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「屁一つで村中全滅」 加藤 嘉一

2014年05月13日 00時09分44秒 | 民話(昔話)
  全国昔話資料集成 18巻 編者 加藤嘉一(かいち)・高橋勝利 岩崎美術社 1975年
 
 下野茂木(もてぎ)昔話集 加藤 嘉一 編

 「屁一つで村中全滅」

 昔、ある村に屁っぴりの娘がありました。
あんまり屁を放(ひ)るので、
「こんな悪い病気のある娘は一生嫁にも出られない」
と、両親は心配していました。

 ところが、隣村のお大尽様から不意に嫁に貰いたいと話がありましたので、
こんな良い縁はないと早速承知しました。
 
 いよいよ輿入れという時になって、母親は娘を呼んで、
「嫁に行ったら十分気をつけて、決して粗相なことをしてはいけません」
と、言って聞かせました。

 四、五日の間は我慢に我慢をしていましたが、もうどうすることもできず、
思わずブーと一つやってしま(え)ました。(茂木では(い)を(え)と発音する)
娘はくれぐれお母さんにも言われたのにと思うと、
「この先追い出されもされたなら、それこそ顔向けがない」
と、心配して、とうとう村の大池に飛び込んで死んでしま(え)ました。

 すると、その婿様は、
「屁一つぐらいであんないい嫁を殺してしまって、申し訳ない。自分もお供をして死んでしまう」
と、やはり池に飛び込んで死んでしま(え)ました。

 嫁と息子に死なれた両親は、
「頼りにする子供たちに死なれて、何でこの世に楽しみがあろう」
と、また続いて死んでしま(え)ました。

 すると、
「村のお大尽様が死んでしまっては、この村にいても暮らしようがない」
と、村の人々は皆んな池の中に飛び込んで死んでしま(え)ましたので、
たちまち村は全滅になってしまったということです。

 加藤嘉一(かいち)明治35年、栃木県芳賀郡茂木町に生まる。栃木県師範学校卒業後、足尾、
黒磯、大田原、茂木、益子各小学校教員のかたわら民俗資料を採集し、雑誌「旅と伝説」などに寄稿。
昭和20年2月、満州にて死亡。著書に童話集「ひとつ星」など。

 昭和10年の頃、加藤嘉一さんが採集した話のようです。
こうしてたった一人の努力によって昔話が伝わる地域があるんですね。
 この本ではほかに栗山村の話、高橋勝利 編、
常盤村(ときわむら、合併して葛生町)の話、箕輪田良弥 編が収録されている。

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2 コメント

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RE 面白いのに深い! (akira)
2014-05-15 21:25:57
 県立博物館で毎年、テーマを決めて「栃木の民話語り」をやってるんだけど、
去年のテーマは「化(ばける)」で、今年のテーマは「屁」に決まりました。
「屁」のハナシはたくさんありますね。 

 以前、民話の先生に教わったことがあります。
「屁」の話をする時は気をつけろ。
たいてい受けるから自分がうまくなったと錯覚してしまう。

 そんなこともあって、私は「屁」の話をするのに抵抗があります。
そのうち自信がついたらやってみたいですね。
なんてったって、「屁」の話はおおらかで痛快なものが多いですから。
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面白いのに深い! (MAYU)
2014-05-15 11:35:34
体調が落ち着いてきたのでやってきました(笑)

この昔話、面白いですね!
子ども達が聞いたら喜びそうです。

夫がブーブーうるさいので困ったものだと思っていたのですが、
この昔話を読んだら、そのくらい寛大にならないとなぁと思いました。

昔話っていろいろあるんですね。
私はこぐま社の『こどもに語る~』シリーズとか、東京子ども図書館の『おはなしのろうそく』など、メジャーな物ばかり読んでいましたが、
こういう面白い昔話を読むと、全集みたいなところからひっぱってくるのもいいなって思いました。

こんな面白い昔話に、小さい頃出合いたかったな・・・
でもあのころは、新しいものがいいとされていた時代だったので、
一般の人にとっては、昔話は時代遅れと思われていたのかもしれません。
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