民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「中高年のための文章読本」その16 梅田 卓夫

2014年11月21日 00時05分55秒 | 文章読本(作法)
 「中高年のための文章読本」その16 梅田 卓夫 著  ちくま学芸文庫 書き下ろし 2003年

 「少年少女時代までさかのぼって」 P-252

 こどもの頃の感性、それは人間に本来備わっている能力のめばえです。
この、夢み、遊び、想像する、デリケートな能力は、めばえ成長しはじめる段階で、実利的なもの、直線的で、有無を言わせぬもの、とのあいだに軋轢(あつれき)をおこし、多くの場合やがて摩滅し、かげをひそめていくのです。

 創造的な文章を書くためには、これをよみがえらせなければなりません。
大人になり、年齢を重ねるなかで獲得し、積み上げてきたもの、特に<ことば>や文章に関する知識・教養・覚えたことをいったんは故意に忘れて、少年少女の「無」のこころを思い出して、新たに対象を見つめなおすのです。
これが<頭>の活性化です。
こどもの頃の感性のよみがえりは、自分の精神的な生まれ変わりの実感として、よろこびをともないます。

 人間は本来そういう能力(こどもの感性)を持っています。
うまくレッスンすれば、それほどむつかしくなく、回復することも、維持することも、さらに磨きをかけることも、できるのです。

 創造的な文章のなかには、そういう磨きをかけられた能力がはたらいています。
それは、実利と能率を中心とする生活習慣によってもたらされた、人間や社会や自然を見る目を見開いてくれるのです。
これが、創造的な文章を書き、読むことの<よろこび>の本質です。