民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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説き語り「源氏物語」 村山 リウ その12 紫の上

2015年11月25日 01時31分52秒 | 古典
 説き語り「源氏物語」 村山 リウ その12 講談社文庫 1986年(昭和61年)

 紫の上―――生涯をかけた愛の果てに

 源氏に最も信頼された完璧な妻。絶対的愛をかちえたと信じても、いわば内縁関係。女三の宮の降嫁を機に不信と絶望を募らせてゆく。

 愛して愛し抜いていく強さと、ふとしたことでくずおれてしまう弱さと、どちらも人の愛であるゆえに表裏一体となってついてまわるものなのでしょうか。
 源氏の君が生涯にわたって愛したただ一人の女性。紫の上は、愛されながら持ち前の聡明さで自己形成に精進した女性です。源氏への愛のために、また自分自身のために、紫の上はだれよりもすばらしい。だれにも後ろ指をさされない女性になろうとしました。
 けれども、そうした精進のすきをつくかのように襲う愛の裏切りと、自分の力ではどうにもならない世の中のならい。幸せなはずの愛は悲しみに色どられていきます。

説き語り「源氏物語」 村山 リウ その11 女三の宮

2015年11月23日 00時14分43秒 | 古典
 説き語り「源氏物語」 村山 リウ その11 講談社文庫 1986年(昭和61年)

 女三の宮―――幼妻のいたいけな愛のゆくえ

 晩年の源氏に降嫁した帝の愛娘。その幼さが源氏を失望させ、柏木との過失を招く。源氏の老いと苦悩を浮き彫りにする正妻。

 歴史の中で、女はいつも生きにくい思いをしてきました。権力を持っていたのが、いつも男だったからです。けれど女であろうとも、自分の意志をはっきり持ち、自分の行動に責任を持った女は、そう不幸な一生を送ってはいません。
 女三の宮は帝の娘という最高の身分。もっとも権力に近い高貴な身分に生まれた女性でした。父帝の限り内愛に包まれて育っています。ところが、ついに自己形成をすることなく、幸せから遠のいた一生を送ってしまうのです。もっとも本人は不幸の自覚すらあまりなかったのですが。
 そしてこの女三の宮の存在が、源氏の君の栄華の裏の苦悩と老いを浮きぼりにしていきます。

説き語り「源氏物語」 村山 リウ その10 玉鬘(たまかずら)

2015年11月21日 00時25分21秒 | 古典
 説き語り「源氏物語」 村山 リウ その10 講談社文庫 1986年(昭和61年)

 玉鬘(たまかずら)―――分別ざかりの中年源氏の前に現れた、夕顔の忘れ形見。源氏の好き心をかわし、前向きに毅然と生きた、賢いマイ・フェア・レディ。

 人の一生の幸不幸は、だれにも予測することができないものです。高貴な身分に生まれたものみなが幸せになるとも限らなければ、不運のうちに育とうとも、自分で道をきり開き、幸せを手にするものもいます。
 数奇な運命をたどりながら、前向きな努力と知性、思慮深さで、幸せに満ちた後半生を送ったのが玉鬘。源氏物語の女性の中で、明石の上さえも越えてもっとも幸せに生きた女性です。こんな玉鬘は、今という時代に放り出しても、立派に生きていかれる女性です。それだけにまた、私たちが学ぶべきろころをいっぱいそなえた女性ともいえましょう。

説き語り「源氏物語」 村山 リウ その9 明石の上

2015年11月19日 00時07分56秒 | 古典
 説き語り「源氏物語」 村山 リウ その9 講談社文庫 1986年(昭和61年)

 明石の上―――中流ゆえの哀しい愛にたえて

 中流の身を厳しく受けとめ、さらに源氏に人間として対等の愛を求めた女性。品性と母としての強い愛で結局安定した人生を送ります。

 愛し、愛されて真実の愛に生きるものは、愛の前に平等です。愛に、身分の差や貴賎があろうはずはありません。けれども愛する二人に身分の差があれば、その真実が通らなかった時代がありました。今でもどこかにあるかもしれませんが・・・。
 その時代、身分の高いことがすべてに優先する時代に、中流の身分の自分を厳しく受けとめ、さらに対等の愛を源氏に求めた女が、明石の上です。彼女は源氏の愛を受けた女の中で、もっとも身分の低い女の一人です。にもかかわらず幸せな人生をまっとうしました。知性と、母としての強い愛で。


説き語り「源氏物語」 村山 リウ その8 槿(あさがお)の君

2015年11月17日 00時34分32秒 | 古典
 説き語り「源氏物語」 村山 リウ その8 講談社文庫 1986年(昭和61年)

 槿(あさがお)の君―――プラトニック・ラブを貫いて

 葵の上亡き後の正妻候補のひとり。結婚が女の幸福を保証しないと考えるこの知性の持ち主はついに源氏の求愛を拒み通す源氏のいとこ。

 源氏の君ほどの人に思いをよせられ求愛されながら、最後まで拒みとおした女性がいます。愛のつらさと男に依存して生きていくつらさを、見抜いていたからこそのことでした。
 その女性を、 槿(あさがお)の君といいます。源氏に執心されながら、とうとう一度もちぎりを結ぶことなく、毅然と生き抜いた女君です。