打ち出の小槌(こづち) 元ネタ 松谷みよ子 「読んであげたいおはなし 下巻」
今日は「打ち出の小槌(こづち)」ってハナシ やっかんな。
いつものように オレが ちっちゃい頃 ばあちゃんから 聞いた ハナシだ。
ほんとかうそか わかんねぇけど ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。
むかしの ことだそうだ。
ある 山すその 村に ばぁさまと せがれが 二人で 暮らしていたと。
せがれは もう 嫁をもらってもいい年だったが、なんせ 貧乏で ばぁさまっていう おまけつきだ、
なかなか 嫁のきてが なかったと。
そんでも 縁っていうもんは あるもんだ。・・・やっと 嫁をもらうことが できたと。
ところが、その嫁っていうのが、最初のうちこそ ばあさま、ばあさま と、
甘い声を 出していたんだけど、
そのうちに(やれ、朝が早すぎる、おら 朝は もっと ゆっくり 寝ていてぇ とか、
やれ、きったねえ、これだから 年寄りは いやだ とか)
せがれに 文句ばっかり 言うように なってきたと。
ある夜のことだ。
ばぁさまが 虱を取っては 噛み潰していると、その音を聞いて、嫁が せがれに 言ったと。
「あにぃ、おらんちのばっさまは どこで見っけてくんだか 米 食ってるだ。
おらなんぞ、年に一度、正月にしか 口にできねえのによ。
まったく あのばっさまときたら、(ああだ、こうだ、ばっさまの悪口を 並べ立てる)
あんな ばっさまは いらねぇ。・・・山にでも 捨ててきてくれ。」
せがれは あまりのことに、「そんなこと 言うもんじゃねえ」って、たしなめると、
さあ 嫁は ヘソを曲げ ヒステリーをおこして 手がつけらんねぇ。
せがれは やむなく(ばあさま 捨ててくれば いいんだんべ)って、言っちまったと。
さて その日になると、嫁は せがれの そでをつかんで 小さい声で、
「あにぃ、山に 捨ててくるだけじゃ ダメだぞ。・・・そんくらいじゃ 戻ってくっかもしんねえ。
いいか、カヤで 小屋 作って、そん中に ばっさまを入れて、火をつけてこい。」
せがれは また ヒステリーおこされちゃ かなわない ってんで、
嫁の言うことなら なんでも 聞くように なっちまって いたと。
せがれが ばぁさまを連れて 山の奥に行くと、カヤを集めて 小屋を作って、
「ばぁさま、嫁の機嫌がなおったら 迎えにくっかんな。それまで この中に 入ってて くれな。」
ばぁさまを 中へ入れると、外から 火をつけて うしろも振り向かねぇで、帰ってきたと。
ばぁさまは(おらぁ、まだ 死にたくねえ)と言って、小屋から はい出して、
(さて、これから どうすんべぇ)って、小屋の焼けた 残り火にあたりながら 考えていたと。
途方にくれたまま 夜になると、わいわいと 誰か やってくる声が 聞こえてきたと。
(あれっ、こんなとこに 人がいるのか)って、見ていると、
小さい子供が 五、六人、やってくるのが 見えたと。
火のあかりで やっと見えるようになって びっくり、なんと 頭っから ツノが生えていたと。
(うん?・・・鬼?・・・鬼の 子供か?)
ばぁさまの 腰っくれぇの ちっこい 鬼で、
人なつっこいのか ちっとも ばぁさまのことをこわがらねぇ。
「こんな時間に 火遊びしちゃ ダメだっぺ?」
「夜になったら 火遊びしちゃ いけねぇって いっつも 言われてるよなぁ。」
「んだ、んだ。」
なんて、かわいいこと 言うんで、ばぁさんも 気を許して ニコッって 笑うと、
鬼の子供は ばぁさまの近くにやってきて、まるで はじめて見る 生きものみてぇに、
じろじろと ばぁさんのことを 見始めたと。
飛び上がって ばぁさんの 顔を見たり、手を引っ張ったり、足を 叩いたり、股の下をくぐったり、
まるで おもちゃで 遊んでるように はしゃいでいたと。
(大人バージョン)
そのうち、一匹の鬼が ばぁさまの 着物のすそを まくったと。
「うわぁー!・・・ばぁさま、そ、それは なんだ?!」後ずさりして 聞いたと。
(むかしのことだ、ばぁさま パンツなんて はいてねぇ)
ばぁさまは おかしくて おかしくて たまらない。
だけど、笑いたいのを 必死でこらえて、
「あー、これか、・・・これはなぁ、・・・鬼の子供を とって食う 口だ。」
って、言うと、「がばっ」って、おおまたを 広げて(な)、
「ちょうど 腹がへってきたとこじゃ、・・・さぁー、ガキども、とって食うぞー。」
鬼の子供たちは おったまげて、・・・腰をぬかしたり、逃げようとして つんのめって 転んだり、
「待って、待って、食わねぇでくれ、・・・その代わり、この「打ち出の小槌」を あげっから。
これを振れば なんでも 願いが かなうんだ。」
そう言って、(鬼の子供たちは)「打ち出の小槌」を放り投げて、山奥へ 逃げて行ったと。
(子供バージョン)
ばぁさまも 孫と遊んでいるような 楽しい時間を 過ごしていたと。
「もう 帰んないと ママに怒られるね。」
「あっ、こんな時間か もう帰らなきゃね。」
「楽しかったね、また遊んでね、バイバイ。」
「これ、お礼にあげるよ。「打ち出の小槌」といってね、これを振ると なんでも 願いがかなうんだ。」
って、「打ち出の小槌」をもらったと。
夜が明けるのを待って ばぁさまが 山を下りていくと 広々としたとこに 出たと。
「よぅし、気に入った。ここに町をつくるべ。
おらには「打ち出の小槌」がある。なんでも 思うがままだ。」
ばぁさまは まず 水を湧き出し 池をつくり、そのまわりに 家を建て、
さらに その外側には 田んぼをつくって、
それから 人間を打ち出し、馬を打ち出し、その他 いろんなものを打ち出し、町をつくっていったと。
そうして 町のもの みんなが しあわせに 生きていける 町が できあがっていって、
そんな町の うわさは あっという間に 広がっていったと。
そんな ある日のこと ばぁさまが 町を歩いていると、
「たき木は いらんかいね、・・・たき木は いらんかいね。」と、たき木売りが やってきたと。
ばぁさまは 遠くから見ても、それが せがれと嫁だって わかったと。
二人して たき木を 背中にしょい 両手には 肩が沈むほどの たき木の束を 持っていたと。
(こんな遠くまで 歩いて来なきゃ なんねぇほどの 貧乏なのか)
すれちがっても せがれと嫁は ばぁさまに 気がつかない。
ばぁさまは 振り返って 声をかけたと。
「そのたき木、おらが 全部 買ってやる。・・・あるだけ おいてけ。」
「ありがとう ございます。」って 言って、顔を あげてみると なんと ばぁさまではないか。
「あれ、まぁ、ばっさま、・・・どうして ここに。・・・」
「なぁに、・・・カヤで作った 小屋に入って 火に焼かれたおかげよ。」
さぁ、家に帰って 嫁のくやしがること、くやしがること。
「なんで 生きてんだ、あのばっさま・・・火 つけてきたんじゃねぇのか。」
って、ヒステリックに叫ぶと、せがれに、わめき続けたと。
「おらもなりてぇ、・・・ばあさまのようになりてぇ。
あんな いい着物 着てぇ・・・うんまいもの 食いてぇ・・・あんな いい家(うち)に 住みてぇ。」
せがれは うんざりしちまって、
「そんだら ばぁさまと 同(おんな)じように してやんべ。」って 言って、
嫁を連れて 山へ 行ったと。
そして、ばぁさまの時と 同じように、カヤを集めて 小屋を作って、
嫁を 中へ入れると、外から 火をつけて 帰ってきたと。
嫁は 焼け 死んじまったと。
おしまい
今日は「打ち出の小槌(こづち)」ってハナシ やっかんな。
いつものように オレが ちっちゃい頃 ばあちゃんから 聞いた ハナシだ。
ほんとかうそか わかんねぇけど ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。
むかしの ことだそうだ。
ある 山すその 村に ばぁさまと せがれが 二人で 暮らしていたと。
せがれは もう 嫁をもらってもいい年だったが、なんせ 貧乏で ばぁさまっていう おまけつきだ、
なかなか 嫁のきてが なかったと。
そんでも 縁っていうもんは あるもんだ。・・・やっと 嫁をもらうことが できたと。
ところが、その嫁っていうのが、最初のうちこそ ばあさま、ばあさま と、
甘い声を 出していたんだけど、
そのうちに(やれ、朝が早すぎる、おら 朝は もっと ゆっくり 寝ていてぇ とか、
やれ、きったねえ、これだから 年寄りは いやだ とか)
せがれに 文句ばっかり 言うように なってきたと。
ある夜のことだ。
ばぁさまが 虱を取っては 噛み潰していると、その音を聞いて、嫁が せがれに 言ったと。
「あにぃ、おらんちのばっさまは どこで見っけてくんだか 米 食ってるだ。
おらなんぞ、年に一度、正月にしか 口にできねえのによ。
まったく あのばっさまときたら、(ああだ、こうだ、ばっさまの悪口を 並べ立てる)
あんな ばっさまは いらねぇ。・・・山にでも 捨ててきてくれ。」
せがれは あまりのことに、「そんなこと 言うもんじゃねえ」って、たしなめると、
さあ 嫁は ヘソを曲げ ヒステリーをおこして 手がつけらんねぇ。
せがれは やむなく(ばあさま 捨ててくれば いいんだんべ)って、言っちまったと。
さて その日になると、嫁は せがれの そでをつかんで 小さい声で、
「あにぃ、山に 捨ててくるだけじゃ ダメだぞ。・・・そんくらいじゃ 戻ってくっかもしんねえ。
いいか、カヤで 小屋 作って、そん中に ばっさまを入れて、火をつけてこい。」
せがれは また ヒステリーおこされちゃ かなわない ってんで、
嫁の言うことなら なんでも 聞くように なっちまって いたと。
せがれが ばぁさまを連れて 山の奥に行くと、カヤを集めて 小屋を作って、
「ばぁさま、嫁の機嫌がなおったら 迎えにくっかんな。それまで この中に 入ってて くれな。」
ばぁさまを 中へ入れると、外から 火をつけて うしろも振り向かねぇで、帰ってきたと。
ばぁさまは(おらぁ、まだ 死にたくねえ)と言って、小屋から はい出して、
(さて、これから どうすんべぇ)って、小屋の焼けた 残り火にあたりながら 考えていたと。
途方にくれたまま 夜になると、わいわいと 誰か やってくる声が 聞こえてきたと。
(あれっ、こんなとこに 人がいるのか)って、見ていると、
小さい子供が 五、六人、やってくるのが 見えたと。
火のあかりで やっと見えるようになって びっくり、なんと 頭っから ツノが生えていたと。
(うん?・・・鬼?・・・鬼の 子供か?)
ばぁさまの 腰っくれぇの ちっこい 鬼で、
人なつっこいのか ちっとも ばぁさまのことをこわがらねぇ。
「こんな時間に 火遊びしちゃ ダメだっぺ?」
「夜になったら 火遊びしちゃ いけねぇって いっつも 言われてるよなぁ。」
「んだ、んだ。」
なんて、かわいいこと 言うんで、ばぁさんも 気を許して ニコッって 笑うと、
鬼の子供は ばぁさまの近くにやってきて、まるで はじめて見る 生きものみてぇに、
じろじろと ばぁさんのことを 見始めたと。
飛び上がって ばぁさんの 顔を見たり、手を引っ張ったり、足を 叩いたり、股の下をくぐったり、
まるで おもちゃで 遊んでるように はしゃいでいたと。
(大人バージョン)
そのうち、一匹の鬼が ばぁさまの 着物のすそを まくったと。
「うわぁー!・・・ばぁさま、そ、それは なんだ?!」後ずさりして 聞いたと。
(むかしのことだ、ばぁさま パンツなんて はいてねぇ)
ばぁさまは おかしくて おかしくて たまらない。
だけど、笑いたいのを 必死でこらえて、
「あー、これか、・・・これはなぁ、・・・鬼の子供を とって食う 口だ。」
って、言うと、「がばっ」って、おおまたを 広げて(な)、
「ちょうど 腹がへってきたとこじゃ、・・・さぁー、ガキども、とって食うぞー。」
鬼の子供たちは おったまげて、・・・腰をぬかしたり、逃げようとして つんのめって 転んだり、
「待って、待って、食わねぇでくれ、・・・その代わり、この「打ち出の小槌」を あげっから。
これを振れば なんでも 願いが かなうんだ。」
そう言って、(鬼の子供たちは)「打ち出の小槌」を放り投げて、山奥へ 逃げて行ったと。
(子供バージョン)
ばぁさまも 孫と遊んでいるような 楽しい時間を 過ごしていたと。
「もう 帰んないと ママに怒られるね。」
「あっ、こんな時間か もう帰らなきゃね。」
「楽しかったね、また遊んでね、バイバイ。」
「これ、お礼にあげるよ。「打ち出の小槌」といってね、これを振ると なんでも 願いがかなうんだ。」
って、「打ち出の小槌」をもらったと。
夜が明けるのを待って ばぁさまが 山を下りていくと 広々としたとこに 出たと。
「よぅし、気に入った。ここに町をつくるべ。
おらには「打ち出の小槌」がある。なんでも 思うがままだ。」
ばぁさまは まず 水を湧き出し 池をつくり、そのまわりに 家を建て、
さらに その外側には 田んぼをつくって、
それから 人間を打ち出し、馬を打ち出し、その他 いろんなものを打ち出し、町をつくっていったと。
そうして 町のもの みんなが しあわせに 生きていける 町が できあがっていって、
そんな町の うわさは あっという間に 広がっていったと。
そんな ある日のこと ばぁさまが 町を歩いていると、
「たき木は いらんかいね、・・・たき木は いらんかいね。」と、たき木売りが やってきたと。
ばぁさまは 遠くから見ても、それが せがれと嫁だって わかったと。
二人して たき木を 背中にしょい 両手には 肩が沈むほどの たき木の束を 持っていたと。
(こんな遠くまで 歩いて来なきゃ なんねぇほどの 貧乏なのか)
すれちがっても せがれと嫁は ばぁさまに 気がつかない。
ばぁさまは 振り返って 声をかけたと。
「そのたき木、おらが 全部 買ってやる。・・・あるだけ おいてけ。」
「ありがとう ございます。」って 言って、顔を あげてみると なんと ばぁさまではないか。
「あれ、まぁ、ばっさま、・・・どうして ここに。・・・」
「なぁに、・・・カヤで作った 小屋に入って 火に焼かれたおかげよ。」
さぁ、家に帰って 嫁のくやしがること、くやしがること。
「なんで 生きてんだ、あのばっさま・・・火 つけてきたんじゃねぇのか。」
って、ヒステリックに叫ぶと、せがれに、わめき続けたと。
「おらもなりてぇ、・・・ばあさまのようになりてぇ。
あんな いい着物 着てぇ・・・うんまいもの 食いてぇ・・・あんな いい家(うち)に 住みてぇ。」
せがれは うんざりしちまって、
「そんだら ばぁさまと 同(おんな)じように してやんべ。」って 言って、
嫁を連れて 山へ 行ったと。
そして、ばぁさまの時と 同じように、カヤを集めて 小屋を作って、
嫁を 中へ入れると、外から 火をつけて 帰ってきたと。
嫁は 焼け 死んじまったと。
おしまい