長島 潤 Sing a mindscape

jun nagashima singer-songwriter

国木田独歩「号外・少年の悲哀」

2021-06-14 14:59:00 | 

再読のための覚え書き


号外・少年の悲哀

国木田独歩(1871-1908


「窮死」

日雇い労働者の文公は、胸を患い、所持金もなく、宿も失う。そんな彼に、周囲は温かい手を差し伸べるのだが……


「少年の悲哀」

少年が、下男の徳ニ郎に連れられて行ったのは、遊郭の女の部屋。女の弟が少年に似ているので、一目会いたいという女の希望だった。そして女は、数日後に朝鮮の遊郭に売られていく。徳ニ郎は、そんな女を救うことができない。大人たちの哀しみが、少年にとっていつまでも忘れられない哀しみとなる。


6編収録


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どうにもならない苦境に置かれた人々の姿。切り取られたその数時間、数日間が淡々と描かれ、やがてそれらが静かに諦観となってゆく。



2021.6.14読了


岩波文庫

昭和14417日初版発行

昭和4583025


# #読書 #文学 #文庫 #国木田独歩 #号外・少年の悲哀






スティーヴンスン「ジーキル博士とハイド氏」

2021-06-13 15:30:00 | 

ジーキル博士とハイド氏

スティーヴンスン 1850-1894

岩田良吉訳


ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」と並ぶ、古典ホラーの名作。「ジキルとハイド」は二重人格を表す代名詞だが、今まで原作を読んだことがなかった。


人間は、善と悪の不調和な混合体。それが二つに分かれることができた時、理性はどちらの側につくのだろうか。最後の章である「ジーキルによる事件の詳述」は、その答えを出すのに逡巡しているようにも思われる。



2021.6.13読了


岩波文庫

昭和10415日初版発行

昭和4661038


# #読書 #文学 #文庫 #スティーヴンスン #ジーキル博士とハイド氏






永井荷風「つゆのあとさき」

2021-06-12 11:11:00 | 

つゆのあとさき

永井荷風(1879-1959


カフェの女給として自由奔放に生き、様々な男たちと関係を持つ君江。その君江を愛人に持つ作家清岡進と、内縁の妻の鶴子。描かれるのは男女の駆け引き。


妖婦のような君江に群がる男たちにはジメついた執着があり、反して君江は、生と性を謳歌するからりとした明るさがある。


往時の東京の風物を背景に、夜の男女が繰り広げる心理劇がおもしろかった。



2021.6.11読了


岩波文庫

1987316日改版第1刷発行


# #読書 #文学 #文庫 #永井荷風 #つゆのあとさき






木村素衛「花と死と運命」

2021-06-11 09:56:00 | 

花と死と運命

木村素衛(1895-1946


木村素衛(哲学者・教育学者)の、病と闘った晩年の日記。


「私はこの様に美しく神秘な自然の荘厳を見るとき、時が来て花が何の未練もなくひらひらと散つて行つて行く様に、人間も亦その自然の死を、あの様に未練なく受けて行つていいものの様に思ふ。自然がこのように美しく神秘に出来てゐる事をしみじみ見るだけで、その自然の中に生れた人間もこの自然に充分な信頼をつないでこの一生の終りを托し切つていいものだと思ふ。心安さが生れる。霊は滅か不滅か知らない。それを問ふよりも問はないところに絶対の信頼がこの実在に向つてかけられているのではないか」


「人生の真実は実践である。人生は行の世界である。祈りは一つの行なのである。それは真実に人間が願ふべきものが何であるかを本当にはつきり知る事の行なのである。つまり祈りに純真に徹して行けば、祈りが祈りを洗ふのである。真実の祈りは内なる運命を変える事ができるに違ひない」



2021.6.10読了


アテネ文庫

昭和23325日初版発行

昭和2912156

旧仮名遣い


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ハンス・カロッサ「ドクトル・ビュルゲルの運命」

2021-06-10 13:55:00 | 

ドクトル・ビュルゲルの運命

ハンス・カロッサ(1878-1956

手塚富雄訳


青年医師ビュルゲルは、病める者たちの苦悩を、自分の良心に引き受けずにはいられない。そして、肺病を患った未亡人ハンナとの出会いは、ビュルゲルを医師としての葛藤に追い込んでゆく。


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日記と詩によって構成された作品。作者のカロッサは開業医、作家、詩人。


医師とは何か、医業とは何か、苦悩の中から汲み取られた言葉の数々は、みずみずしくも哀切を感じさせる。


2021.6.9読了


ドクトル・ビュルゲルの運命

岩波文庫

195315日初版発行

1976102017


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