皆さまは、杉並区に建築士の専門家集団が3つあるのをご存じでしょうか。
杉並建築士事務所協会、杉並建築士会と日本建築家協会杉並地域会です。杉並ではこの3会が合同で杉並建築会をつくり、区との協定の基、まちづくりへのご提言を頂いています。また、私も建築士として参加をし、情報交換をさせていただき、学校建築などに関しても様々な知見を頂いています。
令和元年度には国立教育政策研究所の文教施設研究講演会という「教育革新に貢献する学校空間(教育者と建築家の対話の促進)-海外と日本の事例から-」にお誘いいただき、共に学びに行ってきました。
これは、新学習指導要領で示された,主体的・対話的で深い学びを実践するための学校空間の整備には,教育者と建築家の対話が重要であって、対話による学校づくりを実践した専門家を招き,学校施設整備や学校教育に携わる方を対象として,教育者と建築家の対話を通じたよりよい学びの空間の実現について考える機会となることを目指していると言うものでした。
講演者は、イルドフランスデジタル大学プログラムディレクター John Augeri 氏、メルボルン大学建築学部上級講師 Ben Cleveland氏、設計工房顕塾 代表取締役 柳川 奈奈氏、福井市安居(あご)中学校長 牧田 秀昭氏、福井大学理事・副学長松木 健一氏、そして東洋大学名誉教授 長澤 悟氏でした。
日本ではまだまだ片廊下の南側に大きな窓を取り、正面には黒板、後ろには荷物置き場と子どもたちの美術作品などの掲示、といったレイアウトが一般的ですが、これでは従来の一斉授業には良いかも知れませんが、今後必要とされる主体的・対話的で深い学びの実践の場としては相応しくないという現状があります。
講演会で拝見した海外の事例は、児童生徒や学生同士、そして教育者との対話が生まれる様配慮をした設計となっていること。
そして日本の事例では柳川奈奈さんという建築士の方がご担当された、福井市・二つの学校づくり物語 ―至民(しみん)中・安居(あご)中の事例から―と題して、計画・設計にほぼ5年がかかり、学校の先生や、生徒や、地元の市民とのワークショップを繰返したうえ、「教科センター方式」という教育システムと、 学年を混合したグループの構成という新しい運営方式、そしてこれにもとづく建築の平面構成・構造方式をとった、斬新な建築のご紹介がありました。この中学校は教育関係者、建築関係者からの注目を集め、全国各地から見学者が訪れていて従来にとらわれずにこれからの教育を実践する場としての評価が高いという事でした。
学校建築は自治体の公共施設の中で最も多く、大きな施設で、杉並でも毎年複数の小中学校の改築や改修が進んでいます。学校改築検討懇談会として校長先生やPTA,地域の方々などから構成されたメンバーで懇談会を開催し、その経緯などは「学校の改築・改修、新しい学校づくり」として、ホームページでも公開をしています。
https://www.city.suginami.tokyo.jp/kyouiku/1026695/index.html
私も何回か傍聴に伺いましたが、教育委員会により予め検討課題が絞られた状態からのスタートとなっている為、これからの教育の実践の場としての学校建築であるとか、地域の中での震災救援所としてどういう役割が考えらえれるか、また、ゼロカーボンシティーを目指すための省エネ、創エネ、断熱をどうすれば良いか、公共施設マネジメントという視点で見た場合には学校のみならず、どういう公共の役割を担えるのか、といった幅広い議論までには発展せず、歯がゆい気持ちを抱えていました。
特に、富士見丘小・中学校の改築時には設計者選定をプロポーザル形式で行って欲しいという提言は実現しましたが、ゼロカーボンシティを目指す公共建築物という視点での議論は不十分なままで、課題山積との思いでいます。
その様な中、先日、杉並建築会10周年に当たる講演会として、「学校と地域がつくる学びの未来~よりよい学校施設づくりを目指して」と題した講演会に参加をさせて頂きました。
講師は、冒頭でご紹介した講演会でもご講義を頂いた、長澤 悟氏(東洋大学名誉教授、教育環境研究所所長、国立教育政策研究所客員研究員)でした。
内容は、学校づくりを取り巻く課題、新学習指導要領・令和の時代の日本型教育、GIGAスクールが広げる未来の学びの可能性、新しい時代の学びを実現する学校施設のあり方と全国で取り組みが進んでいる実例を通した設計段階での訴求ポイント、そして、私も杉並区に取り組みを求めてきた公共施設マネジメントの必要性や事例、エコスクール、木質化、そして東日本大震災からの学校の復興、公立学校の設計者選定方式でプロポーザル方式を採用している状況などを伺いました。
内容が濃く、何れも実践に基づいたものばかりで、項目一つずつがどれも興味深く、大学の専門課程を取る位の情報量がありました。杉並区で実現を目指すべき訴求ポイントが全て盛り込まれていた様に思います。
私も議会での一般質問などで提言に繋げて行きたいものばかりでした。
講演会終了後の懇親会にも参加をさせて頂き、長澤先生にご挨拶をさせて頂きました。名刺交換の際に、「二級建築士を独学で取りました。」とお話をしたら大変驚かれていました。そうなんです。インテリアコーディネーターの仕事をしながら、一人暮らしを始めたばかりの頃だったので、専門学校にフルで通う余裕が無く、構造と図面以外は独学で頑張りました。。
そんなこんなをお話しながら、楽しい懇親会となりましたが、学校建築の重要性を再認識して、更に強力に提言をして行きたいと奮起した機会となりました!
今後とも、バージョンアップをして、杉並区に提言をして参ります!