょう。しかも、「さらに困った事態」が起こり得ます。何でしょうか?

ウクライナ戦争、中東戦争が起こっているタイミングで、中国が台湾に侵攻したら? アメリカは、「三正面作戦」で勝てるでしょうか? おそらく無理でしょう。

さらに、習近平が金正恩に、「今なら米軍は動けないから、南進して韓国を併合しちゃいなよ!」とそそのかしたら?

ウクライナ戦争、中東戦争、台湾戦争、第2次朝鮮戦争、アメリカは、「4正面作戦」を強いられ、敗北する。こんな悪夢のシナリオが、いま存在しています。

とりあえず、アメリカは、中東戦争が現実化しそうになった時点で、ゼレンスキーに事情を伝え、停戦に動くよう強要するでしょう。

「強要する」というのは、「中東で戦争が起こりそうだから、これ以上支援を継続するのが難しくなる。そうなると、ウクライナの敗北は決定的だぞ」と。こういう状況になると、「落としどころ」は、ウクライナは、ロシアが一方的に併合した4州とクリミアをロシア領と認めない。現在の支配地域で軍事行動をストップして停戦。といった感じになるのではないでしょうか。


(つづく)



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