気の向くままに

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怪物たちの甲子園 

2015-08-19 14:33:14 | 日記

 昭和59年、夏の甲子園の決勝は、2連覇をめざすPL学園(大阪)と取手二高(茨城)の組み合わせだった。圧倒的に有利といわれていたPL学園は、延長戦で敗北を喫する。

 ▼桑田真澄投手は、その原因をさぐろうと、大会後に一人で取手二高に出かけていった。練習を視察して、選手の家に泊めてもらったという。最近のテレビ番組で、桑田さんが明かしたエピソードだ。

 ▼桑田さんは前年の大会で、1年生ながら2本のホームランを放っている。早実(西東京)の清宮幸太郎内野手(16)が、32年ぶりにその記録に並んだ。打率はなんと5割。報道陣とのユーモラスなやりとりも、人気に拍車をかけている。

 ▼もう一人、やはり準々決勝でホームランを打った関東第一(東東京)のオコエ瑠偉(るい)外野手(18)は、俊足と守備の美技でも観客を魅了する。今日準決勝を迎えた高校野球100年の記念大会は、「怪物」たちの活躍で空前の盛り上がりを見せている。どんな環境が才能を開花させたのか。家庭や学校を「視察」したいものである。

 ▼バイオリニストの千住真理子さんは、中学生のころから、怪物ならぬ「天才少女」と呼ばれ続けてきた。その重圧に疲れ果てて、しばらくバイオリンから離れた経験をもつ。ある日ボランティア団体の依頼で、ホスピスで演奏することになった。散々な出来栄えだったが、死と向き合う患者さんたちは、目に涙を浮かべて「ありがとう」と言ってくれた。「一人でもいい。こんな私の音を聴きたいと言ってくれる人のために弾きたい」。心の叫びが復活のきっかけになったと、エッセーに書いている。

 ▼重圧などとは無縁の甲子園の怪物たちにも、その活躍を心の支えにしている人たちが、きっといるはずだ。

8月19日 【産経抄】