リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

米・共和党はトランプ氏から保守を取り戻せ

2020-11-10 | 政治
予想外の大接戦となった米大統領選は、バイデン氏が勝利宣言をしたが、トランプ大統領はまだ敗北宣言をせず、最高裁まで争う構えを見せている。開票序盤でのトランプ氏のリードが、開票が進むにつれて魔法のように消えたというトランプ氏の不満はわかるが、開票に時間がかかる郵便投票で民主党支持者の郵便投票が多いことははじめからわかっていた。
もちろん不正が行われた証拠があれば対処は必要だが、開票監視員が排除された旨の訴えの内容が具体的でないとか、投票用紙到着の日付を変えるよう指示された職員がいるとの陳述が単なる伝聞だとかで、開票中止の訴えは却下された。トランプ氏は法廷闘争を続ける構えだが、きちんとした証拠を示さずに不正があったと大統領が訴えることは、選挙そのものへの信頼をゆるがすとして、身内からも批判が出ている。
共和党政権下で検察官などだった19人は「根拠のない詐欺の主張や、投票の集計を止めるための訴訟を警告することは明らかに不適切で、選挙手続きに関する法の支配を揺るがす危険がある」という声明を発表した。トランプ氏に近いクリスティー前ニュージャージー州知事も「証拠を何も聞いていない。情報を与えずに炎上させるだけだ」と、トランプ氏の「不正」発言を批判している。かねてトランプ氏に批判的な共和党のロムニー上院議員も「すべての表を集計するのは民主主義の核心だ」とツイートしている。(朝日新聞2020-11-8)ブッシュ元大統領(子)はバイデン氏に電話をして祝福し、「今回の選挙は根本的に公正であり、結果は明白だ」との声明を発表した。トランプ氏の女婿クシュナー大統領上級顧問や妻メラニア氏も落選を受け入れるよう説得しているという。その一方、トランプ氏の長男ジュニア氏と次男エリック氏は法廷での徹底抗戦を主張しており、トランプ氏の主張に同調する議員もまだ多い(朝日新聞2020-10-10)。(ちなみに、エリック氏は、トランプ氏への投票用紙が燃やされているという偽の動画をリツイートしてアカウントを停止された(CNN)。)

保守でもいい。「アメリカ第一」だって私はある意味当然だと思っている(過去ブログ)。だがトランプ大統領のように、次々に事実に基づかない主張を繰り返したり、分断どころか暴動をあおるかのような発言をしたりするのは保守ではない。自国の利益を主張するのは当然としても、同盟国に対して一方的に脅迫まがいの要求をつきつけたり、国際協調の場から撤退したりするのも長期的には決してアメリカのためにはならない。トランプ政権発足当初は共和党上院議員にもトランプ氏に批判的な人はかなりいたが、保身のために黙らせられたと報道されていたと思う。共和党の良心的な人々は、トランプ氏の「民主党が選挙を盗んだ」という主張にくみせず、平和裡な政権移行に協力してほしい。
その点、トランプ氏の専横に良心的なアメリカ人が必ずしも追随しなかった前例は多く、希望が持てる。トランプ大統領が目の敵にする郵便投票では、米郵政公社の総裁デジョイ氏がトランプ氏と親しく、郵便を崩壊させる「組織改革」を進めるのではと危惧されたが、デジョイ氏は大統領選が終わるまでは「改革」は凍結すると宣言した。かなり前に保守派が過半数となった最高裁でもトランプ氏に都合の悪い判決が次々に出ているという(過去ブログ)。トランプ政権では発足以来、側近や政権幹部が次々にやめている(昨日は、人種差別に抗議するデモ鎮圧のための軍派遣をめぐって対立していたエスパー国防長官が解任になった(朝日新聞2020-11-10夕刊))。
大統領選直前に駆け込みで任命された保守派の最高裁判事バレット氏も、(建前なのかもしれないが)「法の支配にこだわる」(BBC)と述べている。トランプ大統領は保守派多数となった最高裁に望みをつないでいるようだが、バレット氏をはじめ最高裁判事が法律の専門家として公正な判断をすることを期待したい。
それにしても、万一バイデン氏が失言などで反発を買うようなことがあれば、「保守派」が党派的な行動をとりやすくなる。バイデン氏も、「トランプでないから」当選できたということを肝に銘じ、気持ちを引き締めて政権移行の準備を進めてほしい。

気がかりな関連記事:
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追記:トランプ陣営は支持者には「開票をやめさせる提訴をした」などとして献金を求めるメールを送り続けているが、すでに敗訴した件のメールもある。献金を求めるホームページの注意書きには、「献金の60%は『セーブ・アメリカ』に、40%は共和党全国委員会(RNC)に割り当てられる」とあるのだが、セーブ・アメリカというのはバイデン氏の当確が報じられた後の11月9日になってトランプ陣営が登録した政治団体だという。このことから、訴訟連発は献金集めの名目であって、トランプ氏のねらいはすでに次の大統領選に向けられているとの観測もある。(朝日新聞2020-11-14
今回の大統領選の「不正」の訴えは根拠のないものったとしても、4年後の大統領選に立候補するのは法律上何の問題もない。今回メディアの予想に反してトランプ氏が善戦し、投票率が上がったこともあって4年前よりも多くの票を獲得したことは、トランプ氏に共鳴する人の多さを裏付けている。「トランプでないから」という理由の支持が多かったバイデン氏とは対照的だ。私は大統領就任前にバイデン氏が失言して世論の空気をトランプ寄りにしてしまうことを懸念していたが、就任後も、何か失敗すれば「それみたことか」とトランプ氏に攻撃させることは目に見えている。よほどうまくやらないと次の大統領選で第二次トランプ政権を防止するのは難しいかもしれない。
問題は共和党だ。共和党の良識派がトランプ氏を候補にしなければいいのだが、多くの共和党関係者はいまだトランプ氏の訴訟連発に対する批判を避けているという。共和党にも40%がわたる献金を集めることで、トランプ氏自身が立候補するかどうかは別として、共和党に影響力をもてる。
やはり「トランプ」を求めるアメリカ国民がいる以上、4年後に対する不安はなくならない。

追記2:トランプ大統領もようやく政権移行に向けた手続きを承認したようだ。一般調達局(GSA)という、選挙結果を確認し政権移行に必要な予算などを提供する権限のある役所のエミリー・マーフィー長官がバイデン氏に書簡を送付し、選挙結果への明言は避けつつ、連邦政府として政権移行に向け資金を提供するなど協力することを伝えた。トランプ氏もツイッターで「最初の手順について必要なこと」をするよう提言したと述べた。(朝日新聞2020-11-25同3面)。
だがトランプ氏は「我々は勝つと信じている!」とも書いており、いまだ法廷闘争を続ける構えだ。負けを認めてはいないのに政権移行の手続きを認めるのは、マーフィー氏が脅されており、その家族やGSAの職員にも脅迫が及ぶことを避けるためだったと言っている。おそらくいつもの放言だとは思うが、仮にそうであれば、その点こそ、証拠を示して断固抗議すべきではないか。
実際には法廷闘争でも敗訴が続き、バイデン氏の勝利を認める共和党議員も増えてきたこと、経済界でもトランプ氏への批判が強まってきたことなどから、トランプ氏としても移行手続きを進めざるを得なくなったのだろう。マーフィー氏も「法的な異議申し立てや認定の進展」を理由として挙げている。
とりあえずは政権移行が滞りなく進むことを祈りたい。

追記3:12月に行なわれた選挙人(11月の一般投票により各州で選出された)による投票の集計が1月6日に連邦議会で行なわれるが、150人以上の共和党議員が異議を申し立てる意向を示す異例の事態になっている。トランプ大統領はまだ負けを認めていない。
接戦で2回も再集計した末にバイデン氏が1万1779票差で勝ったジョージア州の選挙責任者ラフェンスパーガー氏に対し、トランプ大統領は「私が望んでいるのは1万1780票を見つけることだけだ」と、結果を覆す票を要求し、氏が不正を知りつつ容認しているとして「これは犯罪行為だ。あなたと、あなたの弁護士にとって大きなリスクだ」と脅迫まがいのことまで言った(電話の録音が明らかになったというが、ラフェンスパーガー氏が録音して公表したのだろうか)。氏はもちろん要求に応じなかった。ジョージア州にはトランプ大統領は繰り返し圧力をかけていて、要求に応じないケンプ州知事(共和党)に辞任を求めたこともあるという。(朝日新聞2021-1-5
トランプ大統領の周辺では選挙結果を覆すために戒厳令を発動する案が出たこともあるという。歴代国防長官10人が「米国の選挙結果を決めるにあたって、米軍が果たす役割はない」と、軍を動員する動きを牽制する声明をワシントン・ポストに寄稿した。「選挙結果を問う時は過ぎた」として現職のミラー国防長官代行らに平和的な政権移行に協力するよう求めた。声明には存命の国防長官経験者全員が加わっており、共和党政権での元国防長官も含まれる(トランプ政権のマティス、エスパー両氏も)。(朝日新聞2021-1-5

追記4:トランプ大統領ににらまれると次の選挙で落選させられるから共和党議員がトランプ氏の言いなりにならざるを得なかったという話は聞いていたが、実際、議会選に向けた共和党の予備選で、トランプ大統領が自分に忠誠を誓う新人を支持することで、批判的なベテランの現職を落選させてきたそうだ(朝日新聞2021-2-16)。記事は、今後も同じようにする可能性があるというが、大統領の座を去っても資金力に物を言わせて影響力をふるうということだろうか。



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