陽だまりのねごと

♪~思いつきひらめき直感~ただのねこのねごとでございますにゃごにゃご~♪

片麻痺にも負けない

2010-04-17 07:05:38 | Weblog
散髪業を営む傍らセッセと編み物をしている人を知った。
どこの駅前商店街も閑古鳥。
シャッター通りを活性化しようという商工会議所主体のプロジェクトがあって
夫亡き後、あわてて勤めた販売員パートも上手くゆかず家にくすぶっていた時、
人呼びのための休憩サロンを空き店舗に作るから、そこの管理人をしてはどうかと声がかかった。
半年間のお試し企画で、家に一人居てもロクな事を考えないわけでお手伝いすることにした。

ただ人を待っていても人は来ないので、いろいろ展示企画やイベントを行った。
その時、商店街の人の手芸品を展示販売しようということで、手編みセーター類が運び込まれた。
商売っけなしの糸代程度のお値段だったからよく売れた。
30枚くらい売れただろうか?展示品が売れてなくなると自宅から次を持ってこられる。
いったい何枚のストックがあるのだ!一枚作るのに普通、何日もかかるのに。
散髪屋をやりつつ、とにかく時間が空けば手を動かしている働き者。
実にさっぱりした今の草食系男子よりいっぽど男らしい気風の良い人だった。

企画終了時に私の為にボレロとベストを「お礼に」と編んで下さった。
お礼はこっちだ。サロンにおかげさまで足を運んで下さる方が増えたのだから。

この方に2年後にばったり再会。
スーパーのレジを通った台で車いすの人が不自由そうに商品を袋詰めされていた。
どうも似ているとまさかと思う目と目が合った。
やっぱり彼女だった。
「動くところは動かさないとね」と自由に回らなくなった口で言われ
袋詰めが終わったら、介助の妹さんに押される事なく車いすを自走で去られた。
脳梗塞後遺症。しかも利き手の右片麻痺。
あの元気いっぱいの人がどうして?とショックで頭を殴られた感じ。
もう二度と編み針が持てない。
生きがいのようにされていた編み物はおろか日常生活のご不自由も測り知れない。
編んで頂いた品はさらに宝物になった。

あれからまた数年経過。
左片麻痺の利用者さんにデイサービスに行きたくない理由を聞きにお伺いしていたら、
来てから帰るまでずっと片手でパッチワークをしている人が居て
その人は駅前で散髪をしていた女性で、右片麻痺。
動かない右手で布を押さえて左手で縫っておられると言う話になった。
どこか彼女に似ていると思ったけれど、名を聞くわけにはいかない。
あれからどうされているか気になっていた彼女だったらとドキドキしながら、仕事がらみだ。
余計な事は聞けない。
「○○さんに頼まれて型紙を布に書き写した。」とポロっと名が出た。
もしや下の名は「○子さん?」
職域越えて聞いてしまった。やっぱりだった。
その方には何曜日に出会われるのかと更に余計な事を尋ねたら、週一利用がちょうど今日。

担当利用者さんがデイサービスに行きたくない理由はデイ職員が把握している範疇だったと
本来、電話報告で終わるところ、お宅を辞した足でデイサービスへ向かってしまった。
彼女に猛烈に会いたくなった。もうここからは仕事にかこつけた私用だ。
一通り責任指導員さんと仕事の話を終えて、彼女へ面会をお願いした。
私の利用者さんの話のとおりパッチワークがテーブルに広がっている。
面差しはちょっと痩せて変わってはいない。
「おひさしぶり」と言うとすぐに分かってもらえた。
パッチワークは効き手でない左で縫ったとは思えないほど縫い目が揃っている。
前の席の方も布を広げて居られた。
「私が教えたの。おなじ片麻痺だから、やり方をね。」
縁かがりのしつけのまち針か口に咥えて、何度も何度も失敗して繰り返して1本を打たれている最中だった。
ものすごい努力で針1本が打たれるのだ。
針に糸が通りにくくなったの肩が凝るのと針を持つの事から遠ざかっている自分が恥ずかしくなった。
「歩く姿を見て」と立ち上がられるのに思わず手を貸そうとして「大丈夫」と拒否された。
そう『できることは自分で』と常日頃口にしている私はケアマネ稼業だった。
ふたたび恥入る。

壁の80センチ×50センチくらいの五月人形のタペストリーは自分の作だと見せてもらった。
常人でも揃わない縫い目がピタっと決まって細かい。
完成まで半年かかったそうだ。
あのセーターを編んでいた馬力がまるで衰えていない。
彼女のパワーがおなじデイサービスの人に伝播までしている。

仕事中ゆえ、長居はできない。
早々に別れと再会の喜びを告げたら玄関までお見送りを受けた。
麻痺足の装具を見せて、「こんなのが居る身になるなんてね」
でも次には
「忙しくしていたから、今は楽隠居よ。好きなことだけして過ごしてるからね。」
全然、むかしの彼女と変わっていない。
車に乗ってデイサービスのガラス窓へ目を向けると、まだ彼女が手を振ってくれていた。

なんだなんだ私の生き様は。
彼女にものすごく恥ずかしくなった。
すごい人から貰った手編みを取りだしてさすって、写真に収めてまた丁寧に仕舞っておいた。