気の向くままに

終着はいつ、どこでもいい 気の向くままに書き記す

「多くの言葉で少しを語るな。少しの言葉で多くを語れ」

2015-08-28 14:14:19 | 日記


 いつの世も探求心に足の生えたような人はいる。50歳を前に隠居して江戸に出た伊能忠敬は、天文・暦学に精を出し、地球の円周を測る作業に熱を上げた。アナログの手法である。浅草-深川間の距離を歩いて測り、天体の位置をからめて割り出した。約3万5500キロという。

 ▼約200年前の事績と考えれば、11・7%の誤差はわずかと言ってよい。後に全国測量を重ね、日本地図を世に出す忠敬は、約4万100キロという数値にもたどり着く(『素顔の科学誌』東京書籍)。100キロ足せば現代の科学が出した答えに合う。驚くほかない。

 ▼後半生を壮大な実験にささげた忠敬は、泉下で嘆いていようか。中学生の「理科離れ」が顕著になった。文部科学省が公表した全国学力テストの結果などによると、「理科が好き」と答えた小学6年生は8割を超えているのに、中学3年生では6割まで減っている。

 ▼学年が上がるにつれて数学の要素が加わり、理解を妨げる面はあろう。幼少期の工作や砂遊びなど、生活体験の不足も「理科離れ」につながっていると言われて久しい。わずかな刺激で子供の探求心はうずく。芽吹いても根腐れさせる環境を、放置してはいないか。

 ▼ニュートンいわく「真理の大海は未発見のまま目の前に横たわっている」。はるか上空では、油井亀美也さんが宇宙という広大な未知に臨んでいる。国際宇宙ステーションで行われる数々の実験が、子供の探求心をくすぐればいい。

 ▼昔は文系も理系もなかった。「多くの言葉で少しを語るな。少しの言葉で多くを語れ」と述べたのは数学者にして哲学者のピタゴラスである。「理科離れ」を止める一助にと書き進めた本稿は、多弁にして筆及ばず。忠敬の渋面が目に浮かぶ。

8月28日 【産経抄】

 

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