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「穏やかな死に医療はいらない」 その3-2 萬田 緑平

2016年01月15日 00時54分05秒 | 健康・老いについて
 「穏やかな死に医療はいらない」 その3-2 萬田 緑平  朝日新聞出版 2013年

 フルコースの延命治療 その2 P-20 (フルコースの延命治療 その1の続き)

 外科医だった頃、僕は苦しくて悲しい死ばかり見てきました。
 おそらく病院医師の多くは、穏やかな死というものを知りません。病院にいる限り、治療をやめた患者さんを診ることはないからです。
 なぜ病院では穏やかに死ぬことができないのか――。
 そこにはたくさんの理由がありますが、一つは病院は「病気を治す場所」であり、病院医師は病気を治すことを第一に考えているからです。
 もちろん、病気は治したほうがいいのです。年を取れば人は亡くなります。そもそも、年を取れば病気になるのがふつうです。でも病院医師には、「老衰死」「自然死」という発想がありません。死にそうな人を見ると、何かしらの治療をせずにはいられないのです。
 今、日本人の八割は病院で亡くなるといわれています。そして病院でなされる終末期医療のゴールは、危篤状態における「フルコースの延命治療」です。

 呼吸状態が悪化して息が止まりそうになると人工呼吸。口からチューブを入れる気管内挿管。さらに呼吸が悪化してくれば、気管切開をして酸素を送り、血圧が下がって心臓の動きが止まりそうになったら、昇圧剤(強心剤)を点滴します。今ではさすがにそこまでする病院は少なくなりましたが、二十年前は当たり前のように行われていました。
 そのままでは数日ももたないような患者さんでも、こうした延命治療をすれば半日から一日、長い方なら一週間くら余命を長引かせることができます。しかしそれは単に「息を止めさせない」「心臓の動きを止めさせない」というだけ。ほとんどの患者さんには意識がありません。意識がある患者さんはみんな苦しそうでした。危篤の時間を、わざわざ長引かせているのです。

 後略

 萬田 緑平(まんだ りょくへい)
1964年生まれ。群馬大学医学部卒業。群馬大学付属病院第一外科に所属し、外科医として手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行うなかで終末ケアに関心を持つ。2008年、医師3人、看護師7人から成る「緩和ケア診療所・いっぽ」の医師となり、「自宅で最後まで幸せに生き抜くお手伝い」を続けている。


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