民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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 樋口一葉「いやだ!」と云ふ  田中 優子 その3

2015年09月05日 00時10分01秒 | 古典
 樋口一葉「いやだ!」と云ふ  田中 優子(1952年生まれ) 集英社新書 2004年

 はじめに その3

 五つの代表作『大つごもり』『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』『わかれ道』の一部をのぞいてみよう。『たけくらべ』――「私は厭(い)やでしようがない」「厭や厭や、大人になるは厭やな事」。『にごりえ』――「ああ嫌だ嫌だ嫌だ。どうしたなら人の声も聞こえない、物の音もしない、静かな、静かな、自分の心も何もぼうつとして、物思ひのない処へ行かれるであらう。つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情ない悲しい心細い中に、何時(いつ)まで私は止められてゐるのかしら。これが一生か、一生がこれか、ああ嫌だ嫌だ」。『十三夜』――「どうでも厭やになった」「考へれば何も彼も悉皆(しつかい)厭やで、お客様を乗せやうが、空車(から)の時だらうが、嫌やとなると用捨なく嫌やになりまする」。『わかれ道』――「己れは厭やだ」「ああ詰まらない、面白くない、・・・一日一日嫌やな事ばかり降って来やがる」
 一葉作品の登場人物たちは、じっとうつむいて我慢したりしない。「いやだ!」と叫んで次へ行く。彼らは、一葉自身である。